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白木(独立行政法人国立環境研究所) 東京大学の博士課程の学生で、今国立環境研究所でアシスタントをしております。ふだんはエネルギーのモデルに関することをやっているので、このような建築の話は初めてで、大変興味い深く伺いました。
今、ラベリングの話もされていましたが、デベロッパーやテナントがゼロ・エミッション・ビルディングにすることで得られる便益、取り組むためのモチベーション、そのあたりについてもう少し詳しく伺えたらと思います。ラべリングや、早く許可することで金利が得するよという話がありましたが。
田辺 住宅のような小規模なものであれば、現在ではネットゼロにすることでそんなに大きくコストアップはしない。1割、2割は増える可能性がある。積水ハウスの新しくできる新築の物件はゼロ・エミッションですが物すごい勢いで売れています。特に富裕層の人たちで新しく住宅を建てるときにはかなりの人はこれを選んでいる。光熱費ゼロ住宅をやっていらっしゃる住宅メーカーもありますし、住宅に関しては完全に射程圏内に入っているんじゃないかと私は思います。燃料電池と3電池の組み合わせをやっているところもあると思います。
それでは、ビルでどこまでやるかというときには初期投資をどう考えるかという問題が非常に大きい。ヨーロッパでもニアリーの話をするときに、コスト・オプティマイゼーション、投資効果をどの辺に持ってくるかという話が相当議論されています。技術者はゼロに近づいていくのがいいのですが、現場ではどこまで選ぶか。私は市場で決まると思います。例えばニアリー・ゼロのビルを使ってラベルをつけることで入居者がそれを選ぶということがあれば、それは非常に大きな影響を持つと思います。ただ、現在のところ、オフィスビルのテナントビルは、駅からの便益と都心3区とで地代が7割、8割の影響を持っていますから、環境性能そのものがどこまで効くか、判断はなかなか難しいです。DBJの認証やCASBEEの認証やLEEDを持っていて、テナント賃料が高くなったり、空室率が低くなることに波及していけば、そういう方向に向かっていくと思います。
私は行政官ではないですはが、政策をやっている人からいくと、まずはラベルなどでインセンティブをつけて経済的に乗るようにするという話と、補助金をつける。ビルは補助金では難しいのではないかと思います。3番目は規制するということです。建物に関しては省エネ法の計算する、提出する、守る義務は2020年までに始まる。今までは数字を出すだけでしたけど、計算して出さないといけない。住宅は2020年までですが、これは憲法上の問題がいろいろあるらしいです。地震だと耐震住宅をつくらないと、ほかの人に迷惑をかけるんですが、省エネ住宅は住んでいる人が快適になったり便益があることの規制ですから、そこを規制すべきかという根本の議論がある。お金がなくて断熱がない家しか建てられない人は、その家しか建てられないのが憲法上の権利ではないかという話もあって、非常に難しい問題があるとは聞いています。私はやるべきだと思います。日本は住宅等に私有権が強いので、こういう問題を解決していかないといけないなと思います。我々もモデル化などしていますが、どうやったらいいものが普及するかを考えられると非常にいい研究になるのではないかと思います。
丹羽 ライフサイクルのコストを最小にするような投資を探す。やみくもにゼロを目指するのではなくて、ライフサイクルで最も小さくなるところを投資限界にしようという考え方があります。ヨーロッパがそれで、各国でいろいろな取り組みを決める。多分エネルギー事情が違うので、それぞれでコスト・オプティマイゼーションを探して、そこを目指してやるということですね。日本ではNEDOの補助事業や割と金銭補助的なところしかないのかなと思いますが、それ以外のインセンティブは確かに必要だろうと思います。
田辺 考え方なので、世の中でテナントビルを借りるような会社が、こういう性能が高いものしか選択をしなくなれば、絶対そういう方向にいくわけです。そういう建物の供給量が少なければその部分の需要が上がるので、テナント料も上がる可能性がある。だんだんそういう勝負になっていく可能性は、あるのではないかなと思います。
伊藤(キッセミ㈱) 今エコハウスの開発をしています。冬暖めるのは太陽光などいろいろありますが、夏冷やすのは扇風機とクーラーくらいしか思いつかないんです。先ほどマレーシアで放射冷却を使ってやっていると伺ったのですが、何かいい事例があったら教えていただきたいんですが。
田辺 住宅でいうと、私どもが最初にお台場で提案したものは、エジェクター冷房機というのです。太陽熱を使ってエジェクターで冷える。17度くらいの冷水がとれるというのを提案しています。スケールメリット的にまだ難しいです。現状では、日本の家庭用エアコンは物すごく性能がいい。これをどう使うかというのをきちんと考える。住宅はいかに使うかということだろうと思います。
ただ、その前に、日射の遮蔽と負荷をいかにとるかということをする。外気温よりは基本的には低くするのはなかなか難しいですから、特に蒸し暑い、湿気の多いところは夜間の放射冷却は非常にとりづらい。それと、エアコンを最小にするような住宅をどうやって考えていくかということだと思います。30度くらいまでは住宅だと放射温度を室温と同じくらいまでコントロールすれば、扇風機と涼風があれば過ごせるんです。それが2度高くなるとだめですね。建物外気のつくり方、遮蔽の仕方というのは非常に大きい影響があると思います。
それから、熱容量がある建物は弱みもあって、外断熱の住宅は無冷房では過ごせない。私の家は自然換気のシステムをつけて、夜でもあけていますが、自然換気の問題点は風が入り過ぎるんです。それから、あけっ放しにするとほこりが入って奥さんに文句を言われる。適度なほどあけておくというのが重要です。バランス窓を僕らは提案して、私の家にもつけてあります。7枚くらいついています。奥さんが、朝方の気温を見て、今日は何枚と手動であけています。寝るときに25度を切らないときは冷房しないと苦しいです。朝方の外気温が25度を切るときは枚数をうまくコントロールしておくと、外気冷房で、自然換気である程度うまく制御できます。ぐっすり寝ていますので、大丈夫だと思います。熱容量等の考えも非常に重要になってくると思います。まずは天井遮蔽や遮蔽をうまくする。エアコンは非常に性能がいいと思います。
(図)
丹羽 住宅ではないんですが、左上のものがマレーシアの建物で、外壁に角度がついているのは直達日射を減らすという意図だろうと思います。東南アジアはこういう建物が多い。
田辺 赤道直下なので、東西南北がないんですね。オリエンテーション設計をしませんので、シンガポールも、北側にも直達日射がバンバン当たりますから、ああいうふうに斜めに入れると、直達が明るくなるという設計をこの建物はしています。ですから、日本と同じようにはなかなかいかないです。夏の過ごし方は、湿度が非常に厄介です。どうやって取り扱うかです。
丹羽 時間になりましたので、ご講演いただいた田辺先生に盛大な拍手をお願いします。(拍手)
(了)

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