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フリーディスカッション

大谷 どうもありがとうございました。
私、この「幸せな関係」の仕事に携わっております。先ほど映った新東館のビルが普通ととても違うのは、先ほどお話があった、施主、施工者、管理者、運営者、そして設計者が交わってのミーティングを設計中からずっとやっていたことです。あれは施工段階に入ってから始まったのではありません。基本設計終了間際ぐらいから始まっています。それは池田さんから「ぜひそういうものをやりたい。多分反対されると思うけど」と持ちかけられたのが最初です。それ以来続けています。
とても不思議な現場です。たまたま日本生命さんが施工者に対する内示をかけて、先に施工者を決めていました。特命ですが、その特命の時期が早いのでできるというメリットもありました。最大限それを生かそうということで、施工者に入ってもらって、外装の検討、石の手配など、着工の前にもう済ませているような現場です。
いろいろな細部に至るまでのこだわりを持っておられるので、お手伝いするのは大変なときもありますが、とてもやりがいがあります。みんなが納得して進められるから、よくある設計対施工の敵対関係というのもない。本当にストレスがないということです。こういう機会を、日本のあるレベルのビルをつくるときにはもっとたくさんしていくべきではないかという持論を得るに至っております。
私から少し質問した後、会場の皆さんからも質問していただけるようにしたいと思います。
私がお尋ねしたいのは、すごくきれい好きなのでしょうかということです。天井の中にまできれい好きを徹底しないと気が済まない性格はどこから来るのか。合理的な思考と言えばおしまいなのですが、潔癖症というか、普段どんなふうでいらっしゃるのか。
池田 私生活はいたって雑です。今回、転勤することになったので、4年ぶりに引っ越します。今、単身赴任をしていまして、先週の土日もずっと掃除をしていましたが、こんなにしょうもないものをため込んでいたのかと思うようなものがたくさんありました。もっとまめに掃除しておけばいいのにということのほうが大きくて、大谷さんがおっしゃる、きれい好きでは全くないです。
実はあの天井裏も、きれいにしたいからやったわけではなくて、合理的につくるためにはどうしたらいいかと考えると、懐の中をできるだけスカスカにするしかないよねと思うに至った。なので、天井がああなった。あれはぎっちり詰まっていても僕はいいと思うのです。それがシステマティックにきちんと図面化されていて、どの部位にはどういうふうに配管が通っているというのが組まれているのであれば、別にきっちり詰まっていてもいいなと思いますが、そんなことをするぐらいだったら減らしたほうが簡単だよねということで、ああいった組み立てになったわけです。そういう意味では、別にきれい好きだからやったわけではないです。
大谷 もう1つは、今の日建設計の現状にも大きくかかわるのですが、BIMという設計手法はいわば21世紀的です。片や、私のように20世紀から設計を始めた人間にとっては、クヨクヨした設計といいますか、ごく人間的な世界の設計、スケッチブックに描きながらつくる設計もとても肌に合います。これの両立化、あるいは移行をいかにうまくしていくかというのが、今の設計業界のとても難しいところではないかとずっと思っています。
設計者のメンタリティーはなかなか複雑怪奇でして、何だかんだ言っても機能と美が両立するオフィスをつくりたがる。それをBIMの世界に持っていっても、純粋に合理的に美しいものをつくっていかなければいけない。これはなかなか本質的な難しい課題です。次のビルでは何とかしたいと思っておりますが、BIMの将来にかなり明るい展望を持っておられますか。
池田 今のBIMは出来が余りよくないので、もう少しシステムとしての洗練は要るでしょうね。
大谷さんがおっしゃったことで言うと、僕らは絵心もありません。美しいものは、きれいだということはある程度わかりますが、自分では造形できない。そういう人間から見たときにどういうところに美しさを感じるか。大きくは2つだと思うのです。
1つは、全体像として捉えたときの大がかりなフォルムに美しさを感じることがあります。縦横比みたいなものかもしれません。もしくはきれいなカーブになっているとか、そういう造形の持っている美しさみたいなものがあるだろうと。
もう1個は、本当の美しさはディテールに宿ると思っています。例えば石づくりの建物をつくるときに、物すごくインパクトがありそうなのは、窓の下の窓台の大きさや、まぐさ石の形、もっと言うとコーニスのカーブや、段の数、実はそんなところに最後は美しさがあらわれると思っていますが、こういうものは別にBIMである必要は何一つないと思うのです。その辺は、極端なことを言ったら、手書きでも何でもいい。その使い分けをしていくのだろうと思います。
先ほども申し上げたように、大事なのは、設計と建築と設備が同時並行で検討を進めることだと思っています。今回のも、パンチングメタルを使った空調方式をつくらなければ、こんな話にはならなかった。最初に空調から手をつけたというのが実はミソだと思っていますが、通常は建築が先に進んでいって、空調は後から追いかけていく。そのことを並行して進めるための道具がBIMだと思っています。
BIMは、先ほどから言っている「目的と手段」で見れば、明らかに手段です。建築オリエンテッドにさせないための1つの手法だと思っていて、そういう意味では、明るい展望というよりは、今後は必須になっていくだろうなと思います。ただ、そのことは別にデザイナーを目指す皆さんや、デザイナーでありたいと思っている皆さんの仕事を阻害するものでも何でもなくて、石の目地の入れ方やそこら辺は本当はBIMでなくてもいい。それが何ミリの石なのかというのはBIMであってほしいと思いますが、どこに目地が入っていてという部分は別に手描きでも何でもいいのでしょう。基本的には両立できるものだと思っています。
