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海老塚(比較住宅都市研究会) ただ、南大沢は4年経っているんですが、彼らは物すごく快適です。今の先生のお話だと、熱容量いっぱいやらないと暖まらないということですが、むしろ燃料は月2000円くらい減ったと言っています。それで暖かいと。
田辺 私の家も実は極めて暖かいです。1階部分はほとんど暖房していませんが、15度を切ることはないです。大体15度以上あれば危険なところはないと私は申し上げています。居室部分以外は暖房をほとんどしてない。外断熱でくるむとそういうことができます。
丹羽 田辺先生が言われたのは、立ち上がりが遅いというだけで、ヨーロッパは連続空調というか、ほとんどとめることがないということですね。
田辺 でも、そういう設計をして失敗した人たちはたくさんいる。ドイツから日本に暖房を持ってきたときに、パネルヒーターや床暖のポンプの選定のときに、立ち上がり負荷を見込まないで設計する。定常負荷だとポンプは非常に小さくなって、効率はすごくよくなる。それで設計して大失敗した人はいっぱいいます。結局そういう運転をしてくれないのですが、そういう使い方になれれば大丈夫だと思います。
丹羽 例えば、今イギリスで住宅のゼロカーボンのような政策がありますが、イギリスの住宅の断熱は、外断熱と内断熱とどっちが主流なんですか。
田辺 ヨーロッパは外断熱が多いです。
丹羽 ある意味、日本特有なのかもしれません。
田辺 あと、都心部だと壁厚がもったいなどとか、いろいろなことがあります。今後、日本人も高齢化もしていくし、室温の安定からすると外断熱のほうも極めていいと思います。ただし、住み方も変えないといけない。
後藤 貴重なお話ありがとうございました。田辺先生から冒頭、省エネとZEBの違いについてご高説がありました。省エネ建築をやってかれこれ50年がたつと思います。ちょうどそのころは「沈黙の春」もさることながら、成長の限界ということがありました。それと前後して、中東の戦争にかかわったオイルショック。オイルショックのときの省エネというのは、省オイルという認識で、それは仄聞すると、エネルギー会社の方の省オイルということだったと思います。省くとか我慢するというのも確かにありましたが、一方では、「省」を「省みる」と読み直して、省察しよう、エネルギーを根本からもっと考えようという考え方の人もいました。そのときにエネルギーをゼロにしようという考え方ではなく、エネルギーの使用量を最小化しよう。しかもそれには高速料金をつけようと。当時は「快適環境」というのがあったんです。快適環境もさまざまな経緯を経て、ペイできないとかいろいろあって、「至適環境」として、省エネについて建築業界全体で頑張っていこうという話がありました。これは丹羽先生が詳しいところだと思います。
丹羽 今の話は私の先生の話だと思います。
後藤 冒頭に戻りますが、省くではなくて省みるときに、先生がデンマークに行かれる前に、デンマーク工科大学でゼロ・エネルギー・ハウスというのがありました。これも世界中がアッと驚いた用語です。運転結果についてはさまざまな評価がありました。厳しいものから、高い評価をする人もあります。その結果について私は詳しく知らないんですが、その当時の80年代から、先生ご自身から見てどういうふうに評価されているか、そのご見解を教えてください。
田辺 私自身は省エネがいけないと言っているわけではありません。世の中で何かが変わっていくときに、BAU(ビジネス・アズ・ユージュアル)で世の中が転換していくときと、紙でもキーワードでも何かの概念ができて変わっていくことがあると思います。我々がエネルギーをさらに考えることになった大きなきっかけ、または、一般の人がHEMSなんて言うようになったのは、震災契機が非常に大きいと思います。日本人のメンタルに非常に大きな影響を与えていると思います。そのときに、日本的な考えだと思いますが、日本は我慢して縮こまって卑屈な感じにしていると、外の人が「君、頑張っているんだから」と声をかけられたい民族なんですね。心配してもらうことを待っているような民族性がある。これはアメリカに行くと全く通用しない。僕はデンマークに行っていましたが、日本だと困っていると誰か声をかけてくれるという非常にいい文化がありますが、デンマークでは困っていて誰かに尋ねないと助けてくれない。アメリカは騒がないとだめです。「私はこんなにめちゃくちゃ困っているから、あなたには助ける義務がある」と言わないと彼らは気がつかない。
国内にいるときは美徳でもいいかもしれませんが、東京は経済的に発展していかないと全くだめな都市で、震災の後、東京にいたバンカーや金融関係の人が、物すごい勢いで香港とシンガポールに抜け出して戻ってきてないんです。その彼らが戻ってくるためにはビルがグリーンであることや、東京が環境的にしっかり働けることが極めて重要です。食の安全は保たれていますし、非常に住みやすいところだと思いますが、それを変えるには今までと同じでは多分だめだと思います。
新しいスマートグリッドの概念やスマートシティの概念もうまく建築の中に取り込んでいく。ZEB、ZEHというのは単体ではなくて、その中の1つの位置づけです。省エネであり、超省エネであるというのは変わらないけれども、きちんと打ち立てていくことが必要だろうと思います。
デンマークのゼロ・エナジー・スクールとかハウスとの大きな違いは発電するところです。太陽電池と燃料電池、コジェネが格段に進みました。もう一方で、使うほうのヒートポンプの技術も非常に進んできた。技術がポンと出ると、世の中が変わっていくんだろうと思います。震災前に電化の話がすごく出ました。今から30~40年くらい前に、将来の住宅はどういうふうになるかを書いた本があるんです。何が書いてあるかといったら、石油ストーブが2台になる、テレビが何台になるなど、BAUでしか予測ができていない。例えばエコキュートの出現は全く予測できていない。ある新しい技術、例えば燃料電池やエコ給湯が出てくると世の中は変わっていくので、その表現をどうやってしていくか。私はZEBをそういうふうに捉えています。必ずゼロにならないとZEBではないかというと、そうではなくて、それを目指していくことが正しいんだろうと思っています。
日本は結構難しくて、今回のZEHの住宅の提案でもそうでしたが、冬にエネルギー性能を出すのにアジアを対象に提案しろと言う。審査員は何を考えているんだと思うんですが、そういう非常に難しい問題を突きつける。寒いところは比較的楽ですね。今スウェーデンやデンマークで新しく家を建てるときに、リビングを北側につくるんです。4重ガラスや5重ガラスで、日射でストックするとオーバーヒートしてしまう。オーバーヒートさせるときは窓をあければ大丈夫です。でも、北側リビングというプランが出てきてプランが変わっています。アジアも冷房しかしないので、マレーシアのZEBは放射で冷やしていますが、冷やすことしか考えませんから、比較的楽です。日本の気候は、夏は熱帯のように暑いですし、冬は寒くなります。ここで培われた技術は世界で普及する可能性があると思います。個別分散だって非常にたくさん技術があるし、セントラルだってある。そういう一方通行でないところが日本の難しさでないか。その意味では日本の家屋は夏と冬で、障子をあけたり閉めたり、建物のしつらえを変えることでやってきたのですが、今のビルではそれはなかなか難しいかもしれません。そういう外皮のあり方があるのかなと思います。
お答えになっているかどうかわかりませんが。
後藤 デンマークのゼロ・エネルギー・ハウスについてのコメントもお願いします。
田辺先生 非常に先駆的だと思います。エネルギーがない国なんですね。原子力は使わないと決めていまして、非常にコストも高い。そういう国民性が背景にあるではないかと思います。湯船に入らないという運動をして住宅に湯船がないんですから、徹底していると思います。

 

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