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フリーディスカッション

岡田 大佛先生、どうもありがとうございました。
今日は、本来であれば笠原課長も、大佛先生も、それぞれ1時間半くらいしゃべっていただく内容を40分くらいにダイジェストに、しかも高密度にまとめてお話しいただいたということで、とてもお得感があるフォーラムだと思います。笠原課長のほうは、マクロ的な施策を中心にお話をしていただきました。大佛先生のほうは、シミュレーションというツールを深度化することによって、もう少しミクロ的な、例えば災害がどういう形で起こりそうだとか、どういう対策をすれば効果として期待できるかという問題、あるいは情報提供というフレームワークをつくっていかないと、対応はなかなか難しいということなどがわかったような気がいたします。
今日は、ある意味では対比できるような材料をお話いただいたわけですが、これから議論をいただく中で、管理、連携、今後この内容をより深度化するために考えなければならないテーマ等々についてご意見を賜りながら、フォーラムを深めてまいりたいと思います。
まず、ご質問等あればご自由にお願いしたいと思います。
新海(応用技術㈱) 広域のシミュレーションの紹介をいただきましたが、その中で、徒歩で歩いて帰る場合に、今後の都市の施設整備を考えたときに、どういう観点に重点を置いて、広域のシミュレーションを進めていったらいいのか、そういうアイデアをお持ちであれば、ぜひお話しいただければと思います。
大佛 ご質問ありがとうございました。大変重要な視点だと思います。一番最初の話題で、徒歩帰宅者の支援という話のところだと思います。あれは施設の容量と、支援を求めて立ち寄る人の数のバランスしか検討してございません。ご指摘があったように、そこでどんなサポートが可能か。例えば、けがをしている人がいれば医療の体制が必要ですし、それが朝、昼、晩、いつ起きるかわからないので、何時に起きたらどういう体制をとるべきだという対策をきちんと考えて、それを評価するようなシミュレーションの内容ができたら良いと考えております。
岡田 逆にお聞きしますが、ふだんシミュレーションを業務としてなされていますか。
新海(応用技術㈱) 我々も広域の人の移動のシミュレーションや、火災なども考慮して、人の細かい動きをさせるというシミュレーションに取り組んでいます。広域のシミュレーションの中で、今は人の移動ということですが、緊急支援や救急車、消防車の移動の中で、車の移動をどう考えるかというところが、シミュレーション上どうしても重要になります。通れるところ、通れないところが出てきますが、広域の人の移動のシミュレーションでどういった観点、どの辺を重視してやっていったらいいのか、我々も迷っております。そのような観点でもお話を聞かせていただければ大変ありがたいです。
大佛 シミュレーションの冒頭に、「都市内滞留者、移動者の時空間分布を求めることから始める」という話をしましたが、人だけでなくて、車の時空間分布もやはり重要で、取り組んだ研究はございます。現在VICS等々の精緻な観測モニタリング技術がありますし、カーナビのビッグデータを使うこともできます。どこにいるかというのはとりあえずわかったとしても、発災後にどう動くかというのがまだよくわからない状況です。どうやってモデル化していいかもよくわからない。できればそういう点についてナレッジシェアをしながらトライしたいなと思っておりますので、むしろアドバイスあるいは一緒に勉強させていただければ幸いです。
岡田 実際の業務の中では、シミュレーションされるとしてどういうふうに活用されたり、実際の防災計画の中に活かされるような形でかかわっていらっしゃるのでしょうか。
新海(応用技術㈱) 我々としては取り組み始めというところもあります。どのように活かしていくかという点で言えば、実際災害が起こったときにどういうふうになるのか、まず把握をすることが重要です。その上でどんな対策をするのか。前回の大震災のときには交通関係が非常に混乱しましたが、建物が壊れたり火災が起きたりということがほとんどありませんでした。そういうことが同時に起きたときにどうなるのかということをどうシミュレーションして、想定していくかというところが、広域の面でも必要なのかなと思っております。そのときに都市整備というものがどう絡んでいけるのかというテーマに我々は興味を持っています。
岡田 突っ込んだご質問をして済みませんでした。
ほかにいかがでございましょうか。
では、私のほうから、笠原課長にさせていただきます。今、大佛先生のほうから、災害状況の可視化や対策をシミュレーションを通じながら評価する方法をご紹介いただきましたが、課長のほうからご説明いただいたいろんな施策がどういう効果を持って実現できるか、あるいは計画を立てるときに、そういったシミュレーションをうまく活用して災害状況を再現することで、より迅速に、重点的にやるべきことを見つけながら、計画を立てていくという方法もとれるように思いますが、そういったことは、今の国とか東京都等の防災計画のプログラムの中で活かされているというか、取り組みとして反映されている部分はあるのでしょうか。
笠原 今の帰宅困難者の想定は、たしか10キロ以内の人はほぼ100%帰って、20キロ以上が0%、10キロから20キロの間は直線的にパーセントが上がっているといった条件だったかと思われます。一応そういう数字を置いて、大体これぐらいの避難者がいるだろうという仮定になっていますが、こういうシミュレーションがもっとできれば、そういうものの精度を上げられるかもしれないと思いました。
それから、長い期間鉄道がとまった場合には、今20キロ以上の人が帰らないことになっていますが、その辺をどうするのかについても考える必要があるのかもしれないです。目先の施策としてどういうものがあるかといいますと、非常に多くの方が歩いて帰られたので、帰宅困難者の方々が帰りやすいように、途中途中で、トイレ、水飲み場を設けなければならないだろうという話があり、そういうところに対する施策をもうちょっとやったほうがいいということもあります。例えば国道246号沿いが多かったとか、そういうことも含めてシミュレーションの結果があると、帰宅困難者の中継点の整備というものにも使えるかもしれないと思いました。
それから、冒頭申し上げましたように、帰宅困難者がどれくらいいるのかという数も、かなりざっくりとした仮定でやっています。精度をもう少し高められれば、新宿駅周辺とかそういうところにこういう人がたくさんいるとか、各区役所等で帰宅困難者の収容施設をいろんなところに、例えば渋谷区なら渋谷区で20カ所くらいお願いして、そういうところにどれくらい入りそうかとか、帰宅困難者の確保されている今の施設がどれだけ有効なのかとか、そういう行政のほうで立てているものの評価について、シミュレーションが使えるのかなと思いました。
岡田 若干手前みそな方向に誘導させていただきまして、ターミナルや駅周辺の状況、先ほどの大佛先生のお話ですと、駅周辺での帰宅困難者の集中が問題のように理解いたしました。一方、笠原課長の方からは、都市再生防災計画が立てられて進みつつある中で、当然一時避難の場所や、経路、規模についてある程度想定されているわけですが、それが実際に期待するような行動を人がするかどうかということが問題で、経路という物理的な線を計画しても、実際にそれが利用できなければ計画に沿った行動はできないわけです。そういう意味では、我々実際にやっている立場から言うと、まだ改善すべき点はいっぱいあるような気がします。
これは大佛先生への2番目のご質問で、可能性ですが、ターミナル駅周辺の整備計画に今のシミュレーション等をもっと発展させれば、どこにどのくらいの規模を配置することによって、もうちょっと効率的な避難ができるとか、情報の提供をもっとうまくやれば、今の身の丈に合った施設内容で、混乱なく一時避難させることができるかもしれないと考えた場合に、課題として考えられることは何で、どういう点に取り組まなければいけないと思われますか。
大佛 まず1つ、大きな鉄道駅に人が集まってきて群集化してしまう。一番恐ろしいのはいわゆる群集事故の問題だと思います。群集化しなければいいですが、群集化は避けられないのではないかと私は考えております。そうした場合の群集事故を避けるためには、群集をどういうふうに制御するか、誘導するかという問題になろうかと思います。
火災の3条件とよく言われます、酸素があって、燃える物があって、熱がある。その3つの条件がそろうと火災が起きる。逆に言えば、その3つのうちの1個を取り除いてやる。例えば酸素をなくす。ハロゲンで空気をなくしてしまう。あるいは熱をなくす。これは水をかけること。燃える物をなくすというのはどければいいわけです。
専門家の間でも議論がありますが、パニックの起きる3条件と言われることがあります。1つは突発的なものが発生するということ。2つ目は、避難だったら避難する手段、容量が限定されているということ。3つ目が、すぐに行動を開始しないといけないということです。この3つがそろったときにパニックに近いことが起きるのではないかと言われているらしいです。タイタニック号はまさに,これら3条件がそろっていたのだと思います。
その3条件のどれを緩和してあげられるのか。突発性というのは制御するのが難しい。地震自体が突発的なものです。そうすると手段や容量の制限ということになります。そうした場合、滞留できる空間、笠原課長のお話の中にもありましたが、新しい市街地を開発したり、街の整備をするときに、普段はこんなに必要ないけれども、いざというときにはこのくらいのキャパシティを持っていないと対処でなきないというもの、何か余力のようなものを持たせた街づくり、開発行為が必要なのかと考えます。
それから、早く行動するということも、やはり具合が悪いと思います。ゆっくり行動を開始できるような仕組みづくりが必要です。逆に私が思うのは、群集は避難をさせては、具合が悪いのではないかということです。駅前にどさっと人が集まって群集化したら、それを、ここは危ないからあっちに避難してくださいと誘導し始めたときに、何かしらもっと大きなトラブルが起こりそうな気がしております。できれば、もっとキャパシティを持って、余力を持って、そういう人たちにある程度の時間、ゆっくり徐々に移動してもらう計画が駅前ターミナルには必要なのかなと思っております。それが整備上の話です。
もう1つは、最近、乗降客数が30万人を超えるような大きなターミナル駅では、鉄道会社と自治体とビルのオーナーが協定を結んで、どうしょうかという議論をされているらしいです。そういうところが全国で50くらいありますが、なかなか話が進まないということでどうしたらよいかという課題があります。私はその詳しい内容は存じ上げませんが、自分のビルをいざというときに支援ステーションなり滞在施設に使ってくださいと言うためには、発災後30分以内に、「どうぞうちを使ってください」と手を挙げなければなりません。ふだんから手を挙げておく必要があると思いますが、使えますよ、入ってくださいという意思決定をやらないといけません。そのためには自分の建物が安全かどうかを判断しないといけません。ひょっとしたら構造的に欠陥があって余震が来たらぐしゃっといっちゃうような危険性がある中では、なかなかどうぞと言えないということがあります。
構造の専門家に耐震診断をしてもらっても、一目で大丈夫かどうかわからなくて、場合によっては、仕上材を剥がしてみないとわからない場合が非常に多い。こうした状況下で、誰がどんな基準をもとに施設開放を判断するのか?この問いに答えることは、なかなか難しいです。
さらに、意思決定者が「どうぞ」と言って収容したけれども、余震が来て、それがもとで死傷者が出た場合、誰が責任をとるのかが問題になります。つまり,こうしたことが気になると施設開放をためらってしまうわけです。協力をいっぱい取りつけようと考えたときには、国のほうでも制度あるいは法的な責任の所在みたいなものをきちんと議論しながら、できるだけみんなで協力し合える仕組みづくりを実践していただきたいと思います。

 

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