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これに関連した有名な話は、僕が小泉さんとつき合っていたとき、ここでも何回か話したかもしれませんが、土地調査というのは大問題で、京都市の市街地の地籍完了の面積は3%か4%しかないんです。残りの九十何%の土地ははっきりしていません。だから、家を建てる時は、その都度その都度、土地家屋調査士を呼んで、自らの図面をつくって、建築確認申請を出しますが、その建築確認申請に出す建築敷地の図面は周りの地主の了解を求めなくてもいいんです。建築確認申請で、おまえのところの建ぺい率は60%だから何坪しかつくれない、そのベースになる土地は一体何坪かというのも、土地家屋調査士に「おれの敷地はここだと思うからこれを測量して出してくれよ」と言えば、周りの地主と突き合わせなくても、建築基準法ではそれを敷地として認めるんです。建築基準法では、敷地について、国土調査法に基づくきちんとした調査ができてない限りは敷地として認めないなんてことは一言も書いてない。こういうバカな国はないんです。 
地籍調査というのは本当にひどい。小泉さんのおじいさんの選挙区は、鹿児島県のある市ですから、おじいさんの敷地の公図を取り寄せました。片方で、北九州にある有名な地図屋さんがつくった地図、一方で全くプライベートな、本屋さんで皆さんが買えないようなオフィシャルでない地図を持っていって、小泉総理の前で、「総理、これ、どっちが本当の地図ですか」と聞いたんです。総理は「当たり前だ、こっちに決まっている」と民間の会社でつくった地図を指しました。でも実は違う。変なナマコがはっているようなものがオフィシャルマップ、公図というんですよと言ったら、びっくりしまして、「こんなことまだ日本でやっているのか」と言っていました。「やっているんですよ」。その時は、僕の教え子で参議院議員になっている上野公成というなかなかの男が官房副長官でいたので、早速、地籍調査の手当てを、年間百数十億円つけまして、2年間ぐらいやったんですが、小泉さんがやめた途端にパーですよ。
地籍調査ができていないために、皆さんの土地の境界紛争が延々と続きます。延々と続くということは、道路も買えないし、住宅公団の団地も買えないという時間の無駄が起きるわけです。時間の無駄のことまで入れて、地籍調査ができないことの経済的ロスを考えると、早く土地の境界がはっきりわかって、イエス・ノーがはっきりするということだけでも公共事業の仕事は早くなるんです。道路予算をつけるより、その効果のほうがずっと大きい。
「土地の絶対的所有の修正(公的介入と土地価格調停委員会)」は、幾つか今やり始めています。森林も地籍がめちゃめちゃで仕事ができない。実は林道もつくれないんです。個人のわがままのために、カネを手当てしても仕事ができないということが、森林でも起きた。農林省系ですが、田んぼでも起きている。これでは、たまらないからというので、今森林では、地主の了解がなくても、まず調査します。森林の個人所有の土地の図面をつくります。図面をつくって地主さんのところに送ります。送って、これが正しいかどうか、文句つけてください。そこまでできるようになりました。しかし、宅地なんかは当然できない。もし、これが、とりあえず調査させてください、調査した結果を地主さんのところにお送りします、お送りして文句があるならば、土地価格調停委員会がそこへ行ってください。そこで土地がちょっと大きかったら、何百万円か、土地価格調停委員会が調整して支払うようにします。それをやるだけで国土の変化の仕方は、道路を入れるよりもっとよくなるはずです。
それが、「硬直的な土地利用関連の諸制度の改善」です。こういうことを国土計画がはっきり言って、変えるようなアクションをするようになれば、国土計画というのは今の国土形成計画よりはよくなると思うんです。国土形成計画は閣議決定です。閣議決定というのは誰も責任を持ちません。大臣十何人が毎朝9時ぐらいに集まって、今日は国土形成計画を承認していただくことになりましたので、了解を求めますと総理が言う。そうすると、「はい」と言うだけで、誰も責任を持っていない。
これは僕の反省もあります。国土計画は総花的で地方政府重視の結果生まれた予定調和的・微温的な計画で
あった。特に三全総、四全総、僕のやったグランドデザインも、全部そうです。それよりもう少し野武士的な太さが
あったのが新全総です。三全総なんていうのは一番総花的で地方政府重視。そうではなくて、現実直視で客観的判断に基づく計画をつくって、国家の厳しい決意を地方政府に伝える計画が必要です。ポピュリズムはもうたくさんです。国土計画をだめにしたのはポピュリズムの極致だ。陳情請願しかり。 僕は今、国土計画協会の会長をやっています。国土計画協会という協会が何で成り立っているかというと、県庁の企画課が入っているんです。何で
入っているかというと、県庁の企画課は、それぞれ各県の県政計画をつくります。県政計画をつくるについては、国土計画でどう書かれているかということをきちっと知る必要がある。その県の農用地にカネを入れると暗示するようなことが書いてあったら、例えば秋田県でも青森県でも、その県政計画を書いて、国土計画局に会いに行ったり、電話をして、「こういうふうに書きましたけど、よろしく」とやる。ついこの間まで、各県の企画課と国土計画局というのは、地方政府重視ということではシェークハンドだった。これをやめる。これは一種のポピュリズムです。陳情請願で、「昔から酒を飲んだ仲間じゃないかと、青森の駅前の地下の飲み屋で」と言われる。ポピュリズムはやめて、厳しい計画をつくって、それを今の国土政策局ではなく、総理に直接勧告権を持つ第三者機関をつくってやらせろと言っています。
例えば僕がもし小泉政権の時の国土計画委員会の委員長だったら、総理が納得できるような話をうまくしますよ。まさにそれは官僚の言葉ではなくて、政治と政治の最高意思決定者にきちっと理解させるだけの技術と蓄積を
持った委員長が話す。これは極めて厳しい戦いになるわけです。ただし、重要なことは、国土計画作成というのはいいかげんなことではできない。そこの後ろに国土情報を集約して、分析できる部局を付置する。
国土情報といったとき、難しいんです。例えば、社会保障・人口問題研究所というのがあって、5年ごとの人口統計で将来予測をやったりしています。それを全部そのままうのみにして、人口問題研究所のデータを持ってきていいのかどうか。ここが大事なんです。人口問題研究所の統計資料を独自に第三者機関がデータ加工して、自分の見解を入れる、あるいは方向性をつくって、こっちは要らないとか、商業統計はインチキだから要らない、事業所統計のほうが重要だなど、国家が上げる情報についても、それぞれ取捨選択できる能力のある人が国土情報を集約し分析する部局にいなければ困る。そういう人たちがいれば、そこからの情報をもとにして、第三者機関が国土計画をつくれるわけです。それを閣議決定ではなく総理に直接勧告する。
こういうやり方を1つつくってみたらどうかということで、今日は川上審議官がいるので、相当意図的に話をしまました。僕も、この頃大臣からお呼びがないんです。呼んでくれれば行って、バババッとやろうと思っているんです。国土計画は必要だということです。


 

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