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(図40)
これはなかなかわかっていただきにくいかもしれませんが、先ほど「事務工場」と申し上げました。だから、圧倒的に女性が多い。ほとんどが女性のフロアもあります。うらやましいと思った人は認識の相違だと思います。ちっともうらやましいことではない。まずトイレがあります。4カ所あって、この絵でいくと、通常、男女、男女ですが、全部女性にしちゃおうということが割と簡単にできるように工夫がなされています。


(図41)
これは正直申し上げて最初は意匠的な理屈でつくったのですけれども、意外に評判がいいので、少し自慢します。エレベーター・フロアに呼びボタンがなくて、非接触型なのです。こういう筒が3つ並んでいて、上に行きたいときは上の筒に手をかざすと、センサーが感知して上へ行くランプがついて、下に行きたいときは下の筒に手をかざすと、下へ行くランプがつきます。「お遊び」と言われそうですが、これはつくっているときは気がつきませんでした。うちの女の子たちに紹介して初めてわかった。「すごくありがたい」。静電気なのです。僕も冬場は非常に発電効率が高くて、さわった途端にビリッとくるのですが、それをさせない。でも、敵もさる者で、「それなら、かごの中は?」と言われて、「それはちょっと難しいね」ということになりました。フロアで乗るときにはさわらずに済む非接触型、こんなこともやっています。

(図42)
これは洗面台です。実はライフワークとまではいきませんが、15年ぐらいこれをやっています。画像は1つしかないのでわかりにくいのですが、洗面台はたくさんつながっています。普通はカウンターがあって、その下にボウルがありますが、あのカウンターが僕は嫌いです。掃除の人がいつも拭いていないと、水滴があって汚いのです。物を置いたりするためにあのカウンターをつくっているのですが、現実は置けない。手を洗ってパッパッパッとやると、必ず水が散る。
それで、平場がほとんどない洗面カウンターをつくりたくて、ずっといじっているのですが、今回のものは結構きれいにできたのではないかと思います。これは平場がなくて、ここがへこんでいます。平場はこの部分、多分3cmぐらいだけで、あとはすぐ斜面になっています。掃除のおばさんが拭かずに済むような洗面カウンターをつくろうというので、今回無理を言ってつくってもらいました。この間チラッと見てきましたけれども、結構よくできたと思います。
(図43)
これもこだわっています。丸の内のときは実現できなかったのですが、トイレットペーパーの紙巻き器です。だからどうしたと皆さん思われるかもしれませんが、普通はこの左側のカバーがないのです。
2連あって、トイレットペーパーを2個装備できる。これが実はくせ者で、順番に使っていってくれれば問題は何もないのですが、大体みんな並行して使う。なくなるときには一挙になくなります。どういうことが起きるか。一挙になくなっても困らないように、近くに洗い場や平場があると、そこにトイレットペーパーを積み上げている。ビル管理会社は必ずやります。せっかくきれいにしていても、トイレのブースに入ると、トイレットペーパーが山になっていて、何とも汚いなという感じがします。
ひどい時は、本当にお恥ずかしいのですが、そのトイレットペーパーを持って帰る人がいる。さすがに丸の内ではないですが、地方に行くとそういう事例に出くわします。共用部分に人が簡単に入れるので、外から入ってきて、積んであるトイレットペーパーを持って帰って、自宅で使う。妙にトイレットペーパーが減るビルがあるのです。
そういうことを防ぐためには。順番に使ってもらえばいいので、カバーをつける。このカバーは左右に動きます。空になると、カバーを反対側に持っていって、今度はもともとカバーがされていた方を使ってくれる。その状態を見て、1つだけ補充すればいいので、ブースの中に何十個もトイレットペーパーの山をつくるようなことはしなくてもいい。ささいですが、こういうささいなことをやると、管理がすごくしやすくなるということの1つのわかりやすい例だと思っていて、今回は割といい感じにつくってもらえそうです。これはもう十何年やっているのですけれども、ようやく1号機。こんな当たり前のことが今までできなかった。大したことではないのですが、なかなか実現できない。
(図44)
これができたときの絵姿です。四方を見てもこんな感じなので、圧倒されるほどのボリューム感で、外見はとてもクラシックだと思いますが、先ほど申し上げた中のつくり方には相当こだわりを持って、つくってきたつもりでいます。

 これを実現するためにいろいろなことをやってきたのですが、次は何をしようかなと思うと、先ほど申し上げたように、ユニット化をもう少しやりたい。床は大分やった気でいますが、今度は柱や壁をユニット化する仕組みが何か考えられないかなと思っています。また日建設計さんのお知恵を拝借しながら、施工者との間でコラボしていきたい。そういった設計者と施工との間のコラボレーションを後押しするのが我々施主の立ち位置であり、役割だと思っています。
大分長くなりましたけれども、申し上げたかったのは、議論するに当たって一番大事なことは、まず施主の役割としては、目的を明確にすることだろうということです。設計の皆さんにお願いしたいのは、手段と目的を混在させないでほしい。履き違えないでいただきたいということがあります。ある目的のためにお知恵を出してもらう、それがまさに設計行為だと思いますが、それは手段ですので、その手段が目的に合致しているかどうかを常に自問自答し、お互いに会話ができることが大事だと思います。
何よりも大事なのは、発注者である我々と、設計をする人、それから施工する人が会話をして物をつくる。上意下達で「これでつくって」ということではなくて、「どんなものがいいですか」「いいものがいいね」という中途半端な、抽象的なものでもない。こういう目的のためにビルをつくるのだから、こういうことをやってほしい、そのためにはどんなソリューションがあって、どれは採用できるけれども、どれは採用できない、それはすごくいい発想だけれども、つくるのがすごく難しいからだめだ、それなら頑張ってつくり方から研究します…、ということがあっていいと思うのです。そういう喧々諤々の会話がなされていくことが、幸せな関係なのではないかと僕は思っています。
最初、「不幸な関係」というところからスタートしましたが、これからいろいろなプロジェクトを我々もやっていきます。ここにいらっしゃる皆さんもいろいろなプロジェクトにかかわっていらっしゃると思いますが、そういう意味で幸せな関係が築ける現場であってほしいと思っています。

 取りとめのない話をいっぱいさせていただきました。どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)

 

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