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(図97)
この地域の方々の努力、自治体の担当者の努力がこういった成果になっているわけです。そういう意味では評価できると思います。

 

 

 

 

 

(図98)
集計量で見ましても、大きく困難率は低減できています。ただ、よく見ますと、ホットスポット的に避難困難な場所がまだたくさんあります。どうやら交差点間の長い道路でそんなことが起きていることがわかりました。
(図99)
交差点間の長い道路は、例えば中には行き止まり道路があって、たくさんの住宅がそうした道路に張り付いています。
(図100)
交差点間の長い道路で、もしも2カ所で閉塞が起きると、それらの間に挟まれた方々が避難困難な状態に陥ってしまうというのが,避難困難のメカニズムのようです。もしも、こういったときに避難に有効なバイパスがうまく整備できれば、困難率を低減させるのに有効ではないかなということがすぐわかります。開発したシミュレーションモデルを用いれば,その効果を検証できます。わずかな整備でも効率的に困難者の数を減らすことができそうです。
(図101)
それから、この地域のもう1つの特徴は踏切の存在です。老朽化した建物が両側に建っているため、細い踏切が閉塞する確率はゼロとは言えません。特にB地区の人は踏切を渡って避難場所に逃げ込むことになりますから、こういったところが閉塞してしまったら事態は深刻になるわけです。ここでは極端なケースとして、これが閉塞したらどうなるかをやってみました。
(図102)
先ほど見ていただいた避難困難率が下がった18年の状態です。ですが,踏切が閉塞しますと、やはり踏切の周りを中心にして赤が濃くなる。ポイントなのは、A地区の人も避難場所方向に逃げられないと、踏切を渡って逆方向に逃げることになりますから、A地区の人についてもやはり困難率が高くなってしまうわけです。

 

 


(図103)
3年の状態から18年にかけて避難困難率が低減したわけですけれども、ほんの数カ所踏切が閉塞するだけでも、またもとのように悪くなってしまうことがわかります。
(図104)
移動時間を見ましても悪くなってしまいます。
(図105)
移動する距離についても同じように悪化してしまいます。A地区で、移動距離の値は下がったように見えていますが、避難困難になった人を排除して平均値を求めているからです。
(図106)
ここでは踏切の例をごらんいただきましたが、川を挟んで両地区が分かれているとか、避難するときには必ずここを通らないといけないというゲートがあると、そこが閉塞すると避難困難率は上昇し、時間も距離も大きく増加してしまいます。そういったところは非常に重要なところですから、閉塞させてはいけないということが定量的にも明白です。

(図107)
最後のテーマです。道路閉塞による影響です。
(図108)
皆さんもご存じのとおり、東京都では耐震化推進条例が施行されており、基本的には緊急輸送道路を閉塞させないための取り組みが行われています。
(図109) 
その中でも特に重要なものを特定緊急輸送道路と呼んでおります。ここで、赤と青の違いは高速道路か否かの違いであります。

 

 

 

 

 

 

(図110)
その道路沿道に建っている建物を特定沿道建築物と呼んでおります。道路中心線から45度で、この線にかかってしまう建物がそれに該当します。つまり、これがバタンと倒れると、道路を閉塞させてしまうというわけです。
(図111)
細い道路についても、別の定義がありますが、原理は同じです。要は、阪神・淡路大震災で経験した状況、教訓から、こういった事態をどうしても避けなければなりません。このことがこの条例の根幹にあるように思います。
(図112)
これからご覧いただくのは消防活動です。これは23区のある地域の一部ですが、ここに出火点がございます。消防署がありまして、出火点に消防車が行くわけです。こういった状況をシミュレートしまして、道路幅員に沿って設定されたスピードで一番最適な経路で出火点に向かう。平常時ですと2.1分で行けるわけですが、発災時には道路閉塞が発生しますので、そうはいきません。

(図113)
ここで、どの道路が閉塞しているか全く知らないことを前提にしますと、閉塞箇所に遭遇するたびに、再度、経路探索をすることになり、非常に不効率な移動になってしまいます。先ほどと比べても4倍以上の時間を要してしまうわけです。
(図114)
先ほどの緊急輸送道路ですが、沿道建物を耐震化して倒壊しないということを前提としたらどうなるか。ここは先ほど閉塞していましたが、ここが閉塞しないと仮定してみましょう。そうするとその分だけ効率的な移動が可能になって、あとは同じですから省略しますが、5.7分で、ちょっとよくなったということです。
(図115)
次は、非常に都合のいい想定です。どこが閉塞しているかということがわかった場合です。その場合には,閉塞箇所を避けて一番効率のいい経路を探せばいいので、後戻りしなくていいわけです。非常に効率のいいアクセスができて、2.4分で、それほど遅延なく到着できるということがわかります。


(図116)
 出火点を出火確率に応じてランダムに発生させまして、300回の平均をとってみたのがこちらです。閉塞のない平常時ですと1.5分ちょっとで行けそうです。閉塞があって、行き当たりばったりで行くと3倍くらいかかってしまいます。それから、緊急輸送道路は閉塞しないというポリシーが成功すれば、このくらいの低減効果があります。何よりも、どこが閉塞しているかという情報が随分重要だというのがわかるかと思います。
(図117)
最大到着時間です。300回のワーストケースで見てみますと、「閉塞なし」に比べて8倍くらい長くなってしまいそうです。緊急輸送道路の閉塞がなければある程度の効果がありますし、特に,閉塞情報が随分大きな影響を持っているといえます。
(図118)
同じことを先ほどの23区のある地域について、消防署の管轄域で繰り返してやってみますと、地域によって道路の脆弱性とか耐震化の進捗状況が違いますから、それぞれ固有の特徴が出てまいりますが、大体よく似た傾向になります。
(図119)
緊急車両ということで、ローカルな移動しかやっていませんから、大きな効果は見られませんが、それでも緊急輸送道路を閉塞させない効果は計測することができます。
(図120)
ルート検索を何回やり直さなければいけないか。こういった視点から地域を評価することで、地域の危険性評価が可能になります。
(図121)
先ほど見ていただいたように、どこが閉塞しているかという情報が随分大きな役割を果たすということから、地域住民ボランティアの方が、もしも自宅周辺の閉塞道路の情報を収集してコンピューター上にアップしてくれて、それを緊急車両が使うことができたらどうなるかという想定でシミュレーションを実行してみました。
(図122)
これは先ほどの閉塞した状態ですが、8.6分かかっていたわけです。
(図123)
次に、地域住民ボランティアの方が今から5分間歩き回って情報収集します。ここが閉塞だとわかると、グリーン色に変わっていきます。5分たちますと、その情報をもとに経路探索をしまして、消防車が出動します。先ほど遭遇していた閉塞箇所は避けることができますから、2.4分で到着できることがわかります。
(図124)
こういうシミュレーションを何回も何回も繰り返して実行しまして、情報収集に当たる地域住民の割合を連続的に変化させて、そのときの道路閉塞の把握率を縦軸にとってグラフ化しました。先ほどの例で言えば,0.5%の人が5分間収集に当たると、閉塞箇所の80%くらいがわかることになります。
(図125)
80%の効果はどんなものか。これは,どのくらい所要時間を短縮できるかというグラフです。紫色のラインは、どこが閉塞しているか100%わかったときの状況です。つまりこれ以上短くすることはできません。ですから理論上の下限値です。0.5%の人が5分間動くだけで80%の閉塞箇所がわかり、大幅な時間短縮ができそうだということがわかりました。

 

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