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(図19)
ゼロ・エナジー・ビルといって、調機器が変わればいいというわけではなくて、中に住む人のビヘービアをどう変えていくかというのも、非常に重要なことの1つです。それが我慢ではないということが重要だと思います。
(図20)
ネット・ゼロ・エネルギー・ビルが日本で最初に言われたのは、多分「ZEBの実現と展開に関する研究会」からではないかと思います。震災前の2009年の5月から11月までに、経産省の資源エネルギー庁で行った研究会です。
この中で、日本で2030年までにZEBを達成しようという目標を上げました。イメージが幾つかあります。ただ、1つずつ見ると、そんなにすごいシステムを書いているわけではなくて、光ダクトや変風量、CO2など、今あるものをどうやって統合していくか、どう制御していくかということで、どんなふうに実現していくかということが非常に重要だと思います。当時、4階か5階建てくらいまでだったら、発電して敷地内でゼロになるのではないかという試算が行われています。高層になれば、皆さんご存じのように、その場でゼロにするのはなかなか難しい。
(図21)
この研究会ではZEBの定義をしてあります。一次エネルギー消費量で定義をしよう。省エネ性能を向上させて面的利用するとか、オンサイトで行うんですが、オンサイトで正味がゼロとなる建築物なので、基本的には、住宅やそれより少し大きい程度の建物しかオンサイトではなかなか難しいということになります。
(図22)
この研究会でも議論されていますが、それなら、外から持ってきてもいいのか。この研究会では敷地外からのオフサイトは、定義に入れられていません。この頃には、将来の省エネ法の改正が多少視野にあったので、一次で計算するときに、外からエネルギーを持ってこないとゼロにならないような規制をしてしまうと確認ができない。確認申請もできないし、ほかのものを当てにするようなものを出せないので、かなりコンサバティブな(保守的な)定義をしています。バウンダリーをどういうふうに設定するかというのが大きな問題です。例えば、メガソーラーの発電所がある横に、敷地の中にビルがあったらどうするのか、メガソーラーでたくさん発電しているんだからゼロになるのではないかなど、非常に変わった例もあります。しかし、このZEB研究会の定義は非常にコンサバティブな定義をしています。
それから、Eをエミッションと見るか、エネルギーと見るかということもあります。二酸化炭素で見れば、敷地の外からチップを持ってきて、バイオマスとチップでエネルギーをつくる。それをゼロ・エミッションと呼んでいます。オランダの空港の近くにあるTNOの新しい建物は、ゼロ・エミッションのビルが既に実現されています。バイオマスとチップで発電と熱をつくって供給をしています。
(図23)
前後して出てきたのが、建築物の省エネ法の基準です。皆さんよくご存じですね。実際の建物で、基準の仕様があって、冷暖房、換気、照明、給湯、昇降機、事務機器の基準の一次を決めて、それに対して、実際の計画の値を入れる。太陽光等には発電分を引いてゼロになればZEBになるわけです。ZEBも幾つか定義があって、ヨーロッパでは事務機器分は入れないという定義もあります。事務機器分は入れないで、省エネ法の空調、換気、照明、給湯、昇降機の分から発電分を引いてZEBと呼んでいるものもあります。足すものもあります。定義としてなかなか難しいところがあります。日本の省エネ法は、実はZEBがそのままわかるような定義になっている。これはZEB研究会のときから使われているものだろうと思います。
(図24)
空気調和衛生工学会の委員会でも、この一次エネルギー消費量がもとだろうとされています。ビルに関しては省エネ法の計算が義務化される。住宅も2020年までには義務化される予定です。
2月28日、「建築物の省エネ性能に関する評価・表示シンポジウム」が国交省や性能表示機関によって開催されます。これは既に満員になっているそうです。そこで何をやるのか。対象建築物に対して、今申し上げたような基準で評価して、ビルディング・エナジー・インデックス、建物でどのくらいエネルギーを使っているかというERIの逆数のようなものですが、これについてのラベルをつくろうということが既に計画をされています。2月28日にはラベルが発表になる予定です。星マークがつきます。性能が従来のものの半分くらいだと星が4~5つつくなど、計画されています。新築以外のものも、昔のPAL・CECがあれば、読みかえができると言っていますので表示ができるようになる。計画時表示になるだろうと思われます。
