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そんなのはお金は集まらないでしょうと思うかもしれませんが、実はこれはアメリカの連邦破産法の改正が20年ぐらい前にありまして、先取り特権というのが認められています。何かといいますと、日本国あるいは宮城県は破綻しても、このプロジェクトが元気で頑張っていればお金を返してもらえるということです。だめになったら返さなくてもいいけれども、これが元気で頑張っていればちゃんと優先的に返してくれる。親がへたっても子どもが元気であれば優先的に回収できるという仕組みです。日本で導入する場合はそれもセットで導入しないといけないんですが、世界ではそれが法定化されています。もちろん税収を含めてですが、市場が選別するんです。この機に乗じて、あんまり必要とも思えないもの、あるいは同じように被災してしまったらどうしようもないなと思える公共投資をしないためには、国民のお金による投票が必要ではないかということです。
これはちょっと難しい話なので、国の役人にいってもなかなか進まなくて、がっかりしています。これをやらないと1400兆円の行きどころがないんです。ちゃんとこういう仕組みをつくってあげれば1400兆円が流れ始める。復興の財源は、何だかんだいっても25兆円や30兆円、そんなものです。ほんの一部でも回れば資金調達はつくんです。そういう資金は別に高金利でなくてもいいし、あるいは5年とか10年でなくてもいいし、例えば50年とか100年、あるいは期限を切らないで配当だけ定期的にやるというものでもいいのかもしれないと思います。そういう知恵がこれからどんどん出せるといいなということです。

 

5.進め方の知恵

(図27)
「本日伝えたかったメッセージ」ということで、100%確実な緩やかな震災に備えるのは当然の義務です。不足分の3割の予算を確保するのではなく、生産性を3割引き上げる必要があります。そのためには従来の発想ではだめです。この発想から抜けられない地域は滅びると思っています。何とかしてください、何とか知恵を出してくださいといわれるんですけれども、知恵にも限界があります。地域もちゃんと努力しないとなかなかそれは無理だと思います。私の専門であるPPPの出番になるわけですけれども、まさに従来どおりでいいということは全くないので、ぜひ新しい知恵を出してください。別にそれはPFIであろうが、民営化であろうが、何でもいいんですね。民間の知恵を上手に拾い上げていく方法があるのではないかと思っています。
(図28)
補論ということで、先ほどご紹介しました震災の絡みで、皆さんに耳寄り情報、おもしろいプロジェクトの話を幾つかしたいと思います。
岩手県遠野市は、支援自治体ということで今、大変頑張っておられますが、実は地震の被害には遭っています。市庁舎の本館が全壊です。全壊というと、私は文科系の人間なので、本当に崩れていると思いますが、これは柱が折れているんです。大変危険で、もう入れない状態になっている。これが全壊状態ということです。津波の影響はないんですが、とにかく市庁舎が使えないということになってしまいました。そこで、市役所は市街地の商業施設の空きスペースに移転しました。それから、遠野市は合併自治体ですので、議会は、合併前の自治体の議場に移転しました。この間が今20キロ離れています。日本で市長部局と議会が一番離れている自治体ということになります。このぐらいの距離感がいいと当事者はいっていましたね。議員も責任感が出ます。しょっちゅう職員を呼びつけて口ききを頼むこともなく、ちゃんと静かなところで考えることができると思います。
(図29)
市役所をスーパーの空きスペースに移転しました。これは中心市街地の活性化センターという公共施設です。土地も建物も市のものです。中に商業テナントを入れて賃料収入を得て、この投資を回収していくという公共投資のモデルになっています。御多分に漏れずなかなかお客さんが来ない。シャッターがどんどんおりる、入り口を閉じるという状態で、ちょっと寂しい雰囲気でした。そこで、空きスペースを上手に使いまして、それを繰り回しまして、ここに遠野市役所とぴあ庁舎というものが入りました。
(図30)
こういう感じです。我々が行ったのは連休の直前でしたが、連休明けから稼働しますということになっていました。したがいまして、職員はいなかったんですが、デスクが並んでいます。左下の写真がショッピングモール部分です。地方の駅前の再開発ビルの典型のような感じです。今はテナントが全部敷き詰められている状態ですからいいんですが、間が抜けていたりすると非常に寂しい。買い物も余りしたくないなという雰囲気のところに、市役所がワンフロアの半分を借りてくれました。向こう側に見えるのがショッピングモールの部分で、手前が市庁舎の部分です。市民向けのブースがちゃんとあり、市民課や税務課とかあります。
市は、とにかく全壊になったわけですから、これを何とかしないといけない。プレハブの庁舎を建てるのでも、やはり何十日かかかる。いわんや新しい庁舎なんか建てている時間もない。安全で便利なスペースが直ちに確保できました。全壊から47日後です。このくらいのスピードでやらないと市の仕事ができない。というのは、被災自治体だから、被災者である市民のために支援をしないといけない。罹災証明というのを発行しないといけないですね。罹災証明がないと赤十字の義援金ももらえない。罹災証明を出す場所をちゃんと確保してあげないといけない。あるいは、もっと早い段階の話だと、実際は亡くなった方はいませんが、もし死者が出たような場合だったら、真っ先に火葬の許可が必要になります。でも実は被災自治体のほうは火葬許可が出せないような状態でした。もちろん火葬場も倒壊していますから、1週間以上ご遺体がそのままの状態にあったということも実際にあったわけです。そんな仕事は民間ではできません。NPOでもできません。これは行政の公権力そのものです。市役所に頑張ってもらわないといけないということで、頑張れるような形のスペースをつくりました。
それから、これは市民にとって評判が非常にいい。市役所まで行っても市の用事を済ませるだけだったのが、ここに来たら買い物もできるわけです。あるいは逆に買い物がてら来て、市の用事をちょっとだけ済ます。2つの用件を同時にすることができるということです。最近コンビニで住民票がとれるところも出てきていますが、そんな半端なものではない。丸ごとショッピングセンターが市役所になっているという話ですから、こんな便利なことはない。商業施設には、市長部局から賃料収入を払いますし、市の職員が毎日毎日100人ぐらい来ます。この人たちもボーッとして帰るわけではなくて、何か買い物をして帰ります。今までなかったような固定客をこの商業施設は初めて得ることができたわけです。これは非常にいいプロジェクトだなと思います。

 


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