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フリーディスカッション

丹羽 それでは、質疑とディスカッションに入りたいと思います。まず、田辺先生のご講演に対する質疑からいただこうと思います。よろしくお願いいたします。
尹(名古屋市立大学・工学芸術研究科) 先ほど、フランスのリヨンの例でZEBからコミュニティーへというコメントがございました。なるほどと思いました。つい建物に目がいってしまう。コミュニティーやカーシェアリングの話も出ましたが、コミュニティーとなると、電気技術者の協力が必要だったり、カーシェアリングになると社会工学の技術者が必要になる。そのことを考えたとき、課題が多いと思います。建築技術者はそれに備えて必要なものがあるのではないかと思いました。その辺についてお話ください。
田辺 先ほどのリヨンの開発は、私が聞いている範囲だと、ナタネ油でコジェネを回すんだそうです。それで吸収式冷凍機を動かして冷暖房するそうです。それをまた送電に戻すなど、かなりおもしろい実験がされています。建築単体でZEBを考えると、電池を乗せようとか、コジェネを入れようとか、隣のビルに融通しようくらいを考えると思います。広く考えると、これから原発の必要性はあると僕は思うんですが、自然エネルギーが増えていくのは目に見えている。その発電量が増えたときに、太陽光発電だと、昼間に非常にたくさん発電をするなど、今までと違うパターンで発電をするようになります。それをどうに使っていくか。負荷を融通するなど、そういう話はゼロ・エナジーに向かうには非常に重要な話なのではないかと思っています。
今は住宅で蓄電池を入れて電気を溜めるというものがありますが、私は実は余り蓄電池に賛成ではありません。あの値段のものを住宅に入れて大丈夫かなと。それなら、もう少し融通して、熱としてためたり、必要なものとしてためていけばいいと思うんです。
ほかの分野の融合については、お答えになっているかどうかわかりませんが、私ども、先ほどの研究機構もありますが、CRESTという文科省の費用をいただいて、林先生を中心に研究をしています。林先生が代表なんですが、林先生は送電網と強電がもともとご専門なので、どうやって送電網の周波数を安定させるか、電圧を安定させるか、そのほかにHEMSなどをやっていらっしゃいます。それから、大学に太陽電池の専門家がいて、どのくらい発電できるかを一生懸命やっている。機械学科の先生は、システムの効率がどうやって上がっていくかをやっている。あるいは実際に明日の負荷が予測できないと、どういうふうに発電したものを使っていくかわからないので、負荷予測を数学の先生がやっている。そういうふうに異分野が合わさると、僕らには及びもつかないかなりおもしろいことができると思います。
建築分野は意外といいかげんですが、一番強いのは負荷データがあるということだと思います。実際の建物の測定をしていますし、ビルであればどのように熱が使われているか、どのように電気が使われているというデータは、私どもが多分一番よく持っていると思います。それも、1時間単位くらいでは電気は全然だめだということがわかってきて、去年くらいから学会に出していますが、私ども1秒計測というのでやっています。そうすると、今まで見えないことが随分見えてきます。秒単位、10秒単位の計測は電力中央研究所くらいしか今までやられていない。建築でも必要な部分は、負荷対応にもう少し細かい計測データも必要とされるのかなと、漠然とですが思っています。
今年度の建築学会で1秒データを出すと結構おもしろくて、トイレにいつ行ったかなど、全部ばれちゃう。今までと違ったデータがわかってきます。NEDOでは、太陽電池は、太田市で500件くらい1秒データが公開されています。どういう用途に使われているかはわからないんですが、非常に貴重なデータです。車の連携をやり出すと、車がどんなふうに走行されているか、いつ暖房を入れるなど、そういうデータも今後のためには必要になってくるのではないかと思います。
ちょっと漠然としていて、ごめんなさい。今から研究を担う世代の人たちに、私は電・建融合と言っていますが、建築と電気の分野がもう一度くっついて、電気の人には空間の豊かさや人が住むところのよさなどを理解してほしいし、我々は電気や制御も含めたことにもう少し詳しくなるべきではないかと思っています。
海老塚(比較住宅都市研究会) 3年ほど前までURに勤めていました。海外の住宅政策に長年関心がありました。30年ぐらい勉強する中で、私も10年くらい前にドイツでわかりやすい省エネ表示の勉強をした記憶があります。今日の先生のお話を聞いても非常にわかりやすい表示がされていて、ドイツも、イギリスも、アメリカも、かなり進んでいる。それに比べて、残念ながら日本では表示がバラバラだし、義務化されていない。これからの話でしょうが、少し遅れているなという感じがしていました。
