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(図22)
結局、新しく標準化を目指す、そのときの競争をどうするのか。また、もう既に標準があるマーケットに後から参入していったときにどうするのか。戦うのか、あるいは協調してやっていくのか。基本的には、後発組は競争して戦いを挑むのはメリットがない場合が少なくない。マーケットが大きい場合は協調したほうが得だ。技術によほどの自信があって、マーケットがニッチであれば戦うということはあり得るというのが、今の基本的なビジネススクールの教科書的な答えです。
ただ、この考え方も古くなってきました。企業は今どこで儲けているか。例えば保険業界はレッドオーシャンの最たるものです。保険のアクチュアリーの計算なんかほとんど標準化されてしまっていますし、保険の基本契約のところはどの会社も差がほとんどありません。どこで彼らは勝負しているかというと特約のところです。日本もインフラの輸出で、例えば災害特約というところであれば勝機はある。コバンザメ作戦といって、大きなものにくっついていって、特約のところで稼ぐ、こんな可能性があるということです。
(図23)
標準化競争というものの中で、日本はなかなか勝てなくて苦労しています。私も今ベトナムで一生懸命戦っている。これは戦うと決めてやっています。
日本の将来を考えるときに、標準化の問題と日本的な雇用制度は切り離せない問題があります。日本特有の年功序列制度、終身雇用制度というものがあります。これが大分崩れてきた業界もありますし、まだ色濃く残っている業界もありますが、長い目で見ればどんどん薄れていっている。
私どものビジネススクールでは、いま留学生と日本人学生でどちらのほうが早く就職が決まるかというと留学生のほうです。次に女子学生、最後に日本人の男子学生です。苦労しています。数年前からこうなっている。それまでは違っていました。外国人留学生が企業の中に入ってくると、年功序列、終身雇用という制度は使いにくくなってきました。
(図24)
標準的な賃金理論では、日本以外の国は賃金と生産性はほぼ比例的な関係にあると言われています。よく稼ぐ人は賃金も高くなる。ところが、最低賃金率の規制がありますから、特に若い世代は、ヨーロッパでは大学を卒業してすぐには就職できません。若い者は苦労します。デルフト工科大学で、学長に、新卒の学生の就職率はどれかと聞いたら、質問の意味がわからないと言われました。オランダでは新卒の学生がオランダ企業に就職するまで8年かかると言われたことがあります。それまでどこに行ったかというと、みんな途上国など外国に行っています。そこで能力を蓄えて初めて就職ができる。その人間の生産性が最低賃金率の基準を超えない限り、企業は採用してくれない。
(図25)
これも有名な理論で、人質理論と言われています。日本は新卒の学生の初任給は20万円前後といろいろあります。その中で本当に20万円稼げる人間がどれだけいるか。少ないですね。彼らは20万稼げない。でも、日本企業は20万円を払っています。30歳ぐらいまでは社内教育、トレーニングの期間としてアローワンスを与えています。その間に勉強すればいい。そのかわり、どこかで返してくれ。だから30、40歳代の働き盛りのときには生産性ほどの給料はもらっていない。人材を会社の中に張りつけているわけです。これを人質理論と呼んでいる。一生懸命我慢していると、将来の給料の差が出てきますよ、一旦この会社をやめて出てしまうと一からやり直し。損でしょう、会社の中にじっと我慢していたほうがいいという囁きが聞こえてくる。
これはある意味で、雇用者に勉強する機会というインセンティブを与えている。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とヴォーゲルが言ったあの頃は、日本的雇用慣行がもてはやされた。日本的システムに見習え。日本は勉強の機会を与えているんだ。一生懸命勉強した結果、ほかの会社に移られたら元も子もない。自分の会社に残って、勉強したことをその企業にお返しをする、そういうシステムをつくり上げた。これが年功序列と終身雇用制です。
ところが、今はこれが逆になってきているのです。問題は、何を勉強したか。その企業にスペシフィックなナレッジを勉強する。ほかの企業に行ったら通用しない技術。そういう知識になっていることがえてしてあるということです。ある会社の中で、人づき合い、人間関係をどうしたらうまくやっていけるか。そういう勉強は一生懸命している。知識もその会社の技術。それがいわゆる標準化ということを妨げている。標準化というのはどの企業に行っても同じ技術を使っていけることです。この国はそうなっていない。
ただ、これにかわるいい方法があるかどうか。ヨーロッパ的な標準的な賃金理論が日本の賃金理論より素晴らしいかというと、決してそうではない。勉強の機会を与えないことは今ドイツが抱えている大きな問題です。ドイツの企業はほとんど留学生で成り立っています。ドイツ人は勉強していない。これに代わるいいシステムがあるかどうか。これが大きな課題です。私どものビジネススクールも、1つのプロジェクトとして取り組んでいます。しかし、これもなかなか答えはない。社会人教育という意味では、大学がもっと役に立つ機会を提供するということもあり得るでしょう。新しい産学のありようを模索していく。その中で次の回答が出てくるのではないかなと思っています。
これで第1のモデルを終了したいと思います。後半、第2のモデルについてお話をしたいと思います。



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