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【4-2】日土小学校の建築的特徴
(図52)
日土の建築的な特徴をお話します。なぜ保存しようと思ったかという話です。
① 教室と廊下を分離したクラスター型配置である(東校舎)
 まずはアカデミックな価値からです。この学校は教室と廊下、教室と昇降口が切り離されて、間に中庭を入れた構成になっています。これは建築計画学の分野ではクラスター型と呼んでおります。クラスターというのはブドウなどの房ということです。ブドウは幹があって枝があって実がたくさんぶら下がっている。この小学校も、廊下があって前室があって実としての教室がぶら下がっています。普通は廊下と教室がくっついて兵舎のようになっています。それだと教育が画一的になるので、戦後、明るく風通しの良いクラスター型を普及させようという動きがありました。東大の吉武泰水先生の研究室で、研究や実践が始まったんですが、それとほとんど同じ時期に非常に高い完成度で、八幡という地方の町にクラスター型が実現していました。従って先駆的事例として非常に重要である。
(図53)
②教室への両面採光の完成形である 
次にクラスター型教室配置を採用したことによって教室に光と風が両方から入ってきて、非常に気持ちのいい空間ができる。そういう考え方を両面採光と呼び、松村正恒は多くの小学校でそれにチャレンジしていましたが、日土小学校は、その完成形であるということです。これは東校舎の矩計図で、両面採光の様子がよくわかります。実施設計図は一式きれいに八幡浜市役所に残っております。それ以外の建物の図面も非常にいい状態で残していただいています。この矩計図は1日眺めていても飽きない。本当に微妙な細かい設計がなされております。
僕たちは、ドコモモ・ジャパンが展覧会をしたときにこの日土小学校の20分の1の巨大な模型をつくりました。この実施設計図だけでつくることができました。何を言いたいかというと実物と全く差がないということです。竣工図かと思うくらいの実施設計図である。頭の中で全て彼は把握していたということがよくわかる図面です。
②木造とスチールを組み合わせたハイブリッドな構造形式である。
(図54)
構造も非常におもしろいことになっています。木造とはいいながら、鉄筋のブレースを入れることで壁をなくして、横力に抵抗していたり、必要なところにはアングルでつくったトラスが入っている。自由自在でハイブリッドな構造計画になっていて、これは木構造の歴史のほうから見ても非常におもしろいことです。
③現代建築においても他に類を見ない豊かな空間性を持っている。
日土小学校には何より非常に豊かな空間性があって、あんな空間は、今いろんな新しい学校がつくられていますが、ほかになかなか例を見ない現代的な空間とも言えます。あらゆる空間が子供たちの居場所なのです。
④戦後の民主的な教育思想を空間化した建築である。
(図55)
少し理屈っぽい解釈にはなりますが、そういう空間は、ただ「すてきね、豊かね」ということだけでなく、日本が戦後解放されて、民主的な教育をしなければと言っていた教育観をただ時間割に反映するのではなくて、空間に反映した稀有な例であろうと思います。
(図56)
これは川に迫り出したテラスのひとつですが、そこに女の子がひとり立って遠くを眺めています。これは当時、『建築文化』に発表されたときに採用されている写真です。今どきの小学校に子どもが1人ポツンとたたずんで、遠くを眺めるような場所はあるでしょうか。非常に豊かな空間だと思います。
⑤欧米のモダニズム建築に対する独自の解釈を示している
(図57)
先ほどオランダの例をお話ししましたが、日本に欧米の近代建築が入ってきたときに、いろいろな変形が行われました。その中でも、日土小学校にはかなり独自の解釈が見られます。屋根の部分を手で隠してしまうと、水平連続窓がスーッと走って、グロピウスが設計したかと思うような絵に描いた近代建築になります。でも、平気でスレートかわらの切妻屋根を載せて、軒を出しているわけです。地域的に雨の多いところですから、フラットルーフはとんでもないということです。そういうローカリティーとインタナショナリティーを非常に巧みにまぜたおもしろい事例だと言えます。
(図58)
こういうことをいろいろ考えていくと、日土小学校という建物には、歴史的な価値がある。また、今の学校としても全く見劣りしない。そうすると、歴史的価値と現在的価値があるわけですから、残して、かつ使えばいいではないかという結論に至ったわけです。

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