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東日本大震災からの復興と今後の防災まちづくり

笠原 ご紹介いただきました国土交通省都市安全課長の笠原でございます。ご紹介いただきましたように、私は、国交省の土木系の技術職で、入省以来、都市計画、都市開発、都市交通などの仕事についてきております。去年から都市安全課というところにおります。国交省は道路とか鉄道とか、いろんな局がありますが、都市行政の中での安全に関する窓口、取りまとめをやっている課でございます。
今日は、最近、国のほうで進めている復興事業や、首都直下、南海トラフの被害想定、計画づくりなどについて国の取り組みを紹介していただきたいという話をいただきました。これから説明申し上げますけれども、国全体の取り組みというと膨大になりますし、いただいた時間が40分ですので、絞り込んだ資料をお手元に配りました。これも時間の関係で説明し切れないところがございますので、飛ばし飛ばしで説明するところもあるかと思います。あえて資料として配付させていただきましたので、説明できなかったところにつきましては、お持ち帰りした後で、ご興味のあるところを見ていただければと思っております。
前半に、東日本大震災からの復興をお話しして、後半に、全国的な都市防災対策についてお話を申し上げたいと思います。
(図7) 
まず、東日本大震災の概要でございます。これは皆さんよくご存じの話だと思います。岩手県、宮城県沖約130キロのところでマグニチュード9.0の地震が起きました。仙台市内等においては震度6強で揺れたということであります。死者、行方不明者約1万8000名、建物被害は、全壊が12万棟を超えています。原子力被害ということで避難されている方も含め、約30万人の方が避難生活を送っているということであります。
(図8)
今回の震災の特徴を見ていただきます。東日本大震災では、死者の方の死因の約9割が津波による死亡です。溺死が92%です。同じように、過去の大きい震災で、阪神・淡路大震災のときには約8割の方が、建物が倒れて、そこで下敷きになって亡くなられました。火災によって亡くなられた方もいらっしゃいますが、建物の倒壊によるものが約8割です。さらにさかのぼりまして、90年前の関東大震災では、火災で9割の方が亡くなっていらっしゃいます。いずれにしましても、今回の最大の特徴は、津波による人的な被害が非常に大きかったということです。
(図9)
津波の被害の範囲も、東北から関東に至る沿岸約600キロにわたっております。津波の高さは、30メートルを超えるようなところもありましたし、8メートルから10メートルという津波が広い範囲で起きました。
(図10)
これは気仙沼の写真であります。気仙沼においても大変大きな被害で、約1万4000名が死者・行方不明になりました。
(図11)
これは名取市です。川を渡れば、仙台市になります。三陸沿岸の方々は、古くからいつかは津波が来るかもしれないと、津波の怖さは知っていましたが、名取市の幹部の方やこの沿岸の方に聞いてみると、津波でこういうことになるということを市民で意識していた人は余りいなかったのではないかということでした。海岸線がリアス式じゃないところでも津波の被害に遭っています。
(図12)
これは陸前高田の写真であります。
(図13)
私どもは、都市局でありますので、津波に遭った町の復興を考えています。大きく分けて2つの事業手法を使っています。1つは、新聞等で見られていると思いますが、高台移転という手法であります。事業名は、防災集団移転促進事業といいます。海に近い津波に遭ったところを、もう住宅は建てられないという形で建築規制をかけた上で、ここの土地を買い取り高台に別途土地を買って、そこに移り住んでいただく。全員が行くわけではありません。東北の今回の震災では、移転促進区域は約3万戸を超える住宅を買いますけれども、住宅団地の造成は約1万2000戸ですので、その他の方は、災害公営住宅とか一般の民間住宅に行かれることになります。
(図14) 
これは具体の例で、岩沼というところでやっている事業です。沿岸の津波をかぶった土地を買い取って、同じように、被災した方に移り住んでいただくという手法であります。
(図14)
もう1つは、土地区画整理事業という手法です。地盤をかさ上げする場合はこの手法を使います。山の上に土地を買って分譲するのではなくて、被災したところの中で、やや標高の高い側の地盤を上げる。実際には土は山のほうから持ってこなければなりませんが、地盤を上げて換地という手法を使って、移転してもらうという方法です。
(図15)
これは気仙沼の例ですが、海に近い側については工業系の土地利用で、内陸側を住居系の土地利用にして、住宅の人はかさ上げしたところに集まってもらうという事業です。
(図16)
震災があってから3年がたちましたが、高台移転につきましては、335の地区でやっていて、9割ぐらいが着工するところまで来ました。土地区画整理事業、かさ上げをやっている事業が50地区ぐらいありますが、こちらも73%ということで、3年目になってやっと工事が本格化したということであります。
(図17)