今申し上げたような日本の動きも、ゼロ・エナジーに向けた動きです。もちろんある規模以上のビルはゼロにはなりませんが、目指すところはゼロです。計画時にゼロになるのか、運用されているときにゼロになるのか、この2つもラベルとしては大きな意味があります。ただ、我々のように建築をやっている人は、計画のときにゼロになるというのがまず第一の考え方です。パソコンや住宅であれば家電機器をあらかじめ考えないでゼロになるという少し緩い定義と家電も含めてゼロになるという定義の2つがあります。その後、本当にゼロになるかというときには、いいビルを建てれば建てるほど、エネルギー消費量は多くなる傾向にあります。お客さんが入る、長時間使われるなどをどうノーマライズするかというのは実は非常に大きな問題です。この運用のときのゼロ・エナジーの評価は、日本でも経産省主導でラベリング化というのが行われたんですが、大反対に遭って頓挫したままになっている。これはまた議論が起きると思います。
あるビルをつくったときに、8時から5時まで使います、あるいは6時まで使いますと計画していても、実際はすごく儲かっている会社が入って10時まで残業すると、その分増えてしまう。よいビルほどそういう傾向にあります。ゼロ・エナジーの百貨店をつくった。だけど、すごく売れればお客さんが入るので空調も暖房もしないといけない。ここをどうノーマライズするかというのが次の仕事です。
(図25)
ヨーロッパにもやはりEPCとDECという2つのラベルがあります。省エネの設計時評価は、既に2006年から施行されていて、市場に浸透しています。このラベルを日本でも任意にでもつくろうというのが、先ほどの2月28日にシンポジウムで話される制度です。イギリスの場合は25の用途と20の活動に分けています。エネルギーは、設計段階における予測値と、運転管理の状態が評価されます。A+になるとゼ ロになるということです。イギリスだけは省エネ法を改正してCO2で表しています。ヨーロッパ大陸はみな一次エネルギ―ですが、イギリスだけは省エネ法がCO2体系なのでCO2です。A+でゼロになる。このラベルの色と表示は、ヨーロッパでは冷蔵庫などの家電製品のマークと同じですから、ヨーロッパの人にとっては非常になじみ深い。中国はこれをまねしてほとんど同じ色のマークです。アメリカも最近同じ色のマークを使うようになりました。ただ、アメリカは大学の成績にGはないからとFまでにしていますが、色はほとんど同じです。
真ん中のところが100なので、Dランクをとると99でほぼ平均です。日本であれば、省エネが満たされていればここですよということです。今度の新しい日本の表示制度でも、1つ星、2つ星、3つ星というマークをつける。ただ、今のところ、ゼロ表示はできないから一番上のところでとまってしまいますが、こういう表示が行われるようです。
(図26)
一方、DECといって本当に運用したときのラベルもあります。これは使う人がどんなふうに使うか、行動(ビヘービア)が入ったものです。機器としては非常に省エネ性があるが、実際に中に入っている人が良い管理をしてくれない。そういう制御等も見据えた機械を提案することが非常に重要になってきます。計算上、計画時のエネルギーは一緒だけど、実際に使ってもらったらAのほうが省エネ性能やエネルギーは少なくなる。それは使い方や使わないところは消せるようなシステムが大切です。照明に幾らLEDを入れても一括でしか消せない、窓際だけの消灯ができないなどがあると実用上のエネルギーが多くなる。そういうヒューマンビヘービアを考えたものが非常に重要になります。
こちらも、Aがゼロになるんですけれども、A、B、C、D、E、Fといっています。イギリスでは公共施設は表示が義務化されていますが、民間は自由です。アラップの本社に行くとちゃんと貼ってあります。
難しいのは、使っている人の分のコンセント負荷等が入っているので、それは中に入っているテナントや事業者によって変わるということです。
(図27)
これはイギリスの気候変動省の建物で、日本でいうと環境省とエネ庁の中間のような建物です。ZEBの研究会があって、2009年に当時の経産省の省エネ課の課長と一緒に調査に行きました。その時ヒアリングのため気候変動省を訪ねました。制度が始まっているのは知っていましたので探したら柱の裏にありました。柱の裏に隠すようにペラッとテープで張っているだけです。見てください、Gですよ。普通の建物より165%たくさんエネルギーを使っているんです。ヒアリングがありましたので、向こうの担当官に、「このビルはGですが、知ってますよね。貼ってありました。」と質問したら、さすがイギリス紳士で、「田辺さんみたいな人に来て、見てもらって公で発言してくれれば、改修費用が出るから、ぜひ言ってくれ。そのために貼っている」と言われました。さすがイギリス紳士は切り返しが早い。
(図28)
私が言ったから改修したというわけではないでしょうが、次の年に行ったらDになっていました。前の年はペラッと紙を貼っていたのに、今度はちゃんと額縁に入っているんです。(笑)Dということは、通常の新築省エネ基準が守れるくらいまで設備改修をした、断熱改修をした、機器を改修したということです。素晴らしいです。

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