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これが直接何の証明にもなりませんが、20年後、30年後の多田の意見は意外と当たるよという社内で1つの評価をいただいていましたので、もしかしたら本当にこうなるかもしれないという気持ちで、今日のお話の後半部分はお聞きいただきたいと思います。
もともとは大学の法学部を卒業しましたから、必ずしもまちづくりについて専門家ではありません。専門家ではないからこそ、素人考えで言える、あるいは直感的に考えたことが言葉に出てくる。事業をいろいろ経験したことから、こういう具合になるかもしれないと。幸せなことには、教授など、私には先輩がいません。あの先生の反対のことを言ってはいけないとか、あの先生に盾を突くことを言ってはならないということが全くなくて、非常に自由な立場で自分の考え方を語れる。皆さんはご経験ないかもしれもませんが、学者になってわかることは、自分が正しいということを必ずしも言えない人が多いということです。学者は非常に複雑なネットワークがありまして、こういうことを言いたいと思っても、あの人から援助をもらっているからそういうことは言ってはいけないとか、あの会社から研究費をいただいているから、そういうことは言わないようにしてほしいとか、ひじを抑えられて、口を封じられている方がたくさんいらっしゃいます。私は、誰からもそれほど援助もいただいておりませんので、比較的自由に物が言える、そういう気持ちで今日のお話をスタートさせたいと思います。
(図1)
「新たな時代を迎える東アジア」ということでお話を始めます。
(図2)
本日は、お暑い中、お集まりいただきましてありがとうございます。私は東京都市大学で教えていますが、今言いましたように、三井不動産で長い間コンサルティングもやっておりました。今日のお話は、1990年代の後半に福岡アイランドシティのコンサルを担当しましたが、その当時から考え始めたことも含めて、21世紀の東アジアの未来をお話しします。
初めて中国に行ったのは1993年です。それから19年が経過しています。その間の変貌は、戦後から今までの日本の変化をしのぐような変化だと思います。
(図3)
これからの時代を生きるには、もう一度アジア人の一員としてアジアと向き合う日本人、アジア人としての日本人の視点から物事を考えることを始めないといけない。産業革命から始まった欧米主導の世界経済のあり方が今大きく変わろうとしています。欧米主導というのは経済だけではなく情報も含まれます。皆さんが自分の考えだと思っておられる部分の何%かは、アメリカ人が日本人にこう考えてほしいと、ある意味で刷り込まれた教養の部分もあります。
アメリカあるいはヨーロッパは、厳しい奴隷制や人身売買をほんの数百年前までやっていたんです。それをベースに民主主義をつくっていた。今は常に自分たちは正しい、中国は野蛮だ、中国は異民族を圧政で抑えつけていると言っていますが、中国を寸断したり、インドを植民地支配してきたのは欧米人です。今からこれを反撃しろというのではなく、世界の情報をコントロールしている欧米人の考え方だけでこれからのアジアを考えないように努力していってほしいということです。
何はともあれ、再び世界の主役をアジアが担う時代に入りました。日本は幸いにも、「脱亜入欧」ということを旗印にして、明治維新以降アジアで最初に近代化に成功しました。これからはその経験をもう一度アジアに生かすために、アジアとの関係を見直して、正面から向き合うときが来たと思います。


1.新しい視点からアジアを見直す

(図4)
アジア初の近代化に成功した後、成熟に至った日本人の思考パターンを原点に戻ってつくり直す時期が来たということであります。日本人の成功体験が、西欧人でなくてもこういうことができるんだという事実を証明し、アジア人が経済発展を後から追いかけてくることができたということで意味がありましたが、日本人自体が欧米人の視点からアジアを見るという悪い癖からまだまだ脱却できていないと思います。今こそもう一度日本人はアジア人だという原点に戻って、近未来を考えてみたいと思います。
(図5)
中国人の礼儀作法は近代人としてまだまだ行き渡っていない。変なところでつばを吐いたり、変なところでトイレをしたりしてしまう。でも、私は戦後すぐの生まれですが、戦後の日本人もそれほど大したことはなかったわけですから、何十年の間にはそういうものはだんだん変わっていくものです。今の瞬間、中国人はどうだからといっても、10年も20年も30年もたてば、そういうことは変わっていく。日本人が体現してきたことはあり得ると見てほしいと思います。
今、世界は混乱しております。変な言い方ですが、ある意味で欧州があれだけ豊かで、アジアはなぜ豊かでなかったのか。この矛盾が今解消されつつある。欧州危機、欧州危機と言いますが、今も世界のGDPのトップ10の中で過半は欧米企業です。あれだけ資源もない国が世界の富の過半を占めていた時代もありましたが、今だってトップ10の何カ国はまだ欧州です。彼らの努力と世界制度をつくってきた利点を生かし切っている。逆に言えば、そういう時代が今少しずつ変わろうとしている中で日本はどういうふうに生きていくかということをクールに考えないといけない。アジアとの関係、ヨーロッパとの関係、アメリカとの関係を築き直すという気持ちで再構築の時代に入っている。日本に一番大事なのは、人口大国アジア各国との関係を強化して、アジア人と交流人口を増やしていくことです。
私も戦後生まれでありますから、ヨーロッパやアメリカにあこがれて、ディズニーランドに行けば楽しいし、ヨーロッパのファッションはカッコいい。文化という意味でもフランス語、ドイツ語、先進国といえば欧米でした。そういう時代の文化を圧倒的に吸収してきておりますから、こういうことを言いながらも、皆さんあるいは今の若い人も含めて、すぐに日本人が変わるとは思っておりません。しかし時代は圧倒的に中心がアジアに移っているということを何度も繰り返し自分に語りかけてアジアを見ていきたいと思います。

 


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