1.井形慶子自己紹介とともに、なぜイギリスという国に魅力を感じるのか

2日本人とイギリス人の住まいに対する価値観の違い。なぜ古家は壊されるのか? イギリス人はどんな家に価値を感じるのか?など。

3. 井形慶子が、住みたい町、No1の吉祥寺に500万円の老朽物件を購入し、300万円でフルリフォーム。ロンドン風フラット完成。

5. イギリスで売り家になっている魅力的な家。(借地権999年の古城、
湖が見えるコッツウォルズの古城)

7. 家づくりとは、住まいに命を吹き込む作業



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小さな字でいろいろ書いてあるみたいなんだけど、普通は何平米とか総床面積とか書いてあるのになと思って、再度聞いたんですが、「そういう細かいことは家屋鑑定士かサーベイヤーが後で調べればわかることですよ。弁護士も調査に入るから問題ないんですよ」と、怒られちゃったわけです。日本とは違う、イギリスの住宅に対する考え方がここにはっきりとあらわれていました。
イギリスでは、家を売る時も買う時も、広さ、大きさ、サイズということを第1に考えないのです。広さを数値で知ろうとしない。これはすごいキーワードだと思いました。そして、不動産業者も、それをもとに、それを決め手に販売しようとはしないのです。それは何故かというと、家選びにおいてもっと重要なことがあるからです。
もっと重要なこと、それは何でしょうか。それは、その家が持つ個性、趣、特徴を、細かいところに至るまで買い手に伝えていくということだったんです。
(図20)
私は、早速、2部屋しかないコテージの販売パンフレットを英国から取り寄せてみました。皆さんと一緒にそれを見てみたいと思うんですけれども、これが英国の住宅販売パンフレットなんです。
まず、これ、見ていただきますと、ここに写真が載ってございますが、キャッチフレーズといいますか、非常に文字が少ないですよね。まずここに14万8500ポンドと価格が書いてあります。その横にフリーホールドと書いております。日本では所有権と借地権に分かれますが、イギリスでもそのような所有形態があるということで、フリーホールドというのは所有権ということですね。
このパンフレットを見ていきますと、すごく面白いことに気づかされるんです。
(図21)
四つ折の厚紙、全面にカラーでプリントされたパンフレットです。1戸の家に対してこのようなパンフレットが配られます。
日本との大きな違い、それは何かと言いますと、各部屋の写真をご覧ください。住んで いる人の、住んでいる状態を、家財道具もそのままに、まるでインテリア雑誌の実例集のように映し出しているということなんです。何故このようなことをするのでしょうか。
このパンフレットによって、家を購入しようとする人は、この家を買うと、実際に私のあのテーブルはダイニングに置ける。ベッドを置いたらこのくらいの余りスペースが出る。キッチンの雰囲気はこのようになると、具体的に自分がその家に住んだイメージというものをつくりやすいんですね。売る人も、この家の素晴らしさをいかに伝えていくか、それにフォーカスをしているということなんです。
何故このようなことが発達してきたかといいますと、イギリスというのは95%以上の方が築60年以上の超中古住宅に住んでおられます。ですから、その家を買った場合、どういうふうな暮らしになるのかということがすごく重要なポイントになるんですね。
(図22)
ある住宅広告を分解して、具体的にこの住宅パンフレットで何が書いてあるのか、見ていきたいと思います。
これはビクトリアン時代のタウンハウスですね。テラスハウスですね。いわゆる長屋式の住宅でございまして、この白い部分の家が売りに出ております。下のほうに価格が書いてございまして、その横にフリーホールド、所有権ということが書いてありますが、当時のレートで200円計算しまして、この家は3300万円の家ですね。現在ですと2000万ちょっとということになります。   先程から気になる方もいらっしゃると思うんですが、この2行にわたった文章、これは、何が書いてあるかということなんですけれども、この家の説明が出てきます。「オールドローズの香る、ファネスの丘に建つ、1900年築の家。街路樹の連なる歩道に面した、ビクトリアン時代をほうふつとさせる、素晴らしい2寝室の家」。そしてこの家の写真が展開されていくわけなんですけれども、「ラウンジの暖炉には石炭暖炉風のガスヒーターがあり、その周辺の見事なブラス装飾は必見」となります。そして、バスルームにいきますと、説明文の中で、「まるで中世さながらのビクトリアンスタイル。蛇口は伝統的なデザインのクロムメッキ製。壁のくぼみにはテレビも置けます」と書いてあるわけですね。
私は「はあー」と思いながら、イギリスに行くたびに不動産屋を回りまして、そしてパンフレットを集めては、そこに書いてある文章や写真を堪能するわけです。「へえ、こんな紹介の仕方があるんだな。楽しいな」と思ってたわけです。


5.イギリスで売り家になっている魅力的な家。
(借地権999年の古城、湖が見えるコッツウォルズの古城)

話は脱線しますけれども、私が最初にイギリスに行ったのが19歳の時でございまして、最初にイギリスに引かれた理由をよく聞かれるんですが、中世のような家並みなんですね。いつかここに住んでみたい、『いつかイギリスに暮らすわたし』という本も書いたくらい、いつかイギリスに住みたいなと、この30年間思い続けてきました。
私がこういうふうにあちこちの不動産のカタログ、パンフレット、広告を趣味のように集める中で、先程皆さんに見ていただきましたが、苦心して建てた東京の吉祥寺の家を売ってでもここを買いたいという集合住宅を見つけたんですすね。それで、私は考えました。「あれだけ苦労して吉祥寺の家を建てたのに、血迷うな、私」と思ったわけなんですけれども、どうしてもどうしても、この家だったら、いつかイギリスに暮らすではなくて、今すぐ住みたいと思いました。その集合住宅を皆様に見ていただきたいと思います。この写真をお見せしますと、なんかイメージが変わったというふうに罵倒されるんですけれども、ご覧ください。
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