 この先どうなるのかという見込みですが、実際にはつい3月末までにわずか数%しかでき上がってないということなので、3年たって復興が遅いじゃないかというお叱りを受けております。
27年までにたくさん進めたいと考えておりますけれども、面整備も5割ぐらいですし、公営住宅は8割ぐらいということですので、27年度末でもなかなか全部は終わらないという状況であります。
(図18) 
宅地の液状化被害というのもあります。浦安市等で2万7000戸の大きな液状化被害がありました。実際には現地での復旧工事は終わっていますので、再度の震災で液状化をしないように予防の対策工事ができないかということを模索しています。現在は茨城県下の2つの市で事業を進めているのと、千葉県下の2つの市で事業化に向けて地元の調整を進めている状況です。
(図19)
今回、液状化については、東京でも新聞等で、浦安市等で大きな被害があったと報じられていますが、こちらにいて目にしないのは、造成宅地の滑動崩落がたくさん起きているということです。仙台市の周辺は、斜面の住宅地がかなりありまして、ここの盛り土だった部分が大きく崩れたという被災がありました。ここに書いてありますように、6000戸を超える住宅が道路もろとも崩れたということがありました。仙台市内の非木造の建物などは余り被害に遭っていませんが、周辺で造成宅地が崩れるということがありました。この約6000戸につきましては、全面的に災害復旧の事業ということで既に事業中でございます。ここに書いてありますが、27年度末には100%に近づけるような対策工事をやっているところであります。
(図20)
今回の復興に取り組む上でいろいろな難しさがありました。
1点目、今回、復興計画づくりに難しいところがありました。よく阪神・淡路大震災と比較されますが、阪神・淡路大震災の場合は、土地区画整理事業、再開発事業を幾つかの地区でやりましたが、ここは土地区画整理事業をやるだろう、ここは再開発事業やるだろうという特定は早くできました。一方、今回の復興は、かさ上げなのか、高台移転なのか。高台移転するにはどこへ持っていったらいいのか。神戸のときと比べると、計画づくりの自由度が大きかったので、どこにどう町を戻すのかを決めるのが難しかったといえます。
阪神・淡路大震災では全体の市街地の中の特定の部分だけ、土地区画整理事業や再開発事業をやりましたが、今回の震災は、先ほどの写真でお見せしたように、ごっそり町が流されているので、そういう人たちの意見を聞かなければなりません。また、移転した先が内陸のほうとか、いろんなところに仮設住宅があるので、そういう方々の了解をとるのに時間がかかったということがあります。
災害のあった直後からだんだん時間がたつと、海の近くは怖いからやっぱり戻りたくないとか、戻っても構わないとか、もう別の町に住んでしまおうとか、やっぱりもとの町に戻りたいとか、住民の方々の意向もかなり動いたということもあって、合意形成が難しかったといえます。
それから、都市整備技術者の不足ということがあげられます。今回は被災した自治体がいずれも小さな町でしたので、それぞれの町に復興事業をやる技術者が余りいないところが多かった状況でした。首都圏等から人材の派遣を各自治体にお願いしましたが、最近この10年、20年それぞれ市町村でも、土地区画整理事業や再開発事業をやっていない自治体が多く、そもそも送り出す側が事業をやっていない状況でした。特に30代で土地区画整理事業のわかる者がいないということが多くて、難しかったです。
防災集団移転ですと、用地を買わなければなりませんが、現地で地籍調査をやっていなくて、公図が混乱していたり、実際に土地を買おうとすると、不明地権者がたくさんいたり、相続手続が終わっていないということもあって、先ほど申しましたように、防災集団移転だけでも300団地の用地買収にすごく苦労しました。
それから、これからの話になりますが、陸前高田でも、相当量の土を動かすので、かなり時間がかかります。
土工のアンバランスと書いてありますが、かさ上げしたいところに土を持っていくことと、山を大幅に切るということで、1個の開発地から別のかさ上げ地に大量の土砂を動かすということがあったので、この辺も大変でした。
それから、これからの話になるかもしれませんが、建設費も高騰し始めて、単価見直し等もやっています。それも大変ですし、技能工ということで、主に建築関係、型枠工とか配筋工の不足がこれから顕在化してくるかもしれません。こんな課題があるということであります。
(図21) 
次に、今後の防災街づくりということでご説明申し上げます。まず、我が国の特徴に触れてみます。ご存じと思いますが、世界全体で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割が我が国で発生しているという、地震がすごく集中する国でもありますし、今まで想定していなかったところでも大きな地震が起きているということがあります。
(図22)

我が国の特徴として、内陸部よりも沿岸域に近いところに非常にたくさんの方々が住んでいますので、南海トラフ地震の被害想定でも津波被害が非常に大きく出るような想定になっています。
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