勉強会|計算社会科学研究の都市分野における展開


都市計画・まちづくり分野におけるデータ活用・分析に関する取組みをより先鋭化・多様化させるため、情報学・計算社会科学を専門とする東京大学大学院工学系研究科 特任講師の浅谷公威氏をお招きし、勉強会を開催しました。講演内容の概要をご紹介します。


開催日:2022年10月25日(火) 
場 所:日建設計総合研究所会議室 オンライン併用
講 師:東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任講師 浅谷 公威氏
聞き手:NSRI 主任研究員 吉本 憲生

〇計算社会科学とは

計算社会科学とは社会現象をコンピュータで扱う分野であり、人間が関わる活動全般や、その活動を規定する社会制度・アルゴリズム・交通網なども研究対象です。社会は多数の要素から構成されるシステムであり、要素の集合は要素の単なる足し合わせ以上の性質を持つため、社会現象の解釈や予測は難しいといえます。しかし近年では、様々な数理的・統計的手法が開発されており、その中でも複雑ネットワーク解析は幅広く用いられる手法です。

一般のネットワークによく観察される性質の一例として、スモールワールドとコミュニティがあります。世の中は、意外と少ない少数の人を介するだけであらゆる人とつながっているスモールワールドとして特質があります。また、身近な人との間で、より密な関係をつくるコミュニティの性質を持っています。

加えて、一部の人だけが関係者が多くフォローワーが多いスケールフリー性といった性質もあります。2000年間の都市における著名人の人流をトラッキングした結果、「出生地と死亡地、すなわち文化現象は一部の都市に集中する」という結果を導いた計算社会科学の論文が有名です。スケールメリットとして、都市人口サイズに対して、パテントの数、賃金の合計、歩行距離といったアウトプットは、スケール(集団のサイズ)に比例する以上に大きくなることが知られています。

このようなネットワークの概念を用いて、サイエンス・オブ・サイエンスの研究を行っています。例えば、論文数は時代とともに指数関数的に増加してきましたが、新しい用語数は線形的にしか増加しないとされています。どのように科学が発展し、新しいことが生まれているのかについて問題意識を持って研究を行っています。研究チームをどう作るかといったスケーリングの考え方が、アウトプットに関係してくることもわかってきました。

〇移動の解析

都市圏の各場所への移動量と感染者数の関係、コロナ渦中での移動の変化を分析しています。統計的に見て行先となる場所への移動回数のエントロピー(乱雑さ)が増加しています。コロナ禍により、目的地となっていた場所の脱中心化(多様性の増加)が見られました。また、ミクロな変化に着目すると、ロックダウンを契機にレギュラーな移動(同経路移動)が増え、その傾向が現在も定着していることも見られました。

コロナ前後の移動の解析から推測する行動変容として、マクロには移動の目的地が多様化する一方、個人の行動に着目すると移動はレギュラー化しているといえます。スケールの大きな都市が持っていたインタラクションの触媒としての機能低下といった問題や、移動データをミクロに観察することの重要性が示唆されました。

このように計算社会科学研究の活用により、都市計画・まちづくり分野での新たな取組みが生まれるのではと考えます。


講師プロフィール

浅谷公威 氏
東京大学工学部マテリアル工学科(学部)、工学系研究科システム創成学専攻(修士)、工学系研究科システム創成学専攻(博士)、現在は工学系研究科技術経営戦略学専攻、特任研究員、特任助教を経て2021年8月より特任講師。複雑ネットワークを専門とし、ソーシャルメディアの情報拡散や学術書誌情報解析の研究に従事。