小町(CGSRE) 非常にためになるお話を聞かせていただいて、本当によかったと思います。
1つ、今日の本論からは少し外れているのかもしれませんが、個人的に興味があったものがあります。クラウドのビルシステムといったとき何故、NSRIを採用されたのでしょうか。
池田 今回はLCEMツールというNSRIのシステムを使っています。
いままで使っていたものが少し不自由なところは、サーバーと込み込みなので、そこしか使えないところです。LCEMツールがいいなと思っているのは、別にサーバーはどこでもいいので、非常にリーズナブルにシステムを提供していただいているというのが1つです。
それと、東館ができ上がるころに、手前どもの堂島アバンザと新大阪ビルという、ともにワンフロア1000坪ぐらいの大きなビルが2棟あって、そこのBMSがもう限界を超えそうなので、そういった既存のテナントビルもそのシステムに収容していこうと思っています。どんどん既存のビルをつなげていってスケールメリットを出していきたいことと、いろいろな環境データや、BEMSもその中に包含されていますので、エネルギー消費量も横串で比較検討することができます。
小町 ありがとうございました。
大谷 幾つか外国の仕事をし始めると、よくわかることがあります。それは日本のチーム力のすごさ、あるいは日本人の工夫する心のすごさです。日本に似ている国が世界中にどのぐらいあるかなと思って数えたことがあるのですが、195カ国くらいのうち、たった一国、日本だけがこういう国です。あとの194カ国は全く違う国民性です。工夫しないし、一部のエリートが踏ん反り返っていて、あとは全然創造性のない人たち。本当に日本人だけがやるときはやるんだな、と最近ずっと思っています。
これを生かさない手はない。よくガラパゴスとか、「そんな日本の中だけで頑張っていてもしょうがないでしょう」と言う人もいますが、この民族は捨てたものではないです。別に国粋主義ではないですが、ものすごく工夫して、世界に冠たるものをつくっていけばいいと思うのです。それを世界にお裾分けしていく。これがおもてなしの心ということになるわけですが、これをするのには池田さんのおっしゃるコラボレーション、設計だけでなくて、非常に社会に開かれたコラボレーションをもっとみんなで考えようと思います。
せっかくの英知ですから、もっと上手に使わなければ損です。狭い、狭い国の中でいがみ合っているのが一番よくない。もっと外の人たちを見れば、我々の仲のよさは大いに可能性がある、そんなことに気づく毎日です。それを半分ぐらい池田さんから教えられたような気がここ何年かしております。
池田 教えたとかいう立派なものではないですが、もう少し協業したらいいのにと思う分野がたくさんあります。最近よくハッパをかけているのは照明の制御の世界で、よくメーカーの皆さんとお話ししています。
空調の制御については、たくさん専門家がいらっしゃるので、「釈迦に説法」ですが、ほぼ一社独占だったのが、ここ10年ぐらいかけて大体バックネットで動くようになっていろいろな可能性が出てきた。そうすることによって、今までオン、オフでしか制御できなかったものがもう少し汎用的になってきたし、何が行われているかわかるようになってきたというのがこの10年ぐらいの流れだと思うのです。
しかし、照明について言うと、せっかくLEDになって、オンオフだけでなくていろいろなことができるようになっているにもかかわらず、いまだにパナソニック語やライティング語で制御されていて、共通のプラットホームができるようにならない。これはすごく無駄だと思っています。同じように共通の言語体系を持って、BAやBMSにも直結できるようなプロトコールがつくられれば、すごく制御しやすくなるし、システムを構築するのもすごく楽になるのに、いつまでたってもパナさんとライティングさんと手を組むというニュースは聞いたことがない。そうはならないかもしれませんね。
そんなことをやっている間にGEはZigBeeみたいなプロトコールを出していて、今そのZigBeeはPHSに乗るということで話題になっています。あれを有線でやり出したら、もしかしたらあっという間に、彼らの政治力をもってデファクト・スタンダードになってしまうかもしれないですね。昔、同じようなことがOSの世界でありました。日本にトロンというすぐれたOSがあったのにもかかわらず、当時まだできの悪かったマイクロソフトに全世界が席巻されてしまった。あんなことが多分もう一回起こるかもしれません。
プロトコールは根っこの問題なので、物すごく重要だと思うのです。そういうものも本当は日本の国を挙げて世界に通用するようなものにしていけばいいと思うのですが、そういうことがなかなかできない。電気自動車も、差し込み1つとったって、コンボだ、CHAdeMOだとやっている。正直、素人である我々は何の意味があるんだという気がします。もちろん開発されている人たちには理屈があると思います。そうでないと困るし、うまくいかない。でも、大事なのは、自分たちの城を守ること以上に、世界を席巻できるデファクト・スタンダードを手に入れることだと僕は思います。それができてしまえばあとは勝手についてくる。そこの手順がどうも間違っているというか、変にこだわり過ぎているという感じです。小さな例かもしれませんが、コラボレーションしてやれる余地はまだまだいっぱいあるのではないか、そんなふうに思っています。
大谷 こういうお話を経済学部出身の人がされているというのは驚きです。はっきり言って、電気の技術者以上の大局観を持っておられます。建築業界もすごく混沌とした世界になってきているわけですが、もっと池田方式の設計のあり方を我々も問いかけて考えていきたい。何とかこの「幸せな」関係をみんなでつくっていこうと思っております。
では、今日はこれで終わりとさせていただきます。どうも長い時間ありがとうございました。(拍手)
(以上)

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