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(図8)
昔、農耕社会のときは農地が非常に大切で、工業化社会になると工場が大切で、今は知識をつくらないといけない時代になっています。その知識はどこでつくられているかというと、実はオフィスが中心です。昔は業種ごとに、例えばCADをやっている方はCADのオフィス、あるいは製図をやっている人は製図のオフィス、ほかの業種の方はほかの業種のオフィスでしたが、コンピューターやITが入ってくることによって、かなり画一的になっています。ブースそのものは意外とデザインが変わらない。その中でどうやって集中して仕事ができるか。日本のオフィスは何となくみんなの顔が見えないといけないので、わいわいがやがややっています。それもいいんですが、集中できる時間が極めて少ない。
私がいたデンマークの大学は、5時になるとほぼ誰もいなくなります。残っているのは日本人と中国人と韓国人のアジア系の人。学内にバスが入ってきて、それに乗って駅まで帰れるんですが、5時を過ぎると、大学の中までバスが来なくなるんです。わざわざ外まで行って乗らないといけない。要は、それ以降働くなということです。ところが、残って仕事をしている我々の論文の方が彼らよりすぐれているかというと、決してそんなことはない。大変悲しい思いをします。僕らは長時間働いてアウトプットを出すことになれている。日本はそれを少し変えないと、とてもではないが、これからの世の中にはついていけないだろうと思います。
(図9)
これは非常に古いスライドです。1919年のグラフです。Vernonというイギリスの研究者のものです。ブリキの工場のアウトプットです。横軸が1月から10月までの月ごとのアウトプットですが、夏になるとアウトプットが低くなる。温度が上がってくる。冬は暖房しているので生産性が高いのですが、夏は暑くなるので生産性が落ちるといったものです。夏場に冷房するなどして室内環境をよくすれば生産性の歩どまりは悪くならない。クリーンルームなどは我々は清浄度を一生懸命上げます。清浄度が悪くてもいい半導体をつくれなんて言う人はいない。でも、人間だけは、暑かったり寒かったり、空気が汚かったりしても頑張れと言えば通用するように思われていますが、そんなことはないと思います。
(図10)
「暑すぎると生産性が低下する」のはよくわかっていますが、一方で省エネをしろということになる。そのままやってしまうと、温熱環境が不満になってしまったり、空調設備が通常26度~25度で設計されていますから、異常運転になってしまって、部分負荷効率が悪いので、実は余り省エネにならないということが起こる。それから、皆さん余り気をつけていないのですが、換気量が一緒でも温度、湿度が上がると、吸っている空気が悪化します。吸っている空気がまずく感じるたりよどんで感じます。アメリカで換気量も減らす時、少し温度を下げるのは空気はフレッシュに感じないからです。これも非常に重要なことです。
(図11) 
実際のオフィスでどのくらい温度の変化によって効率が上がるのかということを調べるためには、通常は、頑張る人がいたり、モチベーションがあったり、部長がよかったり悪かったりということに仕事が左右されるので計量化が難しい。ですからそういうデータは大体コールデンターで行われることが大きい。コールセンターは電話を受けたりかけたりするときに、1人当たりどのくらい電話を受けられているか、その日に異常がないかを全て記録されています。離席も記録されており、誰がいつ立って、どこに行って何分間休んだかも記録されている。通話も記録されています。
(図12)
コールセンターのデータを我々がいただいて、1年分解析しました。このコールセンターは80~120人ぐらいで1日働いています。どちらかというと、アウトバウンド型ではなく、インバウンド型です。電話がかかってくる。特に何か事故があるとたくさん電話がかかってきますので、そういう日は除いています。1時間当たり電話を受ける標準を7.5回ぐらいにして、コールセンターは運営されていますが、温度が上がっていくと、1時間に受ける数が下がっていきます。このことは、最後、イギリスの査読の論文に出して受理されて、いろいろなところでよく引用されるようになりました。1度下がると2%くらい生産性低下する、つまり、受けられる数が減っています。3度ですと6%減ります。25度のオフィスが28度で、個性等を何も考えずに運用すると、6%くらい生産性が減ります。6%はほぼ30分間残業に匹敵します。6%生産性が落ちると、30分余分に働かないといけない。それなら室内環境を省エネで整えて、30分早く切り上げたほうが余程いい。
(図13)
生産性の価値をいろいろな人が計算しています。私どもも日本の人件費で行うと、エネルギー費用に対する人件費の比率は大体100倍から200倍になります。ということは、人件費換算すると省エネなんかしても仕方がないという話になりますが、省エネは必要条件です。ただ、それをどうやって生産性を落とさないで行っていくかということは非常に大きな課題であり、チャレンジです。それがゼロに近づいていけば、エネルギーを使わない方向にいったビルですから、生産性を上げるためにそういうものを使っていってもいいというということになると思います。
(図14)
これは震災の後、我々の研究室で測定したデータです。あるビルで測定をしました。震災前、照明が750ルクスくらい。変えてみると、200~750ルクスくらいまでは不満足者率はほとんど変わりませんが、よく見るとばらつきがありますが、300ルクスくらいでタスクライトを配っています。ここが、若い方と私みたいに老眼になった人で、かなりレスポンスが違います。老眼になった人は、300ルクスではタスクライトがないとちょっと暗いと思います。特に若い女性の方は300ルクスではほとんどパソコン作業は困らない、不満がない。現状のオフィスは震災以降500ルクス以下まで下げましたが、もとに戻っていません。750ルクスまでの設備があっても、500ルクス以下で運用がされているということです。さらにLEDを使うと調光性能がいいので、さらに省エネ化されています。
それから、温熱環境です。普段言っていたことが実証されたなと思います。27度くらいまでは不満がそんなに極端にはないのですが、27度を超えると急激に不満が増えます。被験者実験といって、実験室に入っていただいて実験していると、普通は直線で結んでいくんですが、オフィスの場合、27~28度の間に段階があるような感じが昔からずっとしていました。実際のオフィスではかってみると、27度と28度では雲泥の差があります。私はクールビズで緩和しても27度くらいまではいいよと申し上げています。環境省には実は相当怒られたんですが、今になって、特に東京都は28度設定と書かないで、室温が高いところでも28度以下になるように、と書いてくれています。震災以降、2011年には28度より高いビルがありましたが、12年、13年は、逆に28度のビルから27度くらいのビルのほうがふえています。
それから、空気はCO2が上がると、ダラダラと不満が多くなるんですが、空気の温度が上がる時も不満も多くなってきます。ゼロ・エナジーで運転するといっても、決して室内環境をないがしろにしてはいけない。
(図15)
照明です。タスクライトがあるところは少し満足度が上がるんですが、よく実測を見ていると、タスクライトも必ずしも全て評判がいいわけではありません。タスクライトをどういうふうに使わせるかというのは1つ課題だろうと思います。逆に、天井で調光できたり、合わすことができるほうがいいのかなとも思っています。結果として、内部負荷が激減していまして、震災以降、日本のオフィスのエネルギー消費量は非常に少なくなってきています。照明は750ルクスくらいだったのが500ルクス。あるいはそれ以下ではタスクライトが使われる。テナントもそんなに怒らない。照明は、私どもが竹中工務店さんと測定しているイイノビルでも5ワット/平米でLEDが動いています。一説によると、清水の本社のビルは3ワットから4ワットくらいと聞いています。日建で行われているLEDのビルも、通常の運転が5ワットくらいになっていますから、この分の発熱でエネルギー消費量も減っていますが、空調負荷、冷房負荷が非常に減っている。少し問題なのは外皮性能が悪い建物は寒いという現象がある。国で省エネ法を決めるときも、外皮性能についてはやめると言われて大反対しました。外皮性能を決めないと、今の状態だと外皮(シングルガラス)のほうが、場合によっては冷房の負荷が減りますからいいという人がいますが、将来そのうち必ず負荷が減ってくるので、外皮をきちんとつくっておかないと冬に非常に困る。あるいは中間期に困るので、PALは絶対にやめるべきではないと主張をしています。
(図16)
それからOA機器もすごく減っております。私どもが実測しても、今まで20ワットくらいあったものが10ワット/平米くらいになっていますから、ノートパソコンや、プログラムを入れて40ワットくらいあったのは15ワットくらいになっています。冷房負荷も減らすことにも直結しています。今後さらに外皮性能は重要になってくると思います。
(図17)
 これは私の服のコレクションです。東南アジアの服です。クールビズに反対しているわけではありません。日本人もネクタイをしない服装になってきましたが、もう少し自由な服装がオフィスの中でできるといいと思います。
(図18)

 これはニューカレドニアというところの服です。フランス宗主国です。お姉さんたちがデートで彼氏を待っているところです。蒸し暑いところは、ベルトを締めるとその分、上に対流が起きないので、非常に涼しい。シャツもオーバーブラウスで外に出すアロハみたいなもののほうが実は涼しい。そういうスタイルを続けていくことが非常に重要だろうと思います。

 

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