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3.起こるべきコト ~劇場型都市の役割~

(図22)
さて、「都市で起こるべきコト」をこれからお話しするのですが、それに当たって都市の役割というものを考えてみます。都市で起こるべきコトのお話をする前に、震災の被災地を先々週見てまいりました。金曜の夜に立って、土曜日1日かけて見てきました。被災地、女川、石巻、東松島です。これは有名な倒壊してしまったビルです。まだこういう状態でそのままです。恐ろしかったのはここの水路です。ここは狭いんです。私どもは丘から撮っているんですが、これよりももっと上の山のほうまで車を走らせたんですが、そこも根こそぎ坊主になっていました。多分津波が来て、津波が水路で高くなって、恐ろしい効果で襲ってきたんだろうというのが実感できました。
(図23)
復興が進んでいるといわれています。海岸沿いはまだこんな状況です。臭いはしませんでした。当時は冷蔵庫が魚を所蔵して電気が切れて腐った臭いと家の中に挟まった人の死体の臭いで物すごい臭いを発していたと、案内をしてくれた国交省の職員は言っていました。今でもこうなんです。ここにあった女川の瓦れきは、街に積まれて、私が走った車の両わきに壁のようにありました。でも、地域からは、「東京から来たよ」といったら歓迎されました。東京が、いろいろ反対運動はありますが、いち早く女川の瓦れきの引き受けてくれたので、土地からは非常に友好的、好意的に受け入れられました。
(図24)
これが丘に上がった船です。海にあったものがここまで来て、これはモニュメントとして残すという人と、もう見たくないという市民と両方いるという話を聞きました。
(図25)
震災を経て、私もいろいろ考えることもありました。常に震災のことだけ都市は考えていればいいというわけではないですが、それはいつか来ることかもしれませんし、人の心にどういうものを残したのかということを無視してまちづくりをするわけにはいきません。震災の後、ライジング・サンなんていう言葉が世界でも使われ始めましたけれども、ライジング・サン、人の心を立ち上げるためには何をしたらいいのかということです。今日の劇場型というのはようやくここで話が出てきました。私が都市に担わせなければならない役割と思っておりますのは、震災だけではない。疲れたとき、それは仕事もそうでしょうし、スポーツもそうだし、学業もそうだし、あらゆることで人の心を感動でかき立てて、さあもう一度という心を起こさせるものでなくてはいけないだろうというのが都市という社会システムの果たさなければならない役割だと信じています。
(図26)
タイトルに「劇場型」という大向こう受けをねらった言葉を使いましたが、ウィキペディアなどで調べると、こういう解説が出ているわけです。「物事の進められ方が、あらかじめ決まっている台本に沿っているように巧妙に進展したり、関連する人々を魅了し圧倒するような演出に溢れている」。なるほどということです。一般的には劇場型犯罪とか劇場型政治という言葉で使われます。劇場型犯罪というのは、あたかも演劇の一部のような犯罪のことをいうわけですし、劇場型政治というのは、小泉さんが使った言葉ですが、自分と相手を敵味方に見立てて、大衆支持を得ようとする政治手法のこと。自分は大衆の味方ですよ、あの人は敵ですよ、こういう悪役と善玉、これが劇場といわれるゆえんです。
(図27)
先ほどいったように、都市にこういう機能があるというのは、ある種、提供する側の力量が試されることだろうと思っています。劇場型の都市をつくるには、こだわりがなければいけない、心根に何かを持っておく必要があると思っています。それは震災のときに感じた、あるいは疲れている都市生活者を何とか立ち直らせるための、鳩山由紀夫さんみたいですけれども、感動なんですね。人の心に働きかけて、心にさざ波を起こすことが感動だと私は思います。心にさざ波というのは怒りでもいいんですね。いつも楽しいことである必要はないです。泣いたっていいし、怒ったっていいわけです。その心の動きで、人間が、さあ次にと動くことがあるわけです。
そこで、劇場型の都市政策を定義すると、こういうことになります。役割を演じる場、私どもが官の立場でも提供するステージがあります。皆様がおつくりいただくような再開発、建物もあります。その場と、五感、そこにいる人たちを刺激する仕掛けを市民に用意するということです。そこで生活している人たちが演者だと見立てるとすると、その人たちの再生、復活、活性化を果たす、こういう仕掛けを用意するのが劇場型都市政策と呼びたいなと思っています。定義の端緒はここだと考えてください。

 

4.都市の担い手 ~パートナーを見定める街づくり~

(図28)
 
次に、そういう都市の中で担い手が当然出てくるわけです。区長は政策をいろいろ担っていく中でも、ステージを提供する役割と活用する役割、両方に目を向けるのが首長の役割、私ども基礎自治体の役割でもあると思っています。特に提供する側にとっては、多くの場合法人が登場します。法人は自治体も含みます。我々も法人格を持っている団体ですから。場所を提供する、場を提供する、土地を提供する、こういう形だろうと思います。会社で働いている方たち(在勤者)もステージを活用する主体にほかなりません。会社のために、自治体のために働いていても、活用する、行動するのは個人個人の行動によるわけです。担い手というのは大きく分けてこのように考えたといたします。
先ほどの人の感動を呼ぶということが劇場型都市政策だとすると、五感を刺激するには、質の高さが求められます。それはなぜかと申しますと、そこで演じて、生活している個人個人というのは、オタクの時代にふさわしく、こだわりを持って、非常にマニアックな方たちがそこにたくさん存在するわけです。趣味嗜好も多種多様だし、その深さ、例えば私がサッカーについてあれだけ語ったように、そこには通り一遍でいかないような欲求があります。その欲求を刺激して元気になってもらう仕掛けが都市だとすると、私たちはその潮流を押さえていく必要があると思います。トレンドですね。よくいわれることですが、クールジャパン、世界から注目されています。漫画などのコンテンツに代表されるソフトのパワー、飲食などの文化コンテンツ、歴史、こういうものにこだわりを持つ都市生活者が私たち提供する側と同じパートナーとなる担い手であるということを私たちは押さえていかなければいけないと思っています。

 

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