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(図1)
この木は何ですか。
三沢 クスの丸太です。クスは日本に生息している木です。北限が福島ぐらい。暖かいところにある木です。僕は九州のクスを使っています。広葉樹で、幹がねじれていたりして、粘りのある木です。百済観音や法隆寺の四天王など飛鳥仏のほとんどはクスの木を使っています。。
寺田 クスの木は、名前でもわかるように、樟ですね。薬というか香りもある。
三沢 樟脳の原料になる。
寺田 ということは腐りにくいということかな。
三沢 虫がつかなかったり、割とタフな木ですね。
寺田 これはチェーンソーで、大体のアウトラインみたいのものを切り出しているんですかね。
三沢 これは整理されている状態です。丸太というのは横に長い円柱ですね。そこに足4本を製材したものを寄せ木して、大きく整理する。そこに墨でデッサンしながら。
寺田 この部分を墨で。
三沢 見切り線ですね。墨から外は要らない。内側を残すという感じです。
寺田 その前にドローイング、デッサンは別にあるわけですね。
三沢 デッサンは別のメモ帳にサラサラッと本当に一筆描きぐらいの感じ描きます。僕は、「動物園に行くんですか」とか「キリマンジャロに行くんですか」と、よく言われるんですが、ほとんど本物は見ません。データ的に図鑑を参考にする。図鑑はワンショットでその動物を説明するので、考えられたカットがバチッとあるんです。写真よりもイラストで、絵描きさんの主張が入っているほうがいいです。
寺田 動物もそうだけど、植物も、カラーで写真版があるけれども、今でも実は手書きが圧倒的に多いね。
三沢 写真だと実物でうそはないんですが、写真に撮って印刷にするときに、本物のリアリズムみたいなものがスポイルされる部分があるんですね。描き手というか、絵描きさんが描くと、ピントも全部合わせて筋を引いたり、点を打ったりという作業があるので、よくできた絵の図鑑みたいなものはすごくいいですよ。
寺田 ああいうのはきっと、普通の絵描きさんでなくて専門職みたいな人がいるんだね。

 これは、もうまさしくバクみたいな感じだ。これで制作日数としては大体どのくらいですか。
三沢 この状態は1カ月半から2か月ぐらいかかっています。
寺田 1日の仕事のペースとしてはどのくらい?
三沢 朝は早くないんです。大体10時ぐらいからアトリエに行って、夜は8時ぐらいに終わるようにしています。
寺田 結構長い時間ですね。
三沢 その時間の中は集中しながらグッとやるところと、ダラダラやる感じのところとあります。
寺田 それで途中、食事もとったり。
三沢 そうです。
寺田 アトリエなんて気取ったことを言っているけど、何か、すごい工場のようですね。
三沢 大きいものは材木屋さんの軒下を借りてやっているんです。材木が横に積んであって、その横でやらせてもらっている。
寺田 これはくり抜くの?
三沢 これはウチブリ(?)という工程です。ムクの中が詰まっている木は、水を含んでいて、容積が多いと乾いてくる工程で、表面積が縮んでくるんです。そうすると表面積が縮んだ分、ひずみがひび割れになってくる。容積が多いとひびがたくさん入るので、なるべく木の容積を増やしている。運ぶときにも軽い。これは色がちょっと違うでしょう。これはぬれてビショビショなんですよ。2年ぐらい寝かした木です。僕が使っているクスは樹齢が50年から70年ぐらいのものなんですが、中は2年ぐらい放っておいてもビショビショです。
寺田 最初に、原木でやるときは、かなり乾燥させた状態ではあるんでしょう。
三沢 表面は結構乾燥しているけど、中まではいかないですね。
寺田 こうやってだんだんできていく。
三沢 現場仕事という感じですね。

寺田 ここでいよいよ、のみが出てきました。
三沢 これでそろそろふたをしようかなという感じです。
寺田 これはふたという感じですね。
三沢 でも、ある程度まで掘れないと、ウチブリ(?)できないんです。初めにウチブリ(?)をしてしまうと、掘っていて空気が出てくると穴になってくるので、ある程度までは仮どめをしながら形をつくっていく。大体形が決まってきたかなというときにウチブリ(?)をする。
寺田 何もかもが計算どおりにいくとは限らないですものね。
三沢 これで大体接合して、全体の形をつくる。
寺田 これが実際に使うのみですか。これはどの工程でどののみを使うか大体決まっている?
三沢 大きいのみは粗どりです。チェーンソーを使って、大きく削って、仕上がりに従ってだんだん小さくなっていくんです。あのクマなんかも胴体の部分のストロークが結構大きい。顔になると細かい。1つの作品の中でも大きさが変わってきます。あれが全部同じのみで細かくしてしまうと、まったりしてしまうんです。リズム感がなくなる。やはり1つの作品の中でもいろんなのみを使っています。
寺田 ある種、彫ったのみの跡が筋肉みたいな感じがする。
三沢 毛流というか筋肉というか。やり過ぎてもだめなんですね。またもとに戻したりする。手作業って、淡々と手ばかり動いて気分がいいんです。

 

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