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原田さんが2期目に出る立ち会い演説の原稿を書いているさなかに交代劇がありました。そこで新しい区長の政策をつくれという指示もやはり企画課長に来るんです。もともと原田さんの時の企画課長だったので、かえられるかなと思ったら、2009年の3月まで私は企画課長をやりました。今の区長の1期目の選挙、2期目の選挙、いずれも政策づくりを任されておりました。この企画課長時代が私は一番おもしろかった。今でもおもしろいですが、何でもできるという意味ではおもしろい時代でした。皆さんも、基礎自治体の企画課長と何か縁があれば是非仲よくなっておかれるといいと思います。その方は首長のあらゆる意向を聞いて、何を出力するかというのを常に考えている存在です。何かどこかの部門で頓挫しているような案件があれば、そこの門をたたくのは攻略の近道だと思います。
(図7)
テーゼの1つ目は、都市政策をともに担いたいということをお話しさせていただきます。政策というのは、私が基礎自治体でやってきた中からいうと、こういう定義になると思っております。社会変動は、人口が増える、減った、外国人労働者が入ってくる、子どもがあふれて保育園が満杯、高齢化が進んでお年寄りが悲惨な状態、さまざまあります。「社会変動から生まれる問題に関して、公共の責任で解決すべき課題を抽出して、対応策を集約した解決方針」と言えると思います。
私がここで言いたいことは「皆さんとともに都市政策を担う」というときに、何で民間が都市政策を担うのということです。私どもがよく使う言葉に「公民格差」という言葉があります。給料のことで、人事院が使う言葉です。これは正しくないと思います。そこにあるのは官民なんです。私は立場としては官です。
こういう考え方をしたいと思います。象徴的なものは病院でしょうか、あるいは看護師さん。私は、公的な責任を負ってそこに存在する民間セクターの方だと以前から思っています。立場が公立病院、国立病院、都立病院、市立病院であろうがなかろうが、彼女たち、彼らが担っている社会的な役割は私は公の役割だと信じて疑いません。
そういう意味で、公民といういい方は私は嫌いなんです。官民で、お互いイーブンの関係である。率の大小というのはあると思います。民間セクターは公共の仕事ばかりをやっているわけではありませんし、官のセクターでも民間取引、私経済活動というのはあるわけです。その度合いの多さ、少なさだと思っています。都市政策というのは、官も民も担うものなんだということをまずお話しさせていただきました。
(図8)
それから、もう1つ重要なお話をさせていただきます。そうした政策を担う仕組みは組織でやるわけです。どこの企業におかれましても、官庁においても組織があって政策をなし遂げていくわけですが、組織というのは、目標に対する勝敗。つまり成果の積み重ねで形成されている社会システムを組織というのだと私は思っています。負ける組織については見直しが行われ、勝つ組織については伸ばす。人も多くつける。これは官でも同じことが日夜行われ、官における行政改革、リストラはこうやって進んでいます。
スポーツの世界で1つとてもいい言葉があったので、紹介させていただきます。これはアメリカのバスケットのNBAのチームにオクラハマシティ・サンダーという非常に弱いチームがあったんですが、そこのGMの方の言葉です。組織にはこういう人が必要だという視点でお話しします。「進んで役割を担い、犠牲や責任を負える人」、ここが一番好きなんですが、「そしてすべては過程だということを理解している人を求めている。山や谷を共に乗り越えていくために」。彼は、こういう人間を内外から集めて、チームの立て直しに貢献したGMです。この間「マネーボール」というメジャーリーグ・ベースボールの映画もありましたが、これはNBAです。この方は今アメリカの寵児ですね。
「すべては過程だと理解している」。この瞬間、この瞬間に成果を上げなければいけないというのは人間誰しも思うことで、トップからもそういわれがちですが、ある場面では私も首長にいうことがあります。「区長、それはこの4年では無理でしょう」。言わなければいけない場面は皆さんでもありますよね。でも、10年後にやるんだったら、今ここを着手しておかないと危ないですよ、そういうアドバイスの仕方というのは組織人としてはありだと思います。そういう人を集めて勝ち続けていく。それが強固な組織なんだと思っています。
私は先ほど、まちづくりへの評価という話を少しさせていただいたわけですが、2年前の4月に街づくり支援部に来て、先ほど言ったような港区のまちづくりの評価はどうなのかと考えました。皆さんの業界でも、国際的な東京の地位がだんだん低下しているということを話されていると思いますが、2年前にはもう既に低下していたんでしょうか。そのただ中だったんだろうと思うんですが、いろいろな方と話をするにつけて、業界で戦犯探しをしているように私は思えてならなかったわけです。その戦犯は、多くの場合都市政策です。国土交通省が、東京都の都市整備局が、建設局が、あるいは港区、千代田区、中央区のまちづくり部門が、そのヘッドである副区長が、あるいは区長が、そういうことをいい合っているわけです。それって、不毛だと思いませんか。反省することは大切なんですが、そんなこといっている場合なのかなという気で、当時自分のまちづくりのセクターの地位を上げなければいけないなと思いながらもそんな思いに駆られたことを思い出します。 
(図9)
これは品川の駅です。リニアが入ってきます。品川はターミナルではありませんが、リニアはターミナルになっていく。品川はこういう街になっていく中で、東京都さんには申しわけないいい方になりますが、水再生センターを、最初90年かけて更新したいんだという話を港区に持ってこられました。今は少しテンポアップして60年ぐらいとなっています。それぐらいの速度でやりますよと。これから世界に冠たる大都市・東京のサウスゲートをつくろうとしているときに、そしてリニア新幹線のターミナルができようとしている都市の目の前にあるものが水再生センター。これを逆手にとって何かにするという手もあるしょうが、まずそこに何かの都市政策的な配慮、違う考え方はできないのだろうか。むしろ、誰が戦犯なのかをいい合うよりは、本当に都市政策ってこれでいいんだろうかということを話し合う、あなたの責任、私の責任ではなくて、そういう厳しい時代に来ているのではないかなと当時思ったものです。
一方で、2006年の森ビルさんのアジアビジネスパーソン意識調査の中では、アジアパシフィック地域でビジネスセンターとして東京の評価は、21%の方が評価していますが、この時、5年後には大きく下がるだろうという予測がされておりました。実際5年たった今、私どもが世界に胸を張れるレベルのものは、例えば公共交通の定時性、定刻に来るということ、世界でトップ500にラインナップされている大学の数が一番多いことなど、そういうことなんです。劣位にある指標は、皆さん耳にタコができていると思いますが、空港へのアクセス、税の負担、日常生活のコスト。これらが、例えば香港、ドバイ、ヨハネスブルク、トロントなどと比べて劣位にあるとされております。自然災害に至っては、当時も20位でしたが、3・11を経てさらに下位になっていると思われます。

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