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それが、実現しました。手前が養徳学舎です。裏側にあるのがマンションです。今日もいらっしゃるかもしれませんが、ヒューリックさんというデベロッパーの上場会社がこのプロジェクトを受注しました。ヒューリックは自分の信用でお金を調達して、建設会社には払わないといけない。長期間、50年だったと思いますが、定期賃貸借で土地を借りて、それでマンションを運営する。50年分の期待収入が入ってきますので、それの範囲内で払える地代が出てきます、その地代と、この学舎の建設費を相殺するという形をとっています。4~5億円です。その4~5億円のお金を奈良県は出せないということでこういう仕組みが成立をしています。一番得をしたのが奈良県です。お金を一銭も出さないで新しい公共施設を手に入れることができました。ヒューリックさんは損をしたか。損をすることはあり得ないです。企業のCSRでやっているなんて、そんなことはあり得ません。余り儲かってはいないと思いますけれども、損をしてはいません。通常のビジネスの範囲内にとどまっています。それなら、マンションの入居者は、奈良県の県民の子弟が安いお金で寄宿できるようにボランティア的に、ほかよりも高い家賃を払っているのか。そんなこともあり得ないです。こちらもマーケットベースでしか人は入らない。
つまり、3人のプレーヤーのうちの1人だけが大幅に儲けて、残りの2人も損してないというゲームです。何故そんなことができたかというと、使っていない土地があったからです。使っていない土地というのは使わないでいるとゼロだと思うかもしれませんが、経済的にはマイナスです。本来使えるものを使っていないというのはマイナスです。そのマイナスを使ってあげることによってプラスが生じているということです。民間企業でも余剰地がないとはもちろんいいませんけれども、公的部門、政府の場合は余剰地の塊みたいなものです。全く使ってない土地というのはさすがにすぐ目をつけられますが、敷地の一部が余っている。これは市役所なんかもそうですね。そういうのがたくさんあります。いろんな形でそこで収入を得る。最近区役所にコンビニを併設する、24時間の駐車場を併設するなど、いろいろな形で収入を得ていますが、余剰不動産をうまく使わないといけないと思います。そういう知恵が出てきています。
(図25)
それから、自治体間の連携を入れてあります。広域連携なので、1つの自治体ですべてをやるということはできない。今でもありますが、例えば火葬場とか廃棄物の処理場などは複数の自治体で組んで投資をしています。そうしないと小さい町ではとてもじゃないけどできませんということがあります。
ここで紹介する例は、最近の震災の例です。実は震災復興対策で私が非常に注目しているのは、都道府県や国は頼りにならないなということです。自治体そのもの、基礎自治体、市町村が一番頼りになるんですが、今回は市町村自体が被災しています。役場も流されてしまう、町長さんも亡くなってしまう、職員の3分の1ぐらいはどうしようもない状態、残りの人もみんな被災しているということになると機能しないんですね。そのときに県や国に支援を求めるんですが、大変時間がかかる。来ても市町村の仕事と県や国の仕事は全然違うので、余り役に立たない。もちろん役には立つんですが、役に立つ範囲が限られている。そうすると、近く、まあ遠くてもいいんですが、同じような市町村の職員なら、同じような仕事を日々しているので、すぐシフトできるんです。実際に避難所の運営、例えば釜石市の避難所を北九州市の職員が運営しているとか、そういうケースは今回も結構ありました。
これは岩手県の遠野市というところですが、遠野というのは津波の被害を受けていません。内陸部の盛岡や花巻という大都市からも車で1時間ぐらい、沿岸部にも車で1時間ぐらいということで、後方支援の拠点として非常にいい立地条件です。遠野市が、被災した宮古や釜石、山田、大槌というところを支援している。これは非常にいいと思いました。
更新投資の話とはちょっと違うんですが、日常からこういう関係があれば、防災拠点みたいなものも、宮古や釜石の沿岸沿いにつくったらまた津波でやられるかもしれないので、最初からみんなで共同で遠野につくっておく。自衛隊が来たらまずそこに集積をする。そういう広大な土地を遠野が提供して、何かあったときはそこを基点に支援してもらうということにすれば、実効性の高い公共投資ができるのではないかと思います。
(図26)
今までお話ししたのは資産を増やさないというやり方です。資産を単純に従来どおり増やすと負債が同じように増やさなければいけなくなってしまうので、ただでさえ悪い負債の依存度がもっと悪くなってしまう。資産をできるだけ増やさないということは、負債を増やさないということです。民間資金をできるだけ入れることによって公的な負債を増やさないというやり方です。

これも、国の文書に書かれた言葉で、「規律ある資金調達」といっています。今、復興国債や復興地方債を出すといっています。国が面倒を見るから国債を出す、それが国の政治家の務めだと思っているかもしれませんが、借金を返すのは私たちの子どもたちです。少なくとも今の政治家じゃないだろうと思うんです。できる限りのことをするといっておきながら、自分の資産を全部投げ打って貢献している政治家は誰1人もいない。次世代にツケを残して、やりましたなんて威張らないでほしいと思います。
今の日本の財政はやはり規律がないんですね。税金も同じです。税金を上げるのは今の世代が痛みを伴いますから、次世代に送るよりはまだいいんですが、それも規律がない。足りないお金は何とか国民からとるという話です。もっと前にやるべきことがあると思うんですが、この「規律ある資金調達」というのは民間資金を入れることです。
今、日本にはGDPの2倍以上の借金があることは事実です。片や1400兆円の個人金融資産がある。これが日本が財政破綻しない唯一のよりどころです。この1400兆円の個人金融資産が、律儀にも国債、地方債を買ってくれているから、国民の中では資産と負債がバランスしているんですね。ギリシャやアイスランドは、外国人の投資家が買っているので、そこが見切りをつけるとあっという間に経済がクラッシュしてしまう。日本の場合にはそうはなっていない。なっていないが故に、まだ大丈夫と思っているんですが、これにも限界があります。
1400兆円の個人投資家の資産が、フワフワした国債、政治家の人気取りとしか思えないような国債の購入に向かうのではなく、自分が支援したいプロジェクトにダイレクトに行くような仕組みをつくる必要があると思います。
これは、海外で行われていて、こういう言葉は皆さんお聞きになっていると思います。左側がTIF(タックス・インクリメント・ファイナンス)。右側がレベニュー債。いずれも特定のプロジェクトからしか返済を受けない。一生懸命頑張るそのプロジェクトのためにしか使われないので、そのプロジェクトを応援する人しかお金を出さない。お金の調達がつかなかったら、そのプロジェクトはスタートしないんですね。返済はそのプロジェクトから得られる収入だけです。もちろん、受益者負担のあるものはその収入ですし、あと、税金として発生する場合でもそれはそれでいいんですが、そのプロジェクトの便益を計算して限定をします。仮に見通した収入が得られないような場合は、この債権者は返済を受けられないということです。国債というのは日本国がだめにならない限り返済を受けられますから、幾ら出してもみんな買ってくれるんですね。でも、危ない。国債を買っている人はそろそろ見切りつけたほうがいいと思いますが、これはそうではないんですね。このプロジェクトが失敗したら返ってこないんです。返ってこなくてもいいと思えるようなプロジェクト、もしくは絶対に成功させるぞと思えるようなプロジェクトに限定してお金を出していくということです。

 


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