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(図7)
 これは横連窓の建物です。横連窓を選択すると、設計者の方は皆さん自動的に部屋の中途半端な位置に柱を立てますね。残りはキャンチレバーを出すと、柱と窓の間に何とも言えない微妙な空間ができますが、これに違和感を全く覚えない設計者の方が圧倒的に多い。ここに何が置けますか。多分部長さんのゴルフバッグぐらいなものです。これが仮に丸の内にあったとしたら、この柱の断面、それから微妙な空間に坪4万円を本気で払いますか。こういう指摘をされないようにしたい、と思うのです。
 

(図8)
これも困った。窓があって奥行きの深いペリカウンターがあります。これも同じだけの賃料を取っているのです。それは取っている方が悪いだろうと言われたら、そのとおりなのですが、壁の芯で面積を起算するのが業界のルールです。業界のルールを変えればいいのですが、我々がどうあがいてもなかなか変わらないので、奥行きの深いペリカンターがないほうがいい。極力ペリカウンターを薄くするべきです。
坪何万円か取られるペリカウンターには、結局植木鉢しか置けない。植木鉢を置くと、吹き出しのところをふさいで、メンテナンスのときに「メンテナンスできません」と怒られる。でも、賃料を払っているのです。こういう、うそつきとまでは言いませんが、ちょっと目利きの管理マネジャーが借り手側にいたら、「そんなビル、ちょっとどうかと思うね」というふうになります。そこで、先ほどみたいなフロア・ツー・シーリングのガラスでというパターンになりがちなのですが、それはそれでキャンチレバーみたいなことが普通にあって、柱から窓枠までという何とも言えないデッドスペースをつくり出してしまう。そこまでして横連窓やガラス板でやらないといけないのかということを、我々は単純な疑問として持っているわけです。
(図9)
ここは、ダブルスキンの間が妙に幅広い場合です。さすがに賃料を取っていないと思うのですが、人が通れるくらいある。こういう光景がよくあります。ここはグレーチングなので、さすがに賃料は取っていないと思いますが、こんなデッドスペースが本当に要るのか。ここまでしてダブルスキンにしないといけないのか。窓はもっと小さくていいのではないか。当然ここにも建設コストがかかっているわけです。そんなことをしてまで建設コストを上げて、それを全部賃料に乗せる必要がどこにあるのだろうと思います。地球に優しいだろうとは思います。でも、地球に優しくするのは他の方法がきっとあると思うのです。それを、「これしかない」というふうに設計時に会話がなされて実行してしまう。これはもったいないのではないかと僕らは思っています。
(図10)
これは日本生命が20年近く一棟借りをしているビルです。
実際、僕は当時困っていました。何に困ったのか。角のアールです。何も置けない。方法がないので役員室にしました。普通の社員のためには使いようがないので、アールの近辺に役員の机を置いて、へんな配置ながらも役員室にしてごまかした、というのがありました。そうしたら、今度は役員から「夜になると、何か自分の顔が窓ガラスに変に映るんだよね」と言われる。アールになっているためにそうなります。デッドとは言わないけれども、使いにくいスペースがあって、そこも同じように賃料を取られる。ここもちゃんと有効面積に入っていましたから。
僕は普段大阪にいます。実は大阪は避難距離のルールが日本で一番厳しいところで、オフィスでは斜めに歩いて避難させてくれないのです。必ず直角、直角で歩くというルールで距離をはかる。大きな部屋では角までの避難距離がアウトになるのです。床を張らないことが多いのですが、別に例えば、隅切りをして吹き抜けにして配管を入れようということになる。それは悪くないのですが、それだけだったらもっと小さくていい。バツっと切っちゃって、この吹き抜けをビルの目玉にされているビルが実際にありますが、使えない分をどうしてくれるのか。机を並べようと思うと、デッドスペースで困ります。それに同じ賃料を取る。こういうのも困るなと思います。
(図11)
これは余談だと思って聞いてください。壁面が斜めになっているビル。縦に真っすぐではないビル。実はこれが一番困ります。平面プランには、全ての床部分で描いてあるので、机を並べる予定にすると、斜めの壁(ガラス)にぶつかって入らないということがおこる。図面をもらうときに「これは床から何センチのところの図面ですか」、そういうわけのわからない質問が必要になる。平面図をもらって、床伏図をもらって、空中伏図ももらわないと、机がどう並ぶかどうか計画ができない。実際には平面の中のここら辺に斜線が引いてあって、「ここは置けませんよ」とやるのですが、こういうものが実は一番困ります。
くどいですけが、壁が斜めになっているせいで家具を置けない部分にも賃料を取っている。しかも、ましてやこの辺に机を置こうと思ったら無理なので、窓の周辺部分が机の大きさ分も含めて大概デッドスペースになっています。そこに同じように賃料を取られていることに皆さんお気づきではない。
(図12)
これは、三角形の建物の断面です。 三角形の斜めの壁は実は階段状になっていて、「先ほどみたいに外壁が斜めになっているわけではないから、いい」と言われそうですが、最大の欠点は基準階がつくれないことです。各フロアでレイアウトを全部変えなければいけない。ワンフロアだけ借りるのであれば問題ないですが、複数フロア借りようと思うと、ファシリティマネジャー泣かせになりがちです。もちろん、斜めにしないといけない理由があったのでしょうが、それでもでも、できたら、店子さんに「もう少しこういうやり方があったのではないか」と言われたくないなと僕は思っているわけです。
ビルの価値を上げるに当たって、美しい、格好いいビル、目立つビル、こういうことは正直あると思います。その価値を別に否定するつもりはありません。しかし、それはいつ格好いいと思ってつくられているのか。そこには疑問を持っています。

 意匠ばかりこきおろしているので、別な視点にします。
意匠担当の方に一生懸命きれいにつくっていただいて、その後、B工事、C工事と入ってくると、大体台なしにするのはOA設備です。これはうちのビルで、OAフロアになっています。LANケーブルは必ず余長を持っています。これはまだタコ足の軽いやつだからいいのですが、放っておくと、お弁当箱みたいな四角い箱がゴロゴロと転がって、せっかく建築側で一生懸命考えたことが設備屋さんに台なしにされるケースが結構あります。
(図13)
OAフロアがどうなるか。これは日本生命のオフィスですが、もう少しやりようがありますよね。気がつくと、こんなわけのわからない状態が生まれる。端末のメンテナンスをしやすいように壁際に机をもっていかないで、壁と机の間に通路をとらされている。こんなものが要るのか。もっと壁際でいいはず。コードの取り出しももっと整理したら、すっきりとオフィスが使え、不必要面積も削れるので、賃料も少なくて済むはずです。取り出しともちゃんと考えてつくらないとだめなのではないかなと思います。
(図14) 
これこそはよくあることと思います。天井カセット型エアコンです。風が当たるので、吹き出し口に紙などを貼って工作をする人は、どこのオフィスにも比較的よく見られます。天カセは日本生命のビルでも増える傾向にあります。個別空調化は貸しビルの中で非常に大きなファクターになっていて、まずテナントさんには「個別空調ですか。セントラルですか」と言われます。「セントラルです」と言うと、「何分割でできていますか」という趣旨のことを聞かれます。地方に行けば行くほど、使用時間がまだらなので、個別空調ができていないビルは貸せないと言ってもいいぐらい個別空調化はマストなのですが、そうすると、こういう現象が起きるわけです。
ビルオーナーが、テナントさんたちの個別空調化してほしいという希望に寄りかかり過ぎて、性能を余り意識しないでやると、こういうことになる。ユーザーにとってみると、「寒いんだよね」という声が多い。特に女性には大変不評らしい。こういうことにも少しメスを入れるといいのではないかと思います。
少し雑駁な話をしましたが、僕自身、収益力の高いビルをつくる条件だと思っていることが幾つかあります。
1.借り手に優しい。これが大事だと思います。
2.運用コストがかかりにくいこと。
申し上げたように、利回りを上げる必要があるので、ここにカネがかかり過ぎると、どんなに人気のあるビルをつくっても、後が苦しくなります。こういう点では、省エネは非常に大事なのですが、ここもちょっと勘違いをしてしまうのは、オフィスの省エネはありがたいのですが、コストを払っているのはテナントさんで、ビル全体の収益性には実は余り影響がないのです。要は、貸しビルにおいてオフィス部分のエネルギー効率を上げると、喜ぶのはテナントなのです。そこがちょっと混乱しがちなのですが、エネルギーだけではなくて、いろいろなところの運用コスト、掃除のしやすさもあると思います。
3.ローコストで高いスペックを得ることを常に意識する。高いスペックですが物すごくおカネがかかっていますというのでは商売にならない。そこが頭の痛いところです。
この3つを意識してやる必要があると思います。

 借り手に優しいビルをつくるためにどんなことが必要か。人のことばかりしてこきおろしているので、少し自省を込めて、今やっているプロジェクトの話をしたいと思います。今、大谷さんと一緒にはじめている仕事です。大阪で、ある敷地があいていて、そこの建て替え計画を検討できないかと思ってお仕事をお願いしています。
大体最初は、「敷地が変な形状をしているので、まずボリュームスタディです」と持ってこられます。でも、本当にそれでいいのか。大阪という町は、場所によっては容積をやたらに積んでいるビルもあります。中には千数百パーセントなものもあって、そんなにつくってどうするのかと思います。本当にそんな容積を全部出し切っていいのか。そうではないものもあるのではないか。
大阪には心斎橋という場所があります。かつてはオフィスビルがたくさんありました。でも、現状は、1階と2階以外はほとんど稼げない。賃料がろくに取れない。御堂筋に面していても、心斎橋あたりに行くと、1階は頑張ると8万円/坪が取れます。3階から上は8000円ぐらいしか取れない。そのぐらい差があるのです。そういうビルを上までニョキニョキ伸ばす必要が本当にあるのだろうか。
これは手前味噌ですが、この間、もともと8階建てだったビルを4階建てにして建て直しました。4階までは商業一棟貸し、ほぼスケルトン貸しの状態でつくるということにも今、チャレンジしています。僕らがオフィスビルを考えるときに、こういうアプローチがいいのではないかと思っているのは、まず市場に合ったサイズ、どのぐらいのサイズが適当なのかという基準階から議論を始めようよということです。そう思って、今、大谷さんたちにお願いしているところです。

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