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フリーディスカッション

 先生ありがとうございました。私たち、2050年に80%の削減というのは懐疑的な数字ですが、先生のお話を伺いまして、身近な地下鉄の話、オフィスの中でも節電できる、削減できるようなものがたくさんあるように感じました。また、まちづくりでもいろんな事例を聞かせていただきまして、夢のようなお話ではなくて、そちらに向かって1つの希望ができたような気がいたしました。
それでは、皆様の中で先生にご質問のおありの方、どうぞお手をお上げください。

小林((財)日本環境衛生センター) 大変熱心な、貴重なご意見をいただきました。特に私は52ページの課題、これをこなすのは大変だなという認識を持っております。お聞きをしたいのは、低炭素社会というターゲットのほかに、まちづくり、都市づくりでは、高齢化社会にどう対応していくかという大きな課題を私は感じております。低炭素に焦点を絞っての体系づくりでいくのが適当なのか。それにもう少し何か膨らまして、複合的な視点から総合的な新しい都市づくりに進むのか、この辺に関心がありますが、先生のご意見がありましたら、お聞きしたいと思います。

小林 小林大先輩、ありがとうございます。私は福祉の方は専門でないので、触れてないだけですが、例えばコンパクトな都市で、先ほどLRTの話をしましたが、高齢者の方とっても移動の自由があるということを考えますと、なるべく駅に近いところにいて、社会的なサービスにも近いところ、例えば病院などにも行ける。あるいは孤独死なんかしないで済むような、そういう意味でいいますと、駅の周りで、戸建てだと大変かもしれませんが、ちゃんとエレベーターがついたビルにお住まいになれる仕組みは必要だと思います。
ですから、先ほどの富山のケースがありましたけれども、都市のコンパクト化は高齢者対応としてもいいのではないかと思います。富山市はそういうことはかなり意識されていました。郊外に老人がたくさん住んでいると、例えば救急車の出動、あるいはご本人のご苦労も大きいとか、そういう意味で高齢者対策として都市のコンパクト化、縮減というのはあり得るのかなという感じがしております。
ただ、私も自分の家に老人がいたので思うのですが、高齢者はエネルギーをたくさん使うんですね。省エネとか、エネルギーを無駄にすることを漏エネといいますが、老人の「老」の老エネというのがきっとあって、どうしてもエネルギーを使う。明日は冷房、今日は暖房みたいな世界で、自分で調節ができなくなってくるので、温度変化にすごく弱い。老人はエネルギーを使う。老人が戸建て住宅に住んでいるとエネルギー的にはふえていく可能性がある。戸建て住宅だとどうしてもヒートショック、つまり寒いところがあったりして、現状では、これもご案内のとおりですが、集合住宅と戸建て住宅を比べると救急車の出動回数も絶対的に戸建て住宅のほうが家内事故とかで多いですね。そういう意味で、むしろ老齢者の人には集合住宅に住んでいただいて、便利なところにいてくださるのが、ご本人にも、また社会的にもいいんじゃないかと思います。私は福祉のほうはあんまり得意じゃないので、自分の見聞きする範囲ではそんな感じがします。

河合(㈱竹中工務店) 今日は掛け算の考え方とかで、難しいと思われていたことも現実にそういうことで目標達成が可能だということを感じさせていただき、貴重な講義をありがとうございました。
1つ質問させていただきたいのは、生態系保存とかでも、ビオトープの話が出てきたりしましたし、バリアフリーもそうですが、経済的な効果がないと実行するのがなかなか難しくて、民間の企業活動としては利益や経済を目的として動いていますので、その辺のインセンティブがきかないと動かないというのがあります。行政のほうでは、予算を配分するのが仕事なので、財政のことを考えられている。金銭面のことがないと、現実に合意形成を図るのが難しいと思われます。先ほどの方がご指摘されたイメージに関係すると思うんですが、数値的に何かメリットを表に出して合意形成を図っていく視点があったら、補足でもう少し教えていただけないでしょうか。

