#02
都市のエネルギーモデリング

2023年6月19日

鶴見 隆太
研究員

課題解決のための都市エネルギーモデリング

都市に人が集まることで、人や企業の間の物理的な距離が小さくなり交流が生まれ、新しいアイデアやイノベーションが創出されやすくなることは多くの人が指摘しているところです(例えば、エドワードクレイザー著『都市は人類最高の発明である』やエンリコモレッティ著『年収は「住むところ」で決まる:雇用とイノベーションの都市経済学』等)。

一方、都市化の負の側面として、エネルギーの大量消費に伴う温室効果ガスの排出、大気汚染およびヒートアイランド化などが課題になることもあります。このような複雑化する都市課題を解決するひとつの方法として、3D都市モデルが世界中で活用されています。

我が国では、国土交通省が主導して3D都市モデル(PLATEAU)が整備されはじめており、都市空間の3次元情報が簡単に取得できるようになりつつあります。今回は都市課題の中でも「都市のエネルギー」に注目して、3次元情報を用いたシミュレーション技術により都市エネルギーモデリング(Urban building energy modeling; UBEM)にどのような技術革新が生まれているかを紹介します。

都市エネルギーモデリングの方法

都市部は世界のエネルギー消費量の約2/3を占めており、建築はその内の約40%という大きな割合を占めているという推計もあります 。エネルギーの視点から都市計画を最適化し、都市で消費されるエネルギーを適切に管理するために、シミュレーション技術を用いて都市のエネルギーをモデル化する手法が提案されています[1-3]。

都市のエネルギーのモデル化には、トップダウン的アプローチと、ボトムアップ的アプローチがあります。トップダウン的アプローチは、マクロ的な経済指標や公的統計データを用いてエネルギー消費量を予測するもので、広範なエリアの分析に用いられていますが、集計されたデータを用いるため解像度の高い分析は苦手としています。一方、ボトムアップ的アプローチは、都市を構成する個々の建物のエネルギー消費量をシミュレーションするