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(図9)
竹中平蔵のメモには少し面白いことが書いてある。15~16書いてあるんですが、僕は全部チェックしました。僕たちが都市計画や国土計画で日ごろ大都市に対して言っているいろんな話を全部入れています。どこかの知恵を竹中平蔵は入れてきたんです。
1つ1つ全部説明できますが、時間がかかりますが、このメモの15項目は僕のような専門家から見てもそうおかしいことではありません。問題は、これを新しい国家戦略にかかわる専門家がどうこなすか。僕は多分、こなせないと思うんです。人からの借り物がかなりありますから。

(図10)
それでは、伊藤はどうか。ここからようやく話が始まります。「前提、東京を安全で安心な街にする」。何を言っているかというと、14~15年前、小泉政権の時に、首都直下の議論があった。ミュンヘンの損害保険の再保険会社が世界中の都市の災害危険度を数字で出した。その災害危険度はニューヨークが42か43。ロサンゼルスが100です。サンフランシスコが140。パリ、ベルリン、ロンドンは25~26。それに比べて東京は710です。こんな馬鹿なことあるかと僕たちはカンカンに怒って、どういうふうに計算したかをチェックしました。3つの係数の積でやっているんです。地震が起きる危険性をAとする、それに対応する抵抗力は人間がつくる。例えば日本でいえば新耐震や木造の不燃建築化です。そういう抵抗力をBとする。A×B。それからCですが、これが保険業界の概念で、人口集積なんです。AとBが同じであってもCで人口が倍になれば、そこの危険は倍になる。考えたら、保険屋はカネを払うほうですから、払う会社として、どこにどのくらいカネを払う危険性が高いかといったら、同じ危険度でも人口集積で倍のところは倍の人がカネを払えと来るので危険性が高い。馬鹿みたいな話でした。
問題はAとBです。東京の人口集積をニューヨークと仮に同じにします。防災の抵抗力はニューヨークの4倍にします。そして自然、地震とか津波。これは神様がつくったものですから、ニューヨークより東京のほうが起きやすい。これはそのまま。そうすると、710が大体120~130になります。120~130というのはサンフランシスコ並みです。そこまで落ちるんです。それでも、普通のおカネを持っているニューヨークやロンドンの保険業界の連中から見ると、3.11もあったので、東京は危ないと思うでしょう。
だからこそ、おカネを持っている人たちが東京に来ておカネを落とすためには、東京はとにかく安全・安心。安全は地震、安心は防犯、それを保障します。これを前提にして次に2番目、3番目、4番目をやる。まず安全と安心が東京にとっては一番重要な言葉です。
2番目。安倍政権が「Visit Japan・Invest Japan」と言っています。それを全部東京にかえる。「Invest Tokyo・Visit Tokyo」。インベスト東京で、東京にカネを持ってきてくれよと言うと、そういう人たちの会社、例えばインターナショナルGEという会社が東京にできる。そこに外人さんが家族連れで来る。そうするとまず安心・安全が必要です。その次になるべく質のいい住宅が欲しい。事務所だって、ニューヨークやロンドンの新しいビルと同じぐらいのものが必要です。2番目には「住みやすい」、それから「働きやすい」。
日本人は往々にして「働きやすい」、「住みやすい」なんですが、特にアメリカの連中を呼ぶためには「住みやすい」、「働きやすい」です。そのためには質のいいマンションと質のいいオフィスをどんどんつくります。当たり前のことなんです。そういうふうにできているかというとできてない。特に安心・安全を宣言したところは、「住みやすい」、「働きやすい」性能のいい建物をつくらないといけないんです。
そこに人が集まる。これは決定的です。
海外との交流というのは決定的に飛行場です。飛行場の滑走路が何本あるかによって、その国の国際化の競争力が決まると言ってもいい。東京は成田も入れて現在6本です。成田2本と羽田が4本。成田は使いにくいんです。3本にしても余り使えない。成田2本と羽田6本の8本。8本にすれば、ヒースローより性能はよくなります。パリよりも性能がよくなるかもしれない。戦えるようになる。6本目はビジネスジェット専用です。ビジネスジェットは、皆さんまだ距離が遠いように思うけれども、世界共通の話題です。世界のおカネを持っている連中がおカネの貸し借りをやる会談のベースメントはビジネスジェットで来るのが当たり前だということです。日本の人たちは理解していません。役人も理解していない。卵と鶏のようなものです。利用頻度が低い、需要が増えるまで待ちましょう。もし、世界で東京の経済が駄目になるのが見えてきているなら、「利用頻度が低いから待ちましょう」ではなくて、つくって需要を起こそう。
