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(図28)
2そこから少し東側、山口県と広島県の県境に大竹市があります。ここも工業都市ですが、工場の敷地の中にまで公道が入っていて、本当に異次元の世界に迷い込んだような空間体験ができます。大竹市役所がこの景観に目をつけています。これは市役所のホームページです。工場夜景だけではなくて、昼間の景観についてもいろいろ解説されています。「工場夜景・見どころスポット」と書かれています。どこの場所から見るのが一番いいのかなど、詳しい位置情報とともに掲載されています。
(図29)
先ほどの周南と同じように、大竹にも俯瞰できる場所がある。これは1960年に発行された大竹市史の口絵です。この口絵はある意味、市史の顔みたいなものですが、そこにこのようなテクノスケープの俯瞰が描かれているわけです。金森さんという画家が描いたものです。大変興味深いですね。
(図30)
4大竹市には小瀬川とう川が流れています。その河口付近に、三井化学のパイプラインが渡るところがある。その真ん中に、タワー状の構造物が立っています。これも近くで見ると大変おもしろい。
このタワー、見覚えがある気もするんですが…エッフェル塔に似ていないでしょうか?WEB上では「大竹のエッフェル塔」と呼ばれています。このようなニックネーム、あるいは「大竹タワー」などという名称で、町の1つのアイコンとして活用できるのではないでしょうか。また、大竹市の教育委員会の資料の中に、小瀬川河口付近の様子を解説している地図がありますが、そこにもやはりこのタワーは描かれています。
日本全国でどのようなテクノスケープのプロジェクトが起きているか、ご紹介するだけでも本当に切りがありません。実際プロジェクトとして動いてきているものを幾つかご紹介します。
(図31)
まず、青森県の八戸市です。ここは、セメントをはじめとする工業で成り立っている、東北を代表する工業都市です。ここにはグレーンターミナルや製鉄所があります。価値ある景観が我が町にはあるじゃないかということで、最近見直されています。
(図32)
6 セメント用の石灰石が山か海までコンベアで送られてきます。これはその終点です。積み出しのサイロが立っているところです。







 

(図33)
こういったものをアピールしようということで、小林伸一郎さんという著名な写真家を招いて写真集を発刊したり、あとこちらは私もかかわっていますが、ツアーとトークカフェを通じて、工場とアートを組み合わせてアピールしようというプロジェクトもあります。右が一昨年のもので、左が去年のものです。
それから、これをさらにバージョンアップした「八戸工場大学」というユニークな名前のプロジェクトが立ち上がりました。八戸市役所の文化推進課の方が中心になって実施されていて、私も少しお手伝いしています。「八戸工業大学」は大学として実際にありますが、こちらは「八戸工場大学」となっています。わが町の景観が面白いという気持ちを通じて、我が町はそもそもどんな町なんだろうということを皆で学んでみよう、ということが目的になっています。その意味では、生涯学習というと少し大げさかもしれませんが、「学ぶ場」ということで「八戸工場大学」という名前になっています。これは今後も継続されていくと思います。
(図34)
さて、既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、2011年から工場夜景を観光資源として考えていこうということで、日本の四大工場夜景エリア、つまり北九州、室蘭、川崎、四日市の市役所や観光協会、その他関係者の方々が集結して、「工場夜景サミット」が連続して開催されています。自分も基調講演やコーディネーターなどをやらせて頂いています。また、周南市、姫路、尼崎などでも、工場夜景のツアーを市役所と民間のバス会社が中心になって実施しています。東京から一番近いのは川崎ですね。ここでも工場夜景ツアーをかなり大々的にやられていますので、もしご関心ありましたら是非ご参加いただければと思います。
(図35)
次に、こちらは堺のものです。私が去年の9月に主催したツアーです。土木学会の100周年事業ということで、土木学会とNHKカルチャーとタイアップして、堺の工場夜景をバスで巡るツアーを実施しました。これもすぐに満席になって、キャンセル待ち状態になりました。私は、ここで生まれて初めてバスガイドをやりましたが、いかにこれが大変かということと、いかにそれがやりがいのあることかということを実感しました。テクノスケープの魅力を解説しながら、市民の方と実際に現地を回るというのは大変楽しく、非常に意義あることだなと感じました。
実施したこと自体にももちろん意味がありますが、私にとってもう1つ大きな収穫だったのは、そこで参加者の方々に直接お話を聞くことができたことです。参加者の方はどんな方がいるのかと思っていたのですが、意外にもほとんどが女性でした。半分以上が若い女性です。もちろん若い男性もいましたし、ノスタルジーを持って参加している年配の方々もおられましたが、結構若い方が多かったです。
彼らに「皆さんはこの景観のどこがおもしろいと思われるんですか」と尋ねたところ、「ファイナルファンタジーの世界だ」とおっしゃる方がいた。ファイナルファンタジーというのはゲームですね。私はあまり詳しくないですが、そういうことをおっしゃる方がおられたので、私も見てみました。
ファイナルファンタジーは、3Dのバーチャルリアリティーの画面が展開するんですね。ここで出てくる景観は、確かにテクノスケープに見える。恐らく実在のテクノスケープにインスパイアされた作者が、この作品を作っているのではないかと、そのときは漠然と思いました。実はファイナルファンタジーのプロデューサーは坂口博信さんという非常に有名な方です。この方といつか直接お話ししてみたいと思っているのですが。。。実は彼の出身地は、私と同じ茨城県日立市です。工業都市ですね。出身高校も同じだということもわかったので、ますます親近感を感じています。この方も私も、工場の景観を見て育ったわけです。坂口さんのような方が、こういう作品をプロデュースしている。恐らく坂口さんの心象風景には実在のテクノスケープがあって、それをモチーフにしてこういう作品を作られているのではないかと想像します。
このゲームで遊ぶ若い人たちの中には、テクノスケープを見た経験のない方もいるでしょう。ですが、こういう映像が非常に格好いいものだということは、ゲームを通じて知っています。それで、このバーチャルの不思議な世界の映像を今度は現実の世界に追体験しに行くわけです。ちょうどクリエーターと逆の方向で景観体験をしているわけですね。これも現象は、メディアやゲームの映像が風景の見方に与える影響の大きさを証明しています。これから、そういう世代がもっとどんどん育ってくるのかもしれません。景観の価値観は、進化するメディアの影響を受けてどんどん変わっていくと思います。

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