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(図32) 
これは先ほど言いました「か・き・く・け・こ ビジネス」の話です。このコンテクストの社会というのは、極めてアジア型です。ホールという人が『文化を超えて』という本を書きましたが、コンテクストによって世界の国を分類しています。図表がなくて申しわけありません。最もハイコンテクストに依存している文化が日本です。その対極にある国はスイス、ドイツ。そこは極めてコンテンツに依存している。コンテンツというのは、話した内容、話す内容、見た目で製品そのもの、それだけです。そこにどれだけのメッセージが込められているかというのがコンテンツに依存したビジネスです。日本社会はコンテンツ依存社会とは正反対なんですね。
面白い話が今あります。おすし屋さんが舞台です。先日、私たちの同僚がエスノメソドロジーという今はやりの技術を使って、お客さんと板前のやりとりを記録し、そこでのやりとりを後で追跡して調査しました。お客さんが店の中に入ってきます。板前が「何にしましょう」と言う。最初のお客さんは常連さんで、その常連さんは「小瓶で」と言う。それで、もうビールというのはわかるので、小瓶のビールを出してくる。次にいろいろやりとりがある。また別の客が入ってきました。同じように、板前さんが「何にしましょうか」、「今日は暑いからビール1本」、こういう言い方をしている。最初に「今日は暑いから」という言いわけが入ってきている。これは一見さんで、だめ。でも、板前はそういうことは一切言いません。そこから次の言葉はもう変わってきているんです。客に合わせて会話をどんどん変えていっている。ほとんどコミュニケーションはありません。「小瓶で」と言うだけです。それでコンテクストは伝わっている。ある意味で極めて日本的なビジネスのありようです。これは売る側とお客が両方、切磋琢磨している。真剣勝負です。板前も客を見て自分の料理に対しての反応をうかがっている。客も客で、丁々発止しながら、少ない会話でお互いエンジョイしている。こんな文化はほかの国ではほとんど見出しがたい。それがコンテクスト文化です。
問題は、こういうコンテクスト文化、我々日本人のありよう、都市のありようというものが、暗黙のうちに極めて複雑なコンテクストに彩られてきている。歴史の長い積み重ねでそういうことが起こってきているわけです。
この間、私はフェイスブックに藤原定家の話を1つ書きました。「見わたせば 花ももみぢもなかりけり 浦のとま屋の 秋の夕ぐれ」という定家の有名な歌があります。これは何のことはない。海岸にうらぶれた小屋が1個あるというだけの話ですが、その前段で「花ももみぢもなかりけり」と言っているんです。これで秋の状況を定家は完璧に表現している。「花ももみじも」と言った途端に、日本人は頭の中に、「花」、「もみぢ」の情景を思い浮かべる。「なかりけり」で全部否定してします。この技巧。こういう話は他の国にはなかなか通用しにくいところがあります。
この国がコモディティ化を防いで海外にどう出ていくのかという話は、現場力の持っているコンテクストの強み、これを現地でどう花を咲かせていくかを考えるしか手はないのではないかと思います。
先ほどのBOP(base of the pyramid)。貧困のビジネスをやっていく。そこを考えていかざるを得ない。日本型のコンテクストを海外に持っていくことは不可能です。この国でしか成立し得ない。しかし、その持っているコンテクストを一度解体してバラバラにして、現地の人間と一緒に現地のコンテクストをつくり上げていくということを、この国はできるはずです。今私どもがベトナムで一生懸命そういう目論見でやっています。
ただ、そのときに日本のブランドを保ちながらどれだけローカライズするか、ここに全てがかかってきていると思います。その中で、ブランドとは一体何なのか。日本料理のブランドとは一体何か。すしのブランドとは何か。カリフォルニアロール、おいしいですね。あれはすしではないといっても、あれはすしです。日本料理とは何か。コアとなっている概念をきちっと明らかにしていく試みをやらないといけないと思っています。うちの若い2人の食のチームは、それは多分うまみ成分だろうと言っています。うまみをコアで何かできないかという研究している。それを現地にプランテーションしていくという話です。
「か・き・く・け・こビジネス」と書いていますが、「か・き・く・け・こ」の先ほど言った分野は、全部ブランドを保ったローカリゼーションに勝負がかかってくるのではないかと思っています。
先般、韓国に行ってきました。韓国で新しい言葉を勉強しました。「コバライゼーション」と彼らは呼んでいます。コバライゼーションのシンポジウムに出ました。コバライゼーションというのは何のことかと思ったら、韓国風のグローバリゼーション。コリアングローバリゼーションのことをコバライゼーションと彼らは呼んでいます。韓国のコバライゼーションも1つのビジネスモデルですが、あれは韓国風ビジネスのあり方、韓国風のマネジメントのグローバル化です。どこに行っても韓国風でやり通す。そのモデルです。それは今我々が考えているローカリゼーションの考え方とは対極に立つものだと思っております。
