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今450兆円ぐらいの社会資本ストックがあります。企業でいえば有形固定資産です。有形固定資産は有限ですので、物によりますが、平均50年ぐらいで耐用年数を迎えるとすれば、450兆円のストックを維持するためには、年間10兆円ぐらいの投資をし続けなければいけないということになります。
一方、その財源の裏返しである公共投資は年間幾らか。これが折れ線グラフのほうです。ご覧をいただくと、まずびっくりするのは山型になっているということです。過去のピークは1990年代の後半です。バブル経済が崩壊した後、景気対策をどんどん打ったんですね。皆様のお仕事もこの時期はたくさんあったと思います。GDPベースで40兆円ぐらいでしたが、今は20兆円で半減しています。1990年代の末期からどんどん減っています。小泉構造改革の時にどんどん減って、さらに減りということです。今や名目ではバブル期の水準すら下回っているということになります。
この減っている公共投資で増える更新投資を賄わないといけないということです。何か比喩で例えてくださいといわれるので、例えばサラリーマンの方が、新しくマンションを買いました。子どもを私学に入れました。その途端に会社からリストラされてしまったという感じですね。収入は減るんですが、支出は変わらないわけです。収入が減った分、デフォルトさせてくれればいいんですが、そうは世の中は甘くない。借金は残っているという状態です。
これが国全体で起きているんです。会社のリストラは予見できないかもしれませんが、国全体でストックが増えていることは大分昔からいわれていた。必ず更新投資が必要になりますよというところまで思いが至らなかったということであります。
(図8)
「増大する需要を減少する予算で賄うジレンマ」ということで、これはざっと見ていただければいいんですけれども、左側の山を見ていただくと、最近公共投資が減っている。素人が見ると、過去あれだけやったんだったら、もう公共投資要らないでしょうね、予算要は福祉や介護に振り向けましょうという話になるわけです。民主党政権の最初の公約が、「コンクリートから人へ」といわれていました。コンクリートは十分に投資したからもういいという意味だったわけですが、それは明らかに理論的に間違いです。何故ならば、コンクリートは更新しなければならないからです。
今減っているということは、過去のストック分が増えているということなので、これを今後更新しなければいけません。仮に今と同じだけの予算を確保できたとしても、この三角形の部分の予算が足りなくなります。極めて単純なことなんですけれども、これが今まで政策に反映されてきませんでした。私も数年前から延々といい続けて、あちこちで講演をしながらちょっと抽象的ないい方をしてきました。
いろいろな反論があります。1つは、国がやれといったんでしょう、国がやれといったから地方もやったんですよと。だから、国が面倒を見るべきだ。今までも困ったら国が面倒見てくれたから、自分から率先して何か対策を打つ必要はなくて、今までどおりやれば国が最終的に面倒見てくれるよという、これは「国家責任転嫁型」と名づけています。無責任だとしかいいようがないんですが、あながち不合理でもなくて、実際に自分に非があったとしてもやっぱり困ったら国が助けてくれるというんです。周りも助けろ助けろというんですね。だから、何もしなくても助かるんです。
学校の耐震化というのは地方によって物すごくばらつきがあります。数年前にもう100%になっている自治体もたくさんあります。こういうところは国の補助を当てにしないで、ほかのことを切り詰めて子どもたちの命を守ってきた。ところが、その時何にもしないで、ボケッと何か別のことにお金をかけていた自治体のために、手厚い保護が数年前から始まっているんですね。そういうことを目の当たりにしている首長や議員は、「幾ら一生懸命やっても、最後は一番悪いところに揃う。率先してやっても意味がない」と思ってしまいます。国の人にいいたいのは、そういうモラルハザードを助長しないでくださいということですね。
もう1つは、「市民責任転嫁型」というのがあります。道路が必要だ、公民館が必要だ、学校が廃校なんてとんでもない、下水道も早く公共下水道をつけてくれ、これは全部市民がいったことだ。市民がいうとおりに、その要望にこたえて政治をするのが一番いい政治だ。その結果起きたんだから、責任は市民にあるんだ、こういういい方です。市民の皆さんとしてどう思われるでしょうか。
あと、もう1つあります。「聖域主張型」です。金がないのはわかった、何とかしないといけないのもわかった、でも、自分のところだけは別よ、図書館だけは別よ、図書館はこういう理由で必要だから、ほかは削ってもらって結構だけど、図書館だけ削らないでください、あるいは公民館だけ削らないでくださいという聖域を主張するタイプ。こういう人たちが非常に多くて、この話をしていてもらちが明かないなと思いました。

(図9)
その結果何が起きているか。これはマクロの財政の問題です。国と地方の負債のパーセンテージです。国と地方の負債の残高の総額と名目GDPの比率です。上に行けば行くほど悪いんですが、一目瞭然日本が一番悪い。この比率は、動いたとしても年間に数%ポイントしか動かない。5%ぐらい動けば相当いろいろなことが起きたということになります。この20年間に、OECDの国で10%以上悪化した実績が6回だけあります。そのうち1回は2008年のアイスランドの金融危機。金融立国を目指したアイスランド経済が崩壊した。それから、2009年のイギリス。イギリスも実は金融危機の対応に失敗して、労働党政権が崩壊し保守党政権にかわる。その前年の話です。残りの4回が全部日本です。OECDの中で断トツに悪いパフォーマンスを示しているのが日本なんです。昔からそうかというと、そんなことはありません。1993年の段階であればほかの国とそんなに変わりません。イタリアよりははるかにいい。昔はイタリアよりはいいぞと威張っていましたが、その後、バブル経済の崩壊の時の経済政策の打ち方を失敗した。大盤振る舞いをして、借金が増えたということです。ずっと増え続けましたが、1回だけ下向きの時があります。これが小泉構造改革の時です。小泉構造改革はいろいろな弊害もありますが、少なくとも借金を減らそうとして減らせたということで、我々国民としてはちゃんと評価してあげないといけないと思います。ほかの政権は何もしていない。

民主党政権も何だかんだいいながらできていませんが、この統計にはまだ反映されていません。戦犯はほとんど自民党です。自民党が今ごろ何をいっているんだいという感じが私はします。おまえのおかげで財政が悪化したんだぞと。震災の起きた時に機動的に動けるように平時における財政上の余裕をつくるのが政治家の大きな役割だと思います。バタバタやるのではなくて、「よし」と、こういうときこそ10兆円ボンと出せる、そういう準備をしていくことが政治家の役割だったにもかかわらず、全くそれをやってこなかった。国民もそれを望んでいなかった。非常時のファンドではなくて、目先の仕事、目先の金をくれと我々がいい続けたが故に、迎合的な政治が続いてこうなってしまったということです。これは大いに反省すべきだと思っています。もちろん自分自身も含めてです。
40歳代以上の人は皆戦犯だと思います。今日お見えの方の殆どはともに共犯です。若い人は上司のことは無視して、自分の世代がちゃんと生きていけるかどうか考えたほうがいいですね。この状態は持続できないと思います。早目に日本に見切りをつけてもいいかもしれないし、とにかく自分あるいは自分の子ども、孫のために何ができるか、是非若い世代の人には考えてもらいたい。また、40歳代以上の人は責任をちゃんととって一生懸命やってほしい。 


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