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1.崩壊寸前の社会資本

(図1)
今日のテーマは、社会資本の老朽化の問題で、「インフラ」と書いてありますが、インフラだけでなく、上物、箱物、建築物も含めて、日本は非常に老朽化しているという話です。ほっといても崩壊をするよということで、当初は、「崩壊寸前」というタイトルで本を出そうとしていました。ところが、出版社に「崩壊寸前」というのは何が崩壊するのかよくわからないといわれまして、最終的には「朽ちるインフラ」というタイトルになりました。筆者としてはあまり気に入ってないんですが、これがパッと目に映るんだそうです。サブタイトルが「忍び寄るもうひとつの危機」というものです。では、もう1つのほうは何かというと、これが震災であります。本はもう3月には書き終えておりまして、3月中に出版をする予定だったんですが、それどころではないなということで、急遽、震災関連の情報を多少付加して、こういうサブタイトルをつけました。大震災というのは明確にある日突然やってくる。でも、いつ来るかわからない天災です。これに対して社会資本の老朽化は、100%確実にやってくる人災です。これを放置していたら犯罪です。100%確実に予見できるということは100%確実に避けることができるわけです。
私は後者の方に注目して、ここ数年間研究を続けてまいりました。ようやく昨年ぐらいから風向きが変わり、老朽化問題、更新投資問題が注目されてきました。今までは公共投資の財源を減らす一方でしたが、ちゃんとお金をつけていかないと大変なんだよということをいってきたところ、昨年あたりから、一昨年は減額要求をした国交省の予算も、今年度に関しては同額の要求で、国の姿勢もかなり変化してきていると思います。
(図2)
そういう中で震災が起きました。震災が起きた以上こういう話はもうどうでもいいのかなということは全くありません。「緩やかな震災」という言葉を使っていますが、地震が起きなくても古くなったら確実に壊れるわけでございます。ある日突然ボンと起こるわけではないけれども、日々小規模な震災は起きている、と考えないといけないと思います。そのことについて財源の問題も含めて調べたのがこの本であります。
地震は一気に発生するが、発見の予見可能性は低い。老朽化は緩やかに発生するが、100%確実に予見できるということです。
全く違うタイプの災害ですが、実は対策は同じだと私は思います。ハード面の対策、これは耐震性を強化するということになります。老朽化して耐震性の弱いものを更新してつくっても仕方がないわけです。ハード的に耐震性が強いもの、社会の仕組みとして災害に強い町をつくるというのは、地震に対しても、あるいは老朽化に対しても全く同じことだと思います。
ソフト面も同じです。地震というのは予見ができないので、何が起きてもいいようにソフトの対策を講じなければいけない。老朽化は予見できますが、常に想定外がつきまうので、これもソフトの対策が同様に必要だと思います。地震と老朽化は実は同じ問題だということです。
「緩やかな震災」という言葉をつけています。なるほど老朽化というのはそういうことなんだということで、これは結構評判がよい。慢性病ですね。急性の病気が震災だとすると、老朽化というのは慢性病で、ともすれば見過ごしがちなんですね。手遅れになってからハッと思うんですが、それでは遅い。もう十分手遅れになっているんですが、これからでも最大限頑張りましょうという話を今日はします。
(図3)
老朽化をすると、更新投資をしないといけない。怠るとどうなるのか。これは、2007年にアメリカで橋が落ちた事故の写真です。更新投資を怠ると、危険な状態のまま使うか、全く使用停止にするかの選択を迫られることになります。使用停止にすればまだいいですが、使い続けていると事故が起きてしまう。死亡事故です。2007年、つい最近起きたものです。これは地震でも何でもありませんが、ある日突然落ちたんですね。

(図4)
これは国土交通白書の大変すぐれた分析だと思っています。実はアメリカの橋は、1980年代の初頭に橋が落ちたり、落ちそうになったので使用停止にした、あるいはケーブルが切れたりという事故が相次いで起きました。1981年に「荒廃するアメリカ」という本が書かれて、世界で話題になりました。日本でも翻訳本が出ております。インフラというのはお金をかけなければいずれは崩壊していくんだという至極単純な事実を示したものですが、非常にインパクトがありました。
何故、アメリカの橋が1980年代に落ちたんでしょうか。何故、日本の橋は落ちないんでしょうか。アメリカの橋が1980年代に落ちたのは、古かったからです。それらの橋はいつかけられたかというと、1930年代にかけられています。何故その時にかけたか。フランクリン・ルーズベルトが大恐慌の後の景気対策として打ったニューディール政策です。フーバーダムをつくったり、いろいろなことをやって、全米でインフラ投資を加速しました。高速道路、橋をたくさんかけました。景気対策、雇用対策としてやりました。これ自身は正しい。そうしなければ経済がさらに疲弊していったでしょう。
ところが、かけた橋をメンテナンスするということを怠った。グラフを見ていただくとわかりますけれども、1930年代にかけた後はストンと落ちるんです。その後経済が拡大してくると橋の本数は増えるんですが、30年代のニューディールの時に一生懸命投資したことによって一段落してしまったんですね。アメリカ人は、「もうこれでインフラは十分だ」と思って、手抜きをしていくわけです。メンテナンスをしない。道路財源を一般財源に変えていく。道路のメンテナンスの予算がとれなくなってしまう。次第次第に橋が老朽化していく。それが50年経過して80年代に落ち始めた。
全く同じことを日本もやっているわけです。道路財源を一般財源にしましょう。道路の予算をどんどん切っていきましょう。それでも、日本の橋は落ちないではないか。国交省の人がこのグラフを財務省に持っていくと、「日本の橋は落ちてないね」という話になるそうです。それはおかしいんですね。アメリカの橋が落ちて、日本の橋が落ちないということは理論的にあり得ません。何故日本の橋が落ちないかというと、古くないからです。古くなれば日本の橋も落ちます。物理的な耐用年数があります。今であれば100年落ちない橋はできるでしょう。ところが、昔の技術であれば、耐用年数の程度しかもたないと考えないといけません。

それでは、いつ頃古くなりますか。日本の橋の第1のピークは1960年代の前半です。これは何故でしょう。東京オリンピックです。東京オリンピックの前に国力の増強ということで首都圏を中心にインフラ投資を加速させます。橋ではありませんが、首都高速道路は1963年にできているわけです。ああいった投資が日本全国で始まるのが1960年代の前半です。





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