具体的な方法論をどうしたらいいか、そういうところがこれから問われますが、やりようとしては「おもんぱかり」と「見立て」、「擦り合わせ」、この3つしかないかなと思っています。「おもんぱかり」というのは、サプライヤーのほうから相手が思っている気持ちを推測して、こういうものでしょうということを提案していく提案型サービスモデル。「見立て」というのは、お花などにあるものですが1つのストーリーを見せる。それに対していろいろ勉強していただく。勉強の機会を提示していくというやり方。「擦り合わせ」というのは、先ほどの板前の話です。両方が丁々発止する。最初の段階で、この「擦り合わせ」型にまではいかない。「おもんぱかり」、「見立て」の形でしかいかないとは思いますが、そういうモデルが第2の道と言えるのではないかと思っています。
マクドナルド、スターバックスは第1の道です。ノーコンテクスト。コンテンツのみの世界です。スケーラビリティーはあるけれども、付加価値をどこまで上げられるか。コンテンツでいっている限りは、付加価値はだんだんコモディティ化で毀損していきます。コンテクストは、価値を毀損しにくい。そこで勝負していくというのが1つあるのではないかと思います。
(図33) 
最後に、京大ビジネススクールの「グローバルビジネスリーダープログラム」について紹介させてください。第2の道のための学校をつくりました。東京の日本橋の日本ビルの14階で実際にスタートしました。グローバルビジネスビジネス人材に関しても日本人はほとんど誤解しています。日本ではジェネラリスト、スペシャリストという言い方をします。学部の間はスペシャリストとなるために勉強して、ある程度実績を積んで経営層に入ってくると、ジェネラリストになりなさい。ビジネススクールはそのための1つの勉強の場だと、我々も宣伝してきました。日本的な考え方です。
これでは少なくともアメリカ社会に行って全く通用しません。あり得ないと言うわけです。我々の言っているスペシャリスト、専門だけ勉強しているような人間はいない。いるとすれば、英語ではそれはインエクスペリエンスト・パーソン(経験不足の人間)だと言うのです。それは先ほどのモジュ-ルとインテグラルぐらいの違いです。ハイコンテンツ社会では、彼らは、人格と専門性は分離していると考えている。人間である以上はモラルや総合性は、当然鍛えていくべき要件であって、ビジネススクールに行って勉強するものではない。大学にいる間から、あるいは一歩社会に出てから、人間はジェネラリストとして陶冶されねばなりません。陶冶された人間がどういう専門性を持ってビジネスをするか、そこが勝負だということです。ビジネススクールになぜ行くかというと、今までこの専門性を持っていたけれども、別の専門性を持ちたい。でも、自分の人格が変わるわけではない。新しいことを勉強するためにもう一度大学に行き直す。これが社会人教育だということです。
この国は違います。インテグラル型です。私は土木工学科を卒業して土木工学の価値観を徹底的に身につけた。発想から何から何まで土木技術者として育ってきた。年を重ねるうちに、他の分野にも手を出していった。人格と専門性が一致している。これがこの国の人格教育のありようです。2つの考え方は全く水と油で融合のしようがない。ただし、私はインテグラル型人材というのは極めて重要で、これがないとコンテクスト型社会では生き残ってはいけないと思います。
ただ、日本の世界で育ってきた人間が一歩外へ行くためには発想を切りかえなければいけない。これをBBCで「see both sides of the story」と言っている。同じ状況でも見方が違えば全く違った社会が見えてくる。これはモジュール型人間にとっては、比較的やりやすいことです。専門性から離れて淡々と見る。ところが、我々は1つの側面から物を見ることに慣れ過ぎている。
インテグラル型が大事でありながら、これを何とか脱却する、もう一歩抜きん出る教育の機会を提供できないか。大学としてそういうプログラムをつくれないのかということで、結局、普通のビジネススクールで教えているようなことは一切やめました。異文化対応能力や人材マネジメント、パブリックリレーションズ、企業倫理、責任、CSR。日本で我々が思っているCSRと一歩外国に出たときのCSRの概念は全く違います。CSRというのは、はっきりいってマーケティングです。そういうことのできる人材をつくりたいということで始めました。
私の友達のいる大学ばかりですが、インドのIIM(インド経営管理大学)。ここは世界ではトップ10に入っている非常に有名なビジネススクールです。タイのチュラロンコンビジネススクール。マレーシアのIIUM。ベトナムは、UTC、ハノイ貿易大学。インドネシアは、インドネシア大学とバンドン工科大学。フィリピンは、フィリピン大学とアテネオ大学。中国は、大学とつき合うにはお金の面でなかなか難しいんですが、とりあえずは中国の企業連合会、日本で言う経団連、経済同友会に相当する組織ですが、そことタッグを組んで始めました。

 

 

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