今関心があるのは、住宅の外断熱です。私も一級建築士なんですが、外断熱は余り知らなかったのですが、外断熱が極めて効果がある。南大沢や幾つかのところで、外断熱改修をすると極めて効果がある。日本では余りやられていないのは、多分工事費が高いからかと思ったら、物にもよると思いますが、せいぜい1戸当たり100万円前後くらいで改修ができて、暖房費が結構節約になるし、暖かいから健康になるようですね。そういう話を聞くと、何で日本で外断熱が普及してないのか。質問したら、日本の建築設計者は、集合住宅の外断熱のことを余り知らないので普及してないのではないかと言われました。考えてみると、URも外断熱は、屋根から始めて、薄い20ミリのものをやったり、結露がする北側(妻側)のところだけ、おっかなびっくり部分的にやったりで、なかなか全面的にやってない。外断熱にするならすっぽり全部やらないと効果がないと思います。欧米では外断熱が常識化されていて、改修も結構進んでいると勉強してきていますが、何で、日本の集合住宅の外断熱が遅れているのか、その理由を教えていただければと思います。
田辺 私の考えを述べます。私の家はRCで外断熱しています。もう4年くらいになりますが、温度変化が少なくて極めて良好のです。総工費の1割くらい変わりますので、値段的な問題もあると思いますが、非常に大きな理由があります。
(図)
これは国交省が出している世帯当たりのエネルギー消費量のデータです。日本はエネルギー消費量がドイツ、フランスよりも少ない。日本、ドイツ、フランス、イギリスを比べると、日本の住宅の戸建ては極端に少ないです。ということは、日本の住宅は省エネなんです。何が一番違うか。暖房が全然違う。暖房は10ギガしかない。ドイツ、フランス、イギリスは40ギガくらいあります。一方で、日本の新築住宅における平成11年基準適合率が4割くらいしかないんです。断熱していない住宅に寒く住んでいる。暖房していないんです。これが一番大きな理由だと思います。もし居間しか暖房しない住宅だったら外断熱すると悲惨なことになります。どうしてかというと、外をくるんで躯体が冷たいので、居室だけ暖房のスイッチを入れて暖まりません。
私は1月に学会があってうちの奥さんとニューヨークに行っていました。戻ってきて3日間くらい立ち上がりません。帰ってきたら12度くらいまで下がっていて、20度に上がるのに約2日かかりました。そのための設備容量を大きく持つと、設備機器が大きくなり過ぎますので、日本の住宅は間欠暖房して居室だけを暖房するためにそのときは熱容量がないほうがいいんです。すぐ暖まります。当時、今は住宅メーカーはなくなりましたが、東芝が東芝メゾンというプレハブを売っていました。ここは徹底していて、発泡スチロールで部屋をくるんですぐ立ち上がります。赤池学さんがひどく批判していましたが、当時もしURが外断熱の住宅をつくったら大失敗していると僕は思います。賢明だったと思います。どうしてかというと、居室に石油ストーブやファンヒーターで暖房していましたから、それを外断熱すると、トイレも、浴室も脱衣室も全部いい温度になってしまうんです。そのためにはエネルギーが要ります。全館暖房しないといけないので、これと全く同じことが起きます。
日本の住宅は、きちんと外断熱することがある時期まで増えると思います。ところが、何も断熱がない住宅から高気密、高断熱な住宅に引っ越すと、エネルギー消費量が増えたりする。何故かというと、ちゃんと暖房するようになる。私はそっちが正しいと思っています。建築基準法上の非居室と言われる脱衣室、浴室で、寒さで年間1万7000人亡くなっています。正式な統計データはないんですが、約1万7000人くらいは亡くなっていると言われてますので、ここを暖かくすれば死なない人が物すごく出てくるはずです。お風呂で死ぬ人が多いと審議会で言ったら、風呂おけなんかないほうがいいと言った先生がいる。(笑)風呂で死ぬのは気持ちがいいんだとか言って、いいかげんにしてくれと言いたくなった。介護されている人は介護されているから風呂では亡くならないんです。元気な高齢者が亡くなるんです。1人で入ってお風呂でいい気持ちになってそのまま亡くなる。1万7000人ということは交通事故の2倍から3倍です。こんなのを放っておいては絶対だめです。ちゃんと断熱する。今はその時期に来ている。
日本は給湯が多いんです。私が住んでいたデンマークは、オイルショックの後、湯船にお湯を入れて入るという生活行為をやめました。大邸宅に行ってもシャワーしかありません。私は留学している間中、お風呂に入りたくて入りたくて仕方がなかった。家には150リットルくらいのタンクしかないんです。あっという間になくなってしまう。そういうライフスタイルを選ぶという方法もありますが、日本はやはり風呂に入っているんです。

さらにすごいのが家電のエネルギー消費量がすごく多い。ドイツより多い。ということは、断熱が悪い家で、局所暖房して、トイレと脱衣室とお風呂が寒い、でも家電製品とゲームはたくさんあって、テレビを見て過ごしているのが日本の生活像です。これからきちんとした環境を求めていくためには断熱気密化は絶対、開口部はよくしないといけない。1回そういう通過点を通る可能性は高いですね。
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