小林 まず、経済性はすごく大事だと思います。環境にちゃんとお金が回ってくる仕組みをつくらないといけないなとは思っています。ただ、1つ、すごく反省して自分でも目からうろこと思っているのは、今回の原子力発電と太陽光発電ですが、原子力発電はキロワットアワーでいえば5円とか6円ぐらいで、太陽光だと四十何円かかるだろうといわれていて、太陽光発電はキロワットアワーで高いからよくない。安いといっていた原子力を使ってきたわけです。ところが、キロワットアワーの製造コストだけで、エネルギーとして見ていただけなんですね。例えば環境へのインパクトや災害が起きたときのインパクトというのは全く費用に入ってなかったわけです。
例え話をすれば、日本料理と中国料理をキロカロリーで比べるとか、炭水化物の量で比べるということで、味が違う、物が違うわけです。違う効果を持つものについて、ある1つの切り口だけで計算してコストと称していたのはすごくいけなかったと思いました。その魔術にこっちもひっかかっていた。本来は、社会的な費用を最小化する。私的に払った費用と社会的に払わなければいけない費用とを全体として最小化していくという視点が本当は必要だった。ところが、環境の費用は誰も計算してないので、私的な費用、とれる費用だけで意思決定がされて、こっちが安いということになった。そこはすごく反省します。最初の話に戻りますが、経済性を補っていく、本当の経済性が見えてくる仕組みをつくらないといけないなというのが今度のことです。
1つは環境税みたいなことで、化石燃料にはそれなりの税負担をしてもらうということで料金を上げる。そうすればかなり多くの開発が引き合うようになってきます。今、化石燃料の値段がどんどん上がっているのはご存じだと思います。どこに払っているかというと、結局、産油国か何かに払っているんですね。そのぐらいだったら、むしろ消費削減のために国内で投資して、産油国に払うお金が出ないようにするほうがずっといいと思うんです。
そういう意味での価格政策が現実的に必要ではないかと思います。ほうっておいたら、価格は恐らくどんどん上がってしまいます。価格が上がっても平気な体質に早くなるために強制的に投資をする。費用で取って、環境税の上がりを環境対策に投資する、財源にするということです。そういう仕組みがさらにあるといいのではないかと僕は前からずっと考えていました。環境省としては、私のほとんど1つのライフワークとして石の上に3年どころか、環境税の上に10年ぐらいいて、できないので、私が悪いのではないかと反省もしたりします。
いずれにしても、今回、石油石炭税の増税が、国会には出ているんですが、なかなか審議の順番が回ってきてこないので、通ってない。一時は復興財源も石油石炭税、つまり化石燃料課税でやったらいいではないかという議論もあって、結果として今回は所得税でいくということになったみたいです。本来原子力発電にシフトしちゃった理由をつくっているのは化石燃料なんですね。そういう意味で化石燃料に責任をとっていただくというのが1つあったのではないか思っています。一石二鳥だと思います。
一番ご提案申し上げたいのは、例えば環境税が入っていて、石油石炭税でもいいんですが、それで削減量を出したら必ず1トン幾らということで買い上げてもらえる。そういう仕組みが一番わかりやすいと思っています。国の財政制度の悪いところは、技術のメニュー制度になっているところですね。こういう技術を入れたら幾ら。例えば太陽光発電だと1キロワット5万円とか7万円とか知りませんが、そういう補助金なんですね。それなら、地中熱は幾らもらえるかといったら全然もらえなかったり、エコキュートはどうだったり、わけのわからないといってはいけないんだけど、公務員でなくなったので平気でいえば、役人をやっていてもよくわからない補助対象と補助率の設定なんですね。
それは役人がそんなに技術のことを知っているわけではないし、技術は進歩してしまうので、いかがかなということで、私の提案は、削減1トン当たり定額。例えば皆さんが環境改善事業、CO2削減事業をするとします、10年タームで、わかりませんが、50万トンCO2を削減しますといったら、50万トン掛ける単価の部分を例えば先にもらえる。もし削れなかったら返す。削り過ぎても国は上げないとか、そういう仕組みだってあると思うんです。
先ほどの都市改造のお金自体を全部ペイすることはできないと思うんです。CO2の値段は、CDMで外国で投資すれば今だとせいぜい1トン1000円ぐらいですかね。先ほどのプロジェクトで削った値段、計算している例でいうと、年4631トン、大体5000トン削れたとします。1000円もらったって大したことないですね。1トンが10年で1万円だとすると10年分でも5000万円。それでは、全然引き合わない。LRTをペイさせることはできないけれども、先ほど日本環境衛生センターの小林さんがおっしゃっていましたように、ほかの理由でやらなければいけない。いろいろな公益があってやる。その中でさらに環境の公益があるものにプラスアルファでできるということでもかなり違うと思うんです。その分、いい追加的な投資もできるかもしれない。
決してCO2削減のクレジットは国際的には高くない。それを国際相場でやるとすると大したお金は差し上げられないかと思うんですが、そうではなくて、途上国に投資するよりは、こんな勝ち馬なんだから10倍高くたって日本に投資しよう。これは政策ですから、そう思えばかなり意味のある、先ほどの5000万円が50億円になったりするわけです。それは判断だし、設計可能だと思う。一番いいのは、やり方は自由です、だけど、そうではなかった場合でも、削減したことについて1トン幾らというのを事業主体に上げますという仕組みはあるのかなと思っています。そんなことがすごくできたらいいなと、個人的にはそういうことを考えています。

 ほかにどなたかいらっしゃいますか。──よろしいですか。
それでは、先生、今日は貴重なお話をありがとうございました。(拍手)
以上をもちまして本日のフォーラムを終了させていただきます。
(了)

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