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(図12)
戦略シナリオとして、どういうことが考えられるか。世界中で中所得者層が圧倒的大多数を占めていく時代になっていくときに、企業の戦略はどうあるべきか、いろいろ考えましたが、やはり2つしかないのではないかと思っています。
1つは、標準化戦争です。標準化をとった者が勝ち。国際標準を取ろうとして、多国籍企業が1つの国際的デファクト標準をめぐって競争するモデルです。これはますます厳しくなるでしょう。これが1つの方向性としてありますが、それだけではない。
もう1つ、それぞれの国の実情に合った新しいしなやかな標準、「one-finds-own- size standards」と私は呼んでおりますが、こういうモデルをそれぞれの国とのアライアンスに基づいて共同開発する戦略があるだろう。最初を第1の道、2番目を第2の道と命名したいと思います。
第1の道というのを今からご説明します。後半部で第2の道についてご説明したいと思います。
(図13)
二面性市場。どうしてこういう2つの戦略が考えられるか。第1のモデルであるシステム競争を、私は「シリコンバレー/ハリウッドモデル」と呼んでいます。第2の市場、これは、うちの女子学生に、もう古いと言われていますが、「もえモデル」。「もえ」というのは死語だと言われてショックを受けているのですが、こういう道が多分あるだろうと思います。
(図14)
この2つのモデルはどこが違うか。リチャード・フロリダの「クリエイティブクラス」によると、都市のクリエイティビティーには重要な要素が3つある。彼の頭の中にはシリコンバレーがあります。それは才能と技術と寛容です。この3つが重要な役割を果たす。中でも一番重要な要素はトレランス(寛容)です。これだけでは何のことかわかりませんが、シリコンバレー/ハリウッドモデル、これはどういうビジネスモデルかというと、新しい才能を獲得するための寛容ということです。何か新しいアイデア、新しいことをやる人間が出てくる。それをじっと待っているのです。そういう新しい才能が出てきたらそれを認める。そういうことに寛容なのです。服装や性格、そんなことはどうでもいい。組織もルールも守らない。新しく起業すればいい。ただ、それが素晴らしいものであるかどうかということです。
スティーブ・ジョブズが考えたことが1つの例です。ジョブズがテレビを見ていて考えたことは、「テレビ市場を別のものに置き換えてしまう。」ということです。IT技術が発展してくると、テレビ市場そのものがなくなってしまうだろう。全く新しいものに置きかえてしまえばいいという発想が生まれる。シリコンバレーはジョブズの発想を支えました。しかし、これは日本経済ではなかなか難しいことです。
高度経済成長期に、この国の多くの企業は事業部制という1つの新しいビジネスモデルをつくり上げました。例えばテレビ事業部に就職すると一生テレビ事業部です。テレビ事業部の発展を考えて、それを支えるための技術開発をしていくわけです。彼らにとっては初めからテレビ事業部ありきです。その世界でジョブズのようなテレビ市場をなくしてしまうなんていう発想は出てこない。しかし、今の世界のデファクト市場の競争はそちらにどんどん向かっていっている。
もう1つ、「もえモデル」というのがあります。これは第2の道。全く別の道がもう1つあります。これは後ほどお話ししたいと思います。上のハリウッドモデルというのはコピーをできるだけ許さない。「もえモデル」というのは、いい表現かどうかはわかりませんが、名声を獲得するために寛容で、コピーに寛容です。
例えば公文。世界中に公文式の教育システムは出回っています。中国の田舎まで公文はありますし、南米、中南米にも公文はあります。公文はどこで儲けているのか。1件1件はほとんど儲けていない。どんどんコピーしてもらったらいい。1件1件、教材で儲けようと考えると、教材はすぐコピーできてしまう。それはそれでいい。1つ1つの利益は極めて少ないけれども、あのビジネスモデルは世界中に出回っていて、トータルでは膨大な利益につながってくる。コピーされるということが初めから前提なのです。公文はコピーする気にもならない。コピーして売ったところでもともと安い。使ったほうが得だという発想です。これは1つの極論かもわかりません。これは後ほど話をしたいと思います。

