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(図5)
もう1つ大事なことは、先進国にとっては2050年50%カットではまずいんですね。まずいというのは変ですが、途上国の人はこれからまだ発展をしなければいけないので、途上国も50%カット、先進国も50%カットというわけにはいかない。功成り名を遂げた先進国のほうが余分に削って、その分を途上国に回してあげないと、世界としてはもたないということであります。本来、世界の排出量の半分は途上国になっていますから、途上国が100%になって、先進国が0になるというのでもいいんですが、それでは困るから、先進国のほうが一方的に、俺たちは80%削るから勘弁してくれといっているわけです。これはG8のサミットなどで共通の表現になっています。先進国は2050年は80%カット、これをどうやって達成するか。
環境省のほうで、大臣が、この間党首選に環境政策をメーンで出馬しそうになりました。すばらしいなと思っていましたら、途中でやめられました。小沢さんは、我慢でなく快適で豊かな暮らしを実現する中で温暖化対策を実施しよう、エコ投資みたいなことをもっと進めて、新たな成長の柱を温暖化対策でつくる必要があるということを去年の春にいっていました。その後、3月に震災があり、新しい成長、新しい暮らしを考えなければいけなくなったということは、単に温暖化対策の都合でいうということではなく、足元のリアリティがついたということもいえるのかなと思っております。
(図6)
では、CO280%カットになるとどうなるか。まずは現状の排出量を見ます。おなじみの絵だと思います。工場はだんだん減ってきて、今のところ90年に比べて13.0%に減っています。これを全体として50%、80%にしていかなければいけないということです。そうなると、工場は一番大きいですから、もっとやってもらうのは当然ですが、ほうっておけないのが、ずっと伸びてきてしまったビル。日建設計さんなんか得意なビルです。それから家庭の対策。この2つを合わせると実は工場ぐらいになっています。
(図7)
棒グラフで見てみますと、家庭と業務を合わせるとこんな数字です。工場と同じくらいの量になっているということがおわかりいただけるかと思います。工場は趨勢的に減らしていかなければいけないんですが、家庭と業務も減らしていかなければいけない。最終的に80%カットだったら、ものづくりのために、エネルギーやCO2を使うことになったら、ほかはゼロエミッションでいくということになる。こんなことが本当にできるのかということだと思います。
(図8)
私は当然環境の立場でありますし、環境省を基本的にやめていますから、かなり気楽に、やるべきだ、できるはずだとオルグする立場ですので、できると言わせていただきます。80%カットというと、大体皆さん、どこでも何でも80%カットしなければいけないと思ってしまう。それはできないだろうと思う。けれども、そうではなくて掛け算なんです。例えば省エネで半分する。そこに供給するエネルギーは今よりも倍ぐらい再生エネルギーをまぜる。CO2を計算するときは、エネルギー需要が幾らあって、それに供給されるエネルギーの炭素がどれだけ入っているかということで掛け算しますが、これで8割カットできます。半分半分でも75%カットになるということで、その相乗効果を発揮させることがポイントだと思っております。
「日立のエコは足し算だ」というのがありますが、「私のエコは掛け算だ」。別に商標登録はしていないし、日立さんに恨みはないですが、そういうのをやっていただいたら面白いと思っています。
いろいろな立場の違う人がうまく協力できると、努力は小さくて済むんですね。限界削減費用は、削減率が大きくなればなるほど逓増的にふえていってしまうわけですから、そういう意味でいえば安いお金でできる。あるいは同じお金を払うつもりならもっとできるということです。
しかし、言うのは簡単ですが、この掛け算を本当に成り立たせることができるのか、これがポイントになってくると思います。
(図9)
いろいろなケースがあるとは思います。そのために一番分かりやすいのは家ではないかと思うわけであります。自宅では自然エネルギーと先ほどの省エネがうまく出会うことができる。少ない消費エネルギーに絞っておいて、自分でつくっている再生エネルギーをそこに優先的に充てることが、目に見える形でできるのではないかということです。
そんなことに意義があるのかということですが、実は結構意義があります。ちょっと計算してみました。私の家は狭いんです。33坪ですから110平米。そこに1年間で降ってくるエネルギーを見ます。太陽の光や熱です。計算すると46万メガジュールぐらいになる。ところで、実際に家で使っているエネルギーはどれだけか。電気とガスの熱量計算をしたんですが、4.7万メガジュール。何とか万メガジュールといっても、私は文科系ですから、実感がわかないのですが、こうやってみると、10倍ぐらい、自然のエネルギーのほうが大きいということは分かります。だから、このエネルギーをうまくつかまえられれば、エネルギー自給、ゼロエミッションの家ができてしまうということです。
そんなことをいっても、もちろんそれは容易ではない。だって、今売っている太陽光発電は、最近のものは性能がいいですが、普通の市販のものだと14%~15%が変換効率です。うちのは古いですから、もっと性能が悪い。だから、家の敷地全部に太陽光発電を張れば自給できる。当然建築規制などいろいろありますので、家の敷地全部に太陽光発電を張るということはできない。だけど、かなりいいところまでは行くと思いますし、今後の技術進歩などもあるだろうと思います。
実は、環境省では、東工大の(ほやの)先生にお願いして研究をしました。街区の最適設計ということで、絵空事だったら幾らでも最適設計はできますが、そうではなくて、東京の本当の木密地区に実際に住んでいらっしゃる人がそのままその場所で暮らし、1人頭の床面積はむしろ増やす設計をします。そういう中で太陽熱をうまく使うように家の配置をしたり、なるべく冷熱ができるように緑を植えたり、現実の街区の中でやってみたんですが、やっぱり自給できましたね。実地にも恐らくうまくやればできると思います。もう少しの技術進歩でうまくいくと思います。それぐらいポテンシャルはある。
よく、原子力発電所1基分の太陽光発電をしようと思うと、山手線の内側全部を太陽光パネルにしなければいけないといわれます。私は検算したことはないんですが、例えば原子力発電所の稼働率をどのくらいに置いているか、太陽光パネルの変換効率と面積をどう見ているかなどです。しかし、家1軒は、別に原子力発電所が出す分の電力がどうしても必要というわけではない。大したエネルギーを使っているわけではございませんので、薄いといわれる密度の太陽光の力でもやっていけないことはないということは見てとれると思います。
それをやってみておもしろいので、雨ならどうかといって見たんですが、雨も110平米だと、雨量は年間1700ミリですから、大体190立米とれる。うちの水道の量を計算したら200立米だったので、これもほぼ均衡している。ですから、自然というのはばかにならない。もちろんビルを全部自然の力で動かせというと、そうはいかないと思いますけれども、家ぐらいだと、省エネをした上でのことですが、自然エネルギーで必要なエネルギーを賄うことも夢ではない。掛け算をここですることはできるのです。


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