もう1つ僕が思うのは、クルーザー。クルーザーの需要が多くなります。横浜に京浜地域のクルーザーのメインの大桟橋がありますが、あれは前が高速道路の橋で、20万トン級の船が入れなくなった。長崎は入れるんです。女神大橋。横浜は入れないけど、長崎は入れますと威張っていました。なら、東京でつくろうではないか。東京でクルーザーを集めるところがあります。品川です。東京のベイブリッジの手前ですから橋をくぐらなくていいんです。
それから「情報交換がしやすい街にする」。これはいろいろな意味がある。人が集まるというのは国際的です。情報交換しやすいというのは、日本人が鉄道をよく使って、自動車をよく使って、コンピューターをよく使うという話ですから、月並みな話です。
3番目。これが僕は物すごく重要だと思います。「感動し、楽しみ、尊敬される」。日本に来て感動する。確かに宮城に行って感動するけれども、あれはボイドの空間ですから、二重橋まで行って、「ここの向こうに天皇がいます」と言ったって、外人さんのようなプラグマティックな人は想像できない。ロンドンに行くとウインザー城でわかる。ウインザー城の離宮の奥にイギリスの女王様が時々泊まられているんですよと、中まで見せてくれます。感動というのは世界共通のランゲージです。皇居は禅の領域でしょう。無のものが一番いい。外人さん、わかったような、わからないような顔をして帰っていく。この暑い時に、つまらない。砂利道を二重橋まで行って帰っていく。ご苦労さんです。これでは駄目。
先ほど僕が言ったように、世界共通の土俵で彼らを感動させなければいけない。世界共通のベースで楽しませなければいけない。世界共通の感覚で尊敬させる。やはり東京はすごい。と同時に、エキゾティシズムです。エキゾティシズムで感動し、楽しみ、尊敬される。この2つの尺度でこの3つの言葉を満足させるような都市づくりをしようではないかということです。要するに、「Visit Japan・Invest Japan」ということを易しく言うと、こういうことなんです。
ただ、この後ろには冷酷な事実があります。例えば仕事がしやすいオフィスビルを三井不動産や三菱地所がつくれば、東神田や横山町あたりの小さい鉛筆ビルは全部がらあきになります。これは玉突き現象です。大資本が海外の資本を呼び込むためにつくったものはうまくいって、中小企業のつくった古いオンボロビルは誰も人が来なくなって値段がつかないということが起きる。これは仕方がないんです。それまでどうにかしようということになると、民主党になってしまう。
安全で安心な街。これを前提にして、住宅とオフィス。飛行場と船着場と鉄道。感動し、楽しみ、尊敬。これは後で言いますが、それぞれあります。
ついでに言いますと、都市計画の連中は、日比谷公園と明治神宮を、ニューヨークセントラルパーク、ロンドンの公園に比べて、どうのこうのと議論する。これは世界共通のスケールで比較していますが、比較しても、専門家の間では会話が成り立つけれども、普通の人は理解できない。
緑で僕が一番彼らに訴えたいのは、盆栽です。盆栽というのは外国人にとってはショッキングなんです。日本人がつくった盆栽のすごいところをバーッと見せる。ただ並べるのではなく劇場で見せる、または展示場で見せる。盆栽というのは、日本の一番小さいスケールを象徴化して、日本人の繊細な気持ちでつくり上げてきた。こういうものに対しては、ムスリムの人も驚く。コーカシアンも驚く。中国はわからない。盆栽に代表される小さい日本の庭園もみんな評価してくれる。例えば、日本人は余り評価しない六義園をすごく評価しています。京都に行かなくても、こういう庭が東京にもあったのか。京都の小さい庭と小さい植木を彼はすごく評価している。これがエキゾティシズムです。そういうふうに1つ1つ考えてみると、インターナショナリズムとエキゾティシズムの両方の組み合わせで東京を組み立てていくという戦略が、3番目に必要だということです。

 

 

        
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