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市庁舎が自前の建物でないといけないというのは全く決まっていません。そういうふうにみんなが思い込んでいるだけの話です。海外では、人口10万人ぐらいでもテナントとして入っている市役所はどこにでもあります。自分の資産を持たなければならないということはありません。片や、民間のスペースは幾らでもあいているわけです。駅前の再開発で閑古鳥が鳴いているというのは日本全国どこにでもあるわけです。百貨店が撤退して、その後町全体が疲弊してしまったという、例えば木更津のようなところもあるわけです。だったら、木更津市役所は駅前のそごうの跡に入れればいいというのが我々のもともとの主張でしたが、「いや、そうはいっても」みたいなことでなかなかできないんです。「そうはいっても」をあっという間になし遂げた例がここにあります。遠野市長は非常に政治的なリーダーシップのある方で、絶対にできるはずだ、できなければ法律を変えろというぐらいの勢いでやっています。
自分のところの市の仕事だから、これはこれでいいんですが、先ほどご紹介したように、ほかの市の仕事もしてあげている。市民運動公園を開放して自衛隊の駐屯基地をつくっています。そうしないと、自衛隊の重車両が被災地に直接行ったら、もともと道路がガタガタになっているのに危ないし、とめておくところは本来避難所として使わなければならないので、そういう場所もないんですね。どこかにとめてあげないといけないんですが、どこも提供しない状態が予想されたので、遠野市が真っ先に手を挙げて、「ここを提供するよ」といって、提供しています。ところが、自衛隊の重たい重機はさすがに重たいので、地面がガタガタになってしまいます。運動公園のために復旧しようとすると大体5000万円ぐらいかかるだろうといわれています。ところが、そのお金が出るかというと出ません。基礎自治体の仕事は基礎自治体の範囲内に限定されている。これは地方自治法という法律で限定されている。遠くに行ってもいいんですが、それはあくまでも自分のところの市民のための施設でないといけない。保養所や少年自然の家が遠くにありますが、それは自分の住民のために使うということが前提になっています。したがって、地方交付税も補助金も全然出ないです。その5000万円をどうやって工面するのか、財政課長が大いに頭を抱えていました。そんなことを気にしていたらできないんだというのが遠野市長のおっしゃりたいことで、確かにそのとおりで、首相にしたいぐらいです。
そういう人たちを応援しないといけないと思っていまして、法改正を要求しようと思っています。そんなことを含めて感じたことであります。
(図31)
ここに図面があります。こちら側が市役所で、こちら側が商業です。セキュリティーが大丈夫かなと気になりますが、ここ間にシャッターをつけようとしています。基本的にはシャッターが閉まるまでは1つの空間です。市民もどんどん来てください。市庁舎の部分にもどんどん入ってきて、職員に声をかけてください。職員はちょっとたまらないかもしれませんが、さぼっていたら見られるわけです。そういう緊張感もあって非常にいいのではないかと思います。
(図32)
これは釜石市の例です。これも新しい公共施設を象徴するような事例だと思います。釜石市は津波でやられています。市庁舎そのものは助かっていますが、対策本部は町中に置かないといけないということで、これは喫茶店ですが、外食のチェーンのブースのような4人がけのいすが8個ぐらいあるところを使っています。それぞれのブースごとに課の看板をかけるわけです。本庁舎からその日の担当の職員が自分の看板を持ってきて、今日はここが会計課、ここが土木事務所、ここは福祉というふうにブースを占用するんです。業者や我々みたいな研究者、あとは市民が相談をすると、その件だったらこっちにどうぞと紹介していくわけです。

これは非常にいいと思いました。市は安全なスペースが直ちに確保できた。先ほどの遠野市は47日といいましたけど、こちらは10日後、あっという間にできました。市役所本庁舎は無事でしたが、当然書類もひっくり返っているし、職員もどこにいるかわからない状態だったので、この場所さえ決めていれば、ここには確実に来るという状態をつくりました。
それから、市の職員がいっていたのは、これは比喩ではなくて、本当に風通しのいいオフィスだそうです。今までは課が違ったら、何をやっているのか全然知らなかった。だけど、ここに来ると、なるほどそういう仕事はそういうふうにやるのねというのがよくわかる。自分のところでもできるんだけど、そういうことだったら、こっちの課のほうがよりちゃんとお手伝いできますよというように、たらい回しではなく、すぐに一番いいセクションを紹介してあげることができる。職員同士でも、「こういうのが来たんだけど、どうしようかね」と相談できる。お客さんが途絶えたときにお隣のブースに声をかけて、本当に意思疎通ができます。
その職員はこのブースを占有しているわけではありません。また、翌日来たら別の人が来るのかもしれません。いわゆるフリーアドレスです。市役所の職員がデスクを1人1つずつ持たなければならないということは全然ないと思います。市民がむしろ使いやすいような配置をして、市の職員はパソコンだけ持ってくる。そのコーナーで仕事をする。帰ったらパソコンをちゃんと返す、そういうやり方をすれば公共施設はもっともっと面積が少なくて済むのではないかなと思います。
市民も非常に便利です。災害関連の手続がワンストップで可能となり、どこに行ったらいいかわからないけど、とりあえずここに来たら、ワンフロアの中にみんながいるので、最初に会った人が担当でなくても、必ず担当が近くにいる。非常に仕事がはかどるといっていました。これも新しい公共施設のいい事例だと思います。
遠野市にしても、釜石市にしても、極めていい事例を出してくれているので、ありがたいと思うんですが、地震があったからできたというのが寂しいですね。本来地震がなくてもこういうのはみんなで考えてやろうよとできたはずなんですね。多くのとうとい犠牲の上にようやくアイデアが開花するのはちょっと違うと思います。
本当に不幸中の幸いで、我々、首都圏の人はそんなに大きな被害を受けているわけではありません。だけど、こういう事例を学ぶことはできるわけです。こういう事例を紹介しても地震が来ないとぴんとこないという人は本当に地震でやられてしまうと思います。貴重な経験も、してはならない経験でしたけれども、事実として起こった以上は、この資産を全国民が共用して、無駄なことはなるべく避けて、財源をすかせてあげて復興のほうにお金が回るようにしていくということが必要だと思います。
そういうことで私からのプレゼンは以上でございました。
本のPRを再度させていただきますけれども、我ながら大変いい本だったと思っています。ここ数年やっていたことすべて集大成で入れてありますので、ぜひお読みいただければありがたいと思います。ご清聴ありがとうございました。(拍手)


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