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(図44)
 随分前につくったモデルです。都市内滞留者・移動者の時空間分布、すなわち,どこにどんな人がどのくらいいるかを推定して、帰宅意思があるのかどうかを判断する、これがこのモデルの1つの特徴になっています。帰宅行動をとった人については、体力とか日没の影響を考えながら、実際に自宅に到着できるのか、できないのかを推定しようというモデルです。
実際に3.11の大地震が発生して、このときの主な特徴として、想定以上に多くの人が帰宅した、あるいは早いタイミングで帰宅を開始したということがあります。そして、帰宅断念者の数は想定を下回っていました。
これらの理由として、交通機関の早い復旧が見込まれたことや、あるいは倒壊や市街地火災がなかった、大停電もなかったということが考えられます。言ってみれば徒歩で帰宅するには好条件だったわけです。
(図45)
これはモデルの想定です。こちらは帰宅距離、こちらは通勤時間になっておりますので、直接比較はできませんが、非常に多くの人が帰宅行動をとったということがわかります。
(図46)
それから、時速4キロで歩くという想定は、いろいろなモデルで想定されていますが、実際にとられた行動を見ると20キロを4時間、30キロを6時間かけて、平均的には時速5キロで延々と長い距離を歩いたということが知られておりまして、驚かされたわけです。
(図47)
帰宅行動をどういうタイミングで開始するかということについて、よくポアソン分布というのを使います。しかし,実際には、施設の外にいた人たちは1時間以内に70%以上がすぐに行動を開始しました。これは随分早い行動でした。
(図48)
帰宅を完了した人のパーセンテージをとると、2時間、3時間のときは実際のほうがモデルを上回っています。これは、すぐに行動を開始した人が早く自宅に到着したということをあらわしています。90%の人が自宅に到着した時間は大体7時間後でした。この点については概ねモデルと一致しています。ですが、それからだんだん実際のほうが、また多くなっています。

 


(図49)
これは、先ほど申し上げたように、帰宅を断念した人が今回は少なかったということが言えます。しかし、鉄道が動くだろうと思って、とりあえず途中まで歩こうと思って歩いたけれども、結局復旧しなくて断念した人が非常に多かったわけです。

 

 

 

(図50)
 こうした実測値をもとにパラメーターを修正しまして、3.11の状況を再現した結果です。発災後、3時間から4時間後に道路上を自宅に向かって歩いていた人がピークを迎えているということがわかります。

 

 

 

 

(図51)
このときの状況をアニメーションにしたものがこちらです。環状線よりも都心から郊外に向けて延びる鉄道沿いの幹線道路で非常に密度が高くなっていることがわかります。ここまで密度が高いと歩道上に人がおさまり切れなくなり、車道にあふれてしまいます。
(図52)
これはNHKの番組のビデオです。これも大体同じぐらいの時刻に撮影されたものらしいですが、至るところで車道まで人があふれているような事態が発生していたということになります。
(図53)
こうした状況を受けまして、これから見ていただくビデオは、先ほどの帰宅者の行動と、火災危険度の情報を重ね合せたものです。都心部は比較的耐震化、不燃化が進んでおりますけれども、環状7号線に沿った帯状のところでは木密地域がまだたくさん残っていいます。運が悪いと市街地が大火に発展することも考えられますが、都心部に滞留していた大量の方々がそういった危険なところを通過して帰宅したということがよくわかります。
(図54)
こういった経験がひとつの契機になり、その後、帰宅困難者対策は大きく転換されることになります。それまで、「どうやって帰すか」という議論が、「どうやってとどめ置くか」というまるっきり逆の議論になったわけです。
(図55)
ご存じのとおり、東京都帰宅困難者対策条例が昨年の4月から施行されております。
(図56)
こういった条例が機能したらその効果はどのくらいあるのか。あるいはこういった条例ができても、帰宅困難となってしまう人はどんな人なのか。あるいは、余り検討されておりませんが、朝夕あるいは休日に発災したらどうなるのか。従業員は本当に事業所にとどまってくれるのか。こういった点について詳しく吟味してみたいと思います。
(図57)
まず、都条例が100%機能したという理想的な場合について考えてみました。全ての事業所が100%、全ての従業員をとどめ置くことができたら、平日15時の発災時は非常に効果があるということがわかります。
(図58)
時刻別の帰宅困難者数を推計すると、昼間に発災した場合には多くの人が施設内に滞留していますから、条例でカバーできます。しかし、もし、朝の通勤ラッシュ時に発災すると、鉄道で移動中の人が帰宅困難な状況に陥ってしまいます。
(図58)
15時の昼間より朝のラッシュ時のほうが困難者の数が多くなってしまいますし、電車からおろされた人はすぐに行動を開始してしまう可能性も高いわけですから、こういったことについての検討が必要になります。
(図59)
もう1つの視点は休日です。平日の場合は条例の効果は大きかったわけですが、休日の場合は、そもそも就業している人が少ないですから、その効果も限定的になります。それだけでなくて、日常圏を離れたところ、つまり不慣れなところで帰宅困難となってしまいます。それと、整理に当たる職員の方の数が圧倒的に少なくなります。あるいは施設が閉まっているということもあり、休日のほうが問題は深刻であるといえるかも知れません。
(図60)
空間分布を見ていただきますと、これは平日、留置なしの場合です。とどめ置きがないと、休日よりも平日のほうが滞留者数は多いですから、深刻だと言えるわけです。しかし,留置をすることを前提にしますと、平日よりも休日のほうが多くなります。しかも、商業業務の集積地で非常に多くの帰宅困難者が発生することが想定されます。都条例は広くあまねく全ての事業所に対して共通なわけですが、実際に負担する事業所は限定的です。逆に言えば、こういった商業業務集積地にあるビルオーナーや、企業に期待される役割が非常に大きくなると思います。
(図61)
最後に「従業員は本当にとどまってくれるだろうか」という点について議論します。「食料品等を備蓄しているし、毛布があるからとどまりなさい」と言っても、実際にとどまってくれるどうかは判然としません。そういったことから、1年ぐらい前に簡単なアンケートを実施しました。
(図62)
具体的には、発災当日、都条例がある場合とない場合で、それぞれの状況を想定してとどまるのかどうかということ、そして、こうした行動に影響する情報はどういうものかということについて尋ねました。
(図63)
ごく一部をご紹介しますと、同居家族のある人にとっては、当然、同居家族の安否情報がその後の帰宅行動、とどまるかどうかに非常に大きな影響を及ぼします。同居家族がいない人については、自宅周辺あるいは移動経路の安全性などについての情報が大きな影響を及ぼすという結果が得られました。
(図64)
まず、「同居家族あり」です。横軸が帰宅距離です。「条例なし、安否情報もない」場合は、とどまろうという人は、帰宅距離が長くなれば増えていきますが、それほど多くはありません。これは3.11で我々が経験したたくさんの人が帰ってしまったという状況に相当しています。
(図65)
しかし、企業が条例に従い努力義務を果たせば、事業所内にとどまろうとする人が十数%増加する効果が期待できそうです。

 

 

 

 

 

 

 

(図66)
そして、「家族が無事」という情報を添えてあげると、さらに高い効果が見込めるという結果が得られています。
(図67)
 同居家族のいない人については、条例があった場合は、先ほどの同居家族がある人よりもかなり高い割合で効果が見込めることがわかります。

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