(図15) 
2つのモデルがあるという話をしました。まず第1のモデルの話をして前半を終了したいと思います。
第1のモデルは厳しい過酷なレッドオーシャンの世界で勝ち抜いていかなければいけない。私どものビジネススクールのほとんどの講義は、第1のモデルについて教えています。どう勝ち抜くのか。知財の戦略、経営戦略、全部第1のモデルです。ここは市場競争の世界が変わったということを申し上げておかないといけない。伝統的な競争というのは価格競争、品質競争でした。先ほど二面性という話をしました。これはビジネスモデルの競争です。それは標準化競争であり、生き残り競争になってきたということです。
(図16)
ビジネススクールでは必ず教える教材ですが、今はなくなったビデオ。VHS方式とベータ方式、これが戦いました。1970年から80年代のビデオ戦争のマーケットを描いていますが、日本ではVHSとベータマックスがあった。ソニーさんはベータマックス。技術的にはどっちがすぐれていたかというと、甲乙つけがたい。私どもの友人で京都大学の先生はベータのほうがよかったという意見を持っている人もいます。でも、市場としてはVHSが勝ちました。ベータは撤退しました。今はもう両方とも他のものに凌駕されてしまっています。これが有名なビデオ戦争です。なぜビデオ戦争が起こったか。これも有名な話で、皆さん、ご存じだと思います。
(図17)
ハードウエアとソフトウエア、この2つがセットになっていました。ソフトウエアというのは使い方の問題です。問題はベータとVHSの間に技術的なコンパチビリティーがなかった。ここが一番のポイントです。したがってソフトウエア、例えばVHSを使った映画のテープがたくさん出回っていたとします。客はVHSを買うかベータを買うかといったら、VHSの方がたくさん見られるので、やはりVHSを買います。今度VHSの方がたくさん売れ始めると、テープを売っている方はVHS方式をたくさん作るようになってくる。そうするとメニューの数も増えてくる。ますますたくさんハードウエアが売れる、安くなってくるということで、VHS側から見ればいい方向に回り始める。ベータの方から見れば悪い方向に回っていく。この競争はどこまでいくかというと、片方が完全に負けるまで続きます。だから、ひとり勝ちになってしまう。これは有名な話です。これはお互いにコンパチビリティーがなかったというところに原因があります。
(図18)
ロックイン効果とか雪だるま効果と言いますが、ひとり勝ちが起こってしまう。一度どれか勝ってしまうと、そこから抜け出すのは非常に難しい。これをロックイン効果といいます。
(図19)
これも有名な教科書的な話で恐縮ですが、このタイプライター、QWERTY arrayという我々が使いなれているアルファベットの配列は、皆さんご承知のように、指が動きにくいようにしています。不便なように配列されている。これは機械式のタイプライターの時代に配列ができたから、余り早くキーを打つと、キーがからまってしまうので、できるだけゆっくりゆっくり指が動くように、あえて不便なように配列をしているんです。IBMが英語の単語を調べて一番効率的に打てるようなキーボードをつくって売り出しました。全く売れない。我々ユーザーがもうこれになれているからです。後からいくらいいものを持ってきても、一度定着してしまうと、そこからなかなか抜け出しにくいというのがこのシステム競争の特徴です。早い者勝ちだということです。
(図20)
雪だるま効果。一度競争が始まると、あっという間に勝負が決まってしまうということです。
(図21)
こういう競争においてどう戦略的に勝ち抜いていけばいいか、一旦ロックイン効果が決まってしまえば、そこからどう抜け出していけばいいかという戦略が、今いろいろ考えられています。戦略的にコンパチブルにするか、あるいはしないか、そういうことを毎日経営戦略で考えているというのが、ビジネスモデルの世界です。1つの方向性としてオープン化があります。Linuxはご存じだと思いますが、1つのロックイン効果を外す戦略として、このオープン化というのを戦略的に考えていく必要があるということです。

 

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