勉強会|行動経済学の知見を活かした持続可能な都市づくり


脱炭素社会の実現をはじめ社会課題の解決に向けた取り組みをより先鋭化・多様化させるため、行動経済学を専門とする山根承子氏をお招きし、勉強会を開催しました。講演内容の概要をご紹介します。


開催日:2022年11月28日(月) 
講 師:パパラカ研究所 代表取締役社長 山根 承子氏
聞き手:NSRI 研究員 鶴見 隆太

〇行動経済学とは

リバタリアニズム(自由主義・放任主義)とパターナリズム(家長主義)と二つの考え方があります。完全に自由に選択させるべきだというのがリバタリアニズムで、本人から選択の自由を奪うのがパターナリズムです。この二つのどちらか一方に偏ることなく、選択の自由を残したうえでよりよいものに気づかせる誘導を「ナッジ」と呼びます。ナッジのポイントは、人の意思決定に関する様々な癖を利用し、よりよい選択ができるようにするところです。行動経済学とは、人間の思考の癖・パターンを知り、それらが社会にどのような影響を与えているかを研究している分野です。

「行動経済学で既存の経済学をぶっつぶす」という煽り文句を見ることがありますが、これはウソです。行動経済学は経済学をさらによくしようとするものです。従来の経済学は、複雑な社会現象をできるだけシンプルに捉えようとする学問です。シンプルにするあまり、ちょっと無理があるのでは、という仮定もあります。その一つが、合理的経済人(ホモ・エコノミクス)と呼ばれている仮定で、自分の利益だけを考える、強い自制心を持つなど、実際の私たちの性質とは異なっています。このような仮定を現実に合うように修正し、経済学の適用範囲をさらに広くしようとするのが行動経済学です。

〇ナッジの活用に向けて

行動経済学のエッセンスを解説し、これまでの研究成果を紹介しました。また、オフィスにおける脱炭素化の取り組み、公共交通の利用促進、都市計画における誘導方策などを例として、制度設計とナッジを分けて考えることやパーソナライズドナッジなど、ナッジの活用に向けたポイントや勘所を紹介しました。

本日紹介したのは行動経済学のごく一部です、さらに専門的な知識も含め、行動経済学の活用により、都市・環境・まちづくり分野での新たな取り組みが生まれるのではと考えます。


講師プロフィール

山根 承子(やまね・しょうこ) 氏
パパラカ研究所 代表取締役社長。博士(経済学)。専門は行動経済学。大阪大学経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。近畿大学経済学部准教授を経て独立。自治体や民間企業に行動経済学とデータ分析のコンサルティングを行っている。著書に『今日から使える行動経済学』『行動経済学入門』など。