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赤松(市民情報誌+α編集委員会) 1問目の質問について、ジャパナイゼーションはスケーラビリティーを背負うことはちょっと厳しいけれどもというお話でした。最後の先生の京大の大学院の紹介にもありましたが、例えば教育機関自体もマスエデュケーション型みたいな巨大なものを追いかけるのは難しい。むしろ私塾あるいは流派をつくるような小さいもののほうがうまくいきますよ、そういう示唆と受け取ってよろしいでしょうか。
小林先生 それはちょっと違う。私は、最初に第1の道を選ばなければいけないと言っているんです。捨ててしまってはだめ。コンテンツのビジネスもやらなければいかない。やらないといけないけれども、それだけではないということです。大学教育で今一番問題になっているのは、教育の輸出の問題、貿易の問題です。教育の世界で標準化が進んできている。例えば土木工学の講義であれば、イギリスの幾つかの大学が、教科書、問題集、試験問題、教え方を、全部パッケージして売っています。それを買っているアジアの大学が幾つかある。なおかつ資格制度を彼らは決めている。教育の標準化は大変な勢いで進んできています。その流れの中で、日本の土木工学科がいまだにモールの応力円を教えている。あんなものを海外で教えている大学は1つもない。とっくに死に絶えた知識ですが、未だに教えている。やはり反省すべきところは反省する。学部教育の1つのスタンダーディゼーション、標準的なモデルあるいはコンテンツモデルをしっかりと身につけなければいけないということは事実です。その上で、大学院教育で、ガラパゴス化することはいい。細かい、小さな世界に入っていく、それだけを推奨しているのではないということをご理解いただきたいと思います。
伊藤(トゥビーライフ㈱) うまく説明できるかわかりませんが、今の第1モデル、コンテンツのところで、たまたま今、西沢潤一先生の1989年の『技術大国・日本の未来を読む』という本を読んでいます。基礎科学技術をやっていないから、日本はこれからだめになるだろう予測を89年のバブル期にして、半導体から何から撤退していている。今、標準化という問題で、日本が生き残っていけるような技術あるいは産業が今後あるものなんでしょうか。
小林先生 具体的な分野は、私ははっきりいってよく存じ上げません。もともと出身が土木なものですから、土木の世界のことだけで、ほかの技術がどういうのがいいのかということは残念ながらよくわかりませんが、工学というものが抱えている大きな問題ということはわかると思います。基礎研究が大事だというのはそのとおりです。ただ、この国はシーズから攻めていく。特に企業のR&Dはそうですが、シーズ型の研究では非常にいい研究をいろいろやってきていると思います。ただ、そのシーズというものが、昔の英国も一緒ですが、本当に日本の経済や企業力、R&Dというものとマッチしているかどうかが問題であることは事実だと思います。
私は土木とビジネススクールと2つ掛け持ちしていますが、ビジネススクールというものも実は問題です。ビジネススクールだって、技術そのものをきちっと勉強しているわけではない。
そもそも最初に大学というものは、プロフェッショナル、専門職の大学としてスタートしました。工学というのは、経済学もそうですが、実社会に役に立つすべ、わざというものを研究している。そういう学問でありながら、自分たちのアウトプットがいかに社会に役に立っているかというところに関する尊敬の念を、正直、失ってきたんです。テクノロジーはやっている。テクノロジーはやっているけれども、本当にエンジニアリング教育をやったか。そこに関しては極めて疑問なところがあります。
先ほど学部の教育で非常にスタンダード化が進んでくる、あるいはここはスタンダード化すべきだという話をしましたが、エンジニアリング教育をしっかりしないといけないと思います。そこは、逆に言えば、標準化し得ない、あるいは標準化したらいけないところかもわからない。日本型エンジニアリングのありようをきちっと勉強していくということがあると思う。土木工学科からも、道路工学、橋梁工学、そんなものがなくなってしまって久しいですね。橋梁を丸ごと語れる人間が大学に誰もいなくなってしまった。あるいは境界要素法のクラックの進展を話せる人間はたくさんいるかもしれないですが、エンジニアリングについて話せる人間がいなくなってしまった。
ここに1つ、西沢先生の問題意識と共有するところがあると思います。実社会にどうやって生かすのかという視点をきちっと身につけた上で専門的に基礎研究に入っていく。これは重要なことだと思います。そっちの問題が重症ではないかと思っています。
石原 どうもありがとうございました。
それでは、時間も参りましたので、最後に拍手をもって終わりたいと思います。
(拍手)

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