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電動キックボードが今後の都市づくりに与える影響

2023年12月11日

齋藤 悠宇
研究員

最近話題の電動キックボード(electric scooter)をご存じですか?ボードの上に立って颯爽と走る姿が印象的な、新しいマイクロモビリティの1つです。街中や観光地で、道路上をスイスイと走るところを見かけたことがあるかもしれません。本記事では、電動キックボードが今後の都市づくりに与える影響を、複数の視点から考えてみます。


 

2023年7月1日に道路交通法が改正され、「特定小型原動機付自転車」と呼ばれる電動キックボードに、16歳以上であれば免許不要で乗ることができるようになりました。

   

出典:警察庁公式サイト https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/tokuteikogata.html よりNSRI作成

電動キックボードは欧州で先行して普及してきました。しかし、パリでは住民投票によりシェアリング電動キックボードが市内から締め出されたり、イタリアでは登録証や所有者による保険の加入が必須になったり、これまでを見直す動きが見られ始めています。他にも、シンガポール・モントリオール・ローマなどでも禁止や導入停止の動きが見られます。



出典:TOMORUBA「新たな局面を迎えるかーー厳格化が進む「電動キックボード」各国の規制状況は?」https://tomoruba.eiicon.net/articles/4127

電動キックボードによるトリップの特徴は?

電動キックボードが今後の都市づくりに与える影響を理解する上で、電動キックボードが自家用車や公共交通機関などのこれまでのモビリティとどう異なるかは重要な視点です。まず、電動キックボードを利用した「トリップ」(ある目的地からある目的地までの移動を定量的に表現する単位)がどのような特徴を持つのか、という視点から考えたいと思います。


Badia & Jenelius (2023)3)によると、電動キックボードの平均トリップ長は約1.8km、平均トリップ時間は約13分、平均の利用速度は時速約8-9kmとされています。アメリカのNational Household Travel Survey(NHTS)が2017年に行った調査では、都市部における自動車移動の30.8%が2マイル(約3.2km)であったことから、アメリカの都市部では電動キックボードが多くの自動車移動を代替できる可能性を秘めていると言えます2)5)。なお、観光客による利用では平均トリップ時間が約30分程度と、地元客による利用の2倍程度となることも報告されています。


 出典:Badia & Jenelius (2023)3)
※以下論文を参照
(1): Jiao and Bai (2020); (2): McKenzie (2020); (3):Younes et al. (2020); (4): Mathew et al. (2019)

また、電動キックボードによるトリップの30-60%は徒歩を代替していると指摘されています。さらに、自転車を初めとする他のマイクロモビリティの代替として電動キックボードを使用していると回答したユーザーは、多くの都市で10%前後いたとされています。

次に地域的な特徴として、アメリカの都市では前述のように2マイル以下の移動に車を用いるケースが一定程度存在したことを背景に、車から電動キックボードへのモーダルシフトが見られます。一方でヨーロッパの都市では、公共交通機関が発達していることから、電動キックボードユーザーのうち1/3は公共交通機関の代替として電動キックボードを用いています。なおこれは電動キックボードユーザーのみを対象とした調査です。交通手段全体のうちの電動キックボードのシェアとしては、例えばパリにおいてシェアリング電動キックボードにより置き換えられたトリップが全体の0.8%から1.9%だったことから比較的少なく、電動キックボードによるモーダルシフトが全体のトリップに与える影響は少ないことに注意が必要です。


出典:Badia & Jenelius (2023)3)に掲載の表よりNSRI作成。欠損値を持つ都市を除く

車・公共交通機関と電動キックボードの関係を考えるにあたり、日本では電動キックボードの配置に着目する必要があります。米国や欧州で展開されているシェアリング電動キックボードは決められたエリアの中であればどこでもトリップを開始/終了できる形式(dockless)である一方で、日本ではあらかじめ設置されたポートでなければトリップを開始/終了できない形式であるからです。 

電動キックボードによる地域活性化は可能?

まちづくりの視点では電動キックボードの導入が地域の活性化に繋がるのかは非常に気になるところです。

電動キックボードの利用目的はFun/RecreationとSocial/Entertainmentが約半分を占めます。また、利用時間の分布を見ると、通勤・通学に利用されるモビリティによく見られる朝夕の二山ピークではなく、平日は朝夕の二山ピークに加えて正午のピーク、週末は正午から早晩にかけての緩やかな一山ピークが見られます。これはRecreationalまたはSocialな活動、例えば友人と連れ立った遊びにおいて電動キックボードが利用されるようなケースが考えられ、自転車のライトユーザーと似た傾向を示しています。

このことから、電動キックボードの導入が、遊興・観光・乗車体験等の目的に対応する交通手段、または徒歩と自転車の間に位置する交通手段としての位置づけを有する可能性があると言えることから、地域の活性化に寄与できると考えられます。
 

出典:Badia & Jenelius (2023)3)

電動キックボードが都市にメリットを与える存在へと近づくためには?

では今後、これらの電動キックボードがより都市にメリットを与える交通手段として存在するために、どのような工夫が必要なのでしょうか?

一つ目の視点は、Mobility as a Service(MaaS)に対応した料金体系です。電動キックボードの料金体系を他の公共交通機関と比較して安価にすることで、通勤・通学等の日常の移動におけるファーストマイル・ラストマイルを担う交通手段となりうる可能性があります。Espinoza, et al. (2019) 1)によれば、アトランタ市において公共交通機関の乗り換え地点にアクセスする目的で電動キックボードを利用する人は少なく、その理由として運賃の高さが挙げられています。

二つ目に、空間的な整備の視点があります。道路ネットワークの整備、特に安全に走ることができる自転車道の整備はもちろん、日本においては、ポートの配置数が重要であると考えられます。Badia & Jenelius (2023)3)によれば、電動キックボードの利用は、コンパクトな都市や人口密度が集中したエリアで活発です。自転車道については、近年日本でも整備が進んでいます。また、法令で保安基準を満たし自賠責保険に加入した特例特定小型原動機付自転車であれば、時速6km以下で走行可能な標識・表示のある歩道を走行することが認められています。既往研究における平均的な利用速度である時速8-9kmと比較してやや遅い速度ではありますが、自転車専用道路に加えて、走行可能な標識・表示のある歩道が増加することで、電動キックボードの利便性は高まると考えられます。

三つ目に、有効な規制を取り入れるという視点があります。既往研究4)では、電動キックボードの提供事業者間の競争激化による台数の供給過剰を防ぐため、台数の総数に上限を設けるという提案がなされています。またBadia & Jenelius (2023)3)は、電動キックボードの利用が非ユーザーにとって外部不経済となることを防ぐため、サービスエリアの制限、速度制限、歩道走行の禁止、ポートへの駐停車の義務化、ヘルメットや免許の携帯などを提案しています。
日本では現状、上記の提案のうち、速度制限およびポートへの駐停車の義務化を導入しています。一方で上述のようにさらに厳しい制限速度(最高速度6km/h以下を速度抑制装置で制御)を設けることで歩道走行を可能としている点が特徴的です。またヘルメットの携帯についても努力義務としています。サービスエリアについては、ポートの配置によりある程度コントロールされていると考えられますが、今後の利用状況に鑑みて制限が導入される可能性があります。

参考資料

1)Espinoza, W., Howard, M., Lane, J., & Van Hentenryck, P. (2019). Shared E-scooters: Business, pleasure, or transit? Retrieved from http://arxiv.org/abs/1910.05807
2)Federal Highway Administration. (2019). 2017 national household travel survey user’s guide. Retrieved from https://nhts.ornl.gov/assets/NHTS2017_UsersGuide_04232019_1.pdf
3)Hugo Badia & Erik Jenelius (2023): Shared e-scooter micromobility: review of use patterns, perceptions and environmental impacts, Transport Reviews, 43 : 5, 811-837, DOI: 10.1080/01441647.2023.2171500
4)Kailai Wang, Xiaodong Qian, Dillon Taylor Fitch, Yongsung Lee, Jai Malik & Giovanni Circella (2023) What travel modes do shared e-scooters displace? A review of recent research findings, Transport Reviews, 43:1, 5-31, DOI: 10.1080/01441647.2021.2015639
5)Smith, C. S., & Schwieterman, J. P. (2018). E-scooter scenarios: evaluating the potential mobility benefits of shared dockless scooters in Chicago. Retrieved from https://trid.trb.org/view/1577726