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5.魅了する街 ~質を追求する街づくり~

(図29)
レジュメの終わりのほうになりますが、魅了するということを少し写真で紹介します。私は、オークランドの街に立ったときに、心が沸き立つわけです。ワーッと思う気持ち。これが、緑が何%あって、ここが空地でという理屈はあるのかもしれないけれども、五感を刺激する、感情を何とかするというのはこういうものなんだろうなという街でした。高い建物も当然あるわけですが、とてもきれいで快適な街並みです。
(図30)
その街では、交通機関すらも風景の一部になっています。東京の交通機関も、港区が動かしているコミュニティバスの「ちぃばす」も含めて、色とりどりになってきています。市バスもあれば、都営バスもあるわけですが、何だろう、このセンスの違いはと、皆さんも諸外国にいらして思うことが多いのではないでしょうか。こういう都市に溶け込むというか、本当に景観の一部になるものですね。景観というのはそこに止まって建っているものだけではないんだということが非常によくわかった瞬間なので、瞬間シャッターを押してしまいました。
(図31)
魅了するというのは事ほどさようなことだとすると、私は、東京の地位を高めていこうではないかということで、特定緊急整備地域の中で皆さんと一緒に仕事をするときに、心がけたいなと思うことが1つ、実際の立場からあります。それは「ココでしか逢えない」、そういう思いを持ってもらえる都市をつくりたいということです。
先ほどオタクのことをいいました。クールジャパンの話もしましたが、日本人は希少性とかレアモノ性、そういうこだわりの傾向が強くなってきています。そしてそのことがクールジャパンといういい方で世界から評価されるソフトコンテンツになっている。どこにでもあるんだけれども、ここにしかないというものがあるはずです。同じようなものはあるんだけれども、コレはここにしかないんだよ。もう1つは、本当にここにしかないということです。
そういうことについて、先ほどのパートナーの担い手の片方が求めるもの、活用する主体の方たちが求めるものはこうしたことへの貪欲性であると思います。その貪欲さにこたえていくことが街の質を高めていくことにつながっていく。そうであるならば、私たち提供サイド、それは官も民もないと思っています。1つの分野にしか詳しくないということは、これでは勝負にならないということです。オールラウンダーでなければ対応する提供主体としては力不足ということになるに違いありません。それは組織力でカバーするということになるでしょうか。最初に組織の話、人材の話もしましたが、そうした組織や人材でオールラウンダーたる法人をつくるということも、私たち官庁にとっても必要なことです。ある部門に行ったら、しゃくし定規な答えをされて帰っていくというのが役所のこれまでの性向だとすると、そこをインテークの場所にして、私の場でいうと、港区役所という庁内にある張りめぐらされたネットワークですべての需要を満たしていくような仕掛けができないだろうかというのが官である提供サイドにも求められるオールラウンダーの資質になると思います。皆様の会社では当然やっておられると思いますが、その力ぐあいはどうでしょうか。


6.勝者も敗者もない ~WinWinの街づくり~

(図32)
そして、最後に、評価まで行くんですが、私はそういう中で、特に「勝者と敗者」という言葉にこだわっています。スポーツが好きだということもありますが、スポーツになぞらえてWinWinの街とよくいいます。これはどういうことかというと、勝者と敗者がいない街なんだろうと思うわけです。排斥されないというような意味です。
隔離地区(ゲットー)というものがあります。かつてはナチスのそういう時代に負のイメージでつくられたものですが、日本人も、海外に何年も赴任していく時代になりました。そのときに、私の友人もそうですが、アメリカに行ったのに驚くほど英語ができないまま帰ってくる。恐らく彼らは、隔離はされてないけれども、会社の方針でゲットーを形成しているのではないかと思わざるを得ないような会社があります。1つは、生活者、在住者と在勤者、在勤者はビジネスマンと言ったとしますと、ビジネスマンだけで固まる街をゲットーと言ってみました。「そうするんですか」という問いかけです。1つは、ビジネス街に人は住んではいけないのかねということと、外国人はコミュニティで交わらないのかねという問題提起にもつながります。港区のような21万人が日本人、2万人が外国人、昼間人口は100万人で、多くの外国人もその中に働いているという極めてまれな都市で、こういう隔離政策をとるべきなんだろうかというのが大きな疑問に思っていることの1つです。
漠然とした言い方で恐縮ですが、これは改めなければいけないのではないかと思っています。なぜかというと、我々の欲求は、同じ人間なんだからそんなに違うんでしょうかということです。震災を経て、あの瞬間はみんな同じような価値観を築いたというわけですが、日常生活、居住生活と経済活動、日本人であることと外国人であること、欲求がそんなに違うんだろうかということです。同じ人間であって、手段の違いはあっても、欲求はそんなに違わないはずだという答えがそこにはあるはずです。それを求めていきたいなと思っています。
(図33)

それを称して、「勝者」や「敗者」という言い方をしてみました。都市に備わっていく、感動を与える分野を例示できるわけですが、例えば、事業所ビルで緊急電源の整備をされている大規模デベロッパーさんがいらっしゃいます。これは周辺のマンション居住者への安心につながることだということが今回確認されました。閉じられたものでないということの素晴らしさだと思っています。
これは海に面している私どもがよく感じることですが、港湾というのは、東京の場合港湾局が全部やっています。先ほど6区が海に面しているといいましたが、先ほどの3市ぐらいで川崎市と横浜市が協力して外貿、内貿をやる、そういうレベルになればもっと港湾も使いよくなるのになと思います。先ほど写真で見せたオークランドの海辺の街は、貿易機能も備えながらきれいなレストランがあって、ホテルが立ち並ぶ港湾エリアを十分使えている都市でした。もう少し港湾行政は飛び抜けられないものかな、そういうふうに思ったりします。港区でいいますと、全部物流になってしまっていますが、一部インターコンチネンタルホテルというのが竹芝にありまして、そこから汽船も出ています。あのエリアが少しお手本になるかもしれません。物流は東京湾の一番奥のところに持ってきて、処理する必要があるのかないのか、私もよくわかりませんが、政令指定都市になって、そういうところを住民目線で考えることもあってもいいのかなと思います。
インターナショナルスクールです。インターナショナルスクールは外国人の教育を行う現場としてのみ考えられていますが、それはそこの地域社会に一定の面積を占めて、地域社会の一員として活動する法人格を持ったものでもあります。インターナショナルスクールは地域社会の活性化にどう貢献できるだろうか。そういうインターナショナルスクールを誘致する。ゲットーをつくらない。そういう視点を持つことが、勝者も敗者も生まないものだと思います。 憩いの緑・防災広場、当然のことです。これは日比谷公園を見れば明らかです。
医療法上の病床というのは、東京23区は病床制限地域だというのは、医療関係の仕事をなさったことのある方ならばご存じだと思います。1ベッドも増やせません。港区のエリアは1ベッドも増やせません。そのことが本当に昼間働いている方たちの安全・安心につながっているんだろうかという視点も持たなければいけません。ビジネスマンの方は入院しないんだろうかと思うわけです。病床があって、そこから通勤することがあってもいいのかもしれません。そういう使い方は病院にはあるはずです。
いろいろ考えていくと、これ以外にもたくさん出てくると思いますが、WinWinの街というのは勝ちも負けもないんだ。ビジネスマンも、生活者も、外国人も、日本人もないんだという街を目指していきたいと思います。

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