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(図126)
最後の事例です。実際には火災現場に直接向かうわけではなく、消火栓や防火水槽といった水利に向かうわけです。出火点とその周りにある消火栓、防火水槽があります。平常時の場合は、一番有利な水利を目指していって、そこに到着して、消火に走ります。
(図127)
閉塞すると、何回も何回もルート検索をしなければならないということもありますし、もう1つ問題なのは、消火栓が断水している可能性があります。例えば、この例では,最初に到着する消火栓が、断水しています。これは、一定の断水率を想定しているためです。断水しているので、また違う水利に向かいますが、消防隊の人が行き過ぎてホースをかついで戻ってくる。これだと11.5分もかかってしまいます。
(図128)
行ってもだめかもしれない消火栓だったら、最初から防火水槽に行けばすぐ使えるということが考えられます。閉塞道路を避けながら到着すればすぐに使えるということです。そういう想定で計算してみると、この場合には、ちょっとルートが違いますが、ここに消防車をとめて、ホースを延ばしてここに突っ込んで、あとはホースをかついで消防の人が走る。そういうことをやると4.5分になる。先ほどの11分よりは低くなったわけですが、ただ、消火栓に行くのがいいのか、防火水槽に直行したほうがいいのか、悩ましい問題です。消防署の方にお話を伺っても、「難しいですね、困っているんですよ」という話でした。
(図129)
そこで断水率を連続的に変化させまして、平均到着時間を計算してその平均値をとりました。断水率がどんどん上がってくるに従って、到着時間が延びてきます。消火栓か防火水槽、有利な水利に向かいなさいという条件ですが、防火水槽の場合は断水率に依存しませんので、一定だとします。大体、断水率が60%くらいのところで両者は交わります。先ほどの23区のある地域の場合は30%くらいだと想定されていますので、とりあえず消火栓も含めて、一番有利だと思われる水利に行くのがよさそうだということがわかります。
(図130)
これは東京都の被害想定の一部ですが、東部地域のように70%を超える断水率が想定されているところもあります。消火栓が断水しないように工夫されているところもありますが、非常に高い断水率が想定される場合には、防火水槽に直行することも必要になってくるかもしれません。
(図131)
今からの話は、消防署の方との会話から得たヒントによるものですが、地域住民ではなく、消防団員の方々がいらっしゃるので、その方が消防署に参集してくる間に情報収集してもらうことを想定してシミュレーションを実行しました。これも比較のために5分間の情報収集を行っています。その後、消防車が発進しますと、4.5分ということになります。
(図132)
地域住民の方を、比較のために同じ人数を配置しました。登録されている消防団員の数に比例した数を想定しているわけですが、同じ地域住民の方々に情報収集をしていただくとどうなるか。3.7分。このケースについては少し効率がいいわけです。
(図133)
それから2つを合わせてみました。消防団員は消防署に参集して、地域住民は自宅付近をランダムに動き回って情報を収集しています。力を合わせればその分だけ効果があって、2.5分という結果が得られました。
(図134)
これも同じように、何回も何回もシミュレーションを行って、情報収集時間に応じて何%閉塞箇所を把握できるかを調べてみると、消防団員の方は消防署に参集してしまうと、それ以上情報収集が行えませんので数分で頭打ちになります。地域住民の人はずっとあっちこっち動き回りますから、まだまだ伸びていくということです。
(図135)
道路閉塞情報収集の果たす役割は大きいといえます。
(図136)
現在、災害発災直後の情報を減災にうまく利用できないかということを考えています。地域住民なのか、消防団なのか、どういうふうになるかはわかりませんが、情報収集して、それをクラウドコンピューター上に蓄積して、あるいはシミュレーションを実行するなりして、緊急車両支援あるいは広域避難、徒歩帰宅を支援するような仕組みづくりについて、取り組んでいる最中でございます。
(図137)
以上です。シミュレーションといいますと、コンピューター上での仮想的な実験にすぎないわけですが、今日はこの3つの事例を通して、地域住民の方との危機意識の共有や、防災意識の啓発、ひいては防災街づくりの機運を醸成するようなプロセスに寄与できないかと考えております。
非常に早口でお聞き苦しい点があったかと思いますが、首都直下地震を想定したシミュレーション分析とその役割というタイトルで、事例紹介をさせていただきました。ご清聴どうもありがとうございました。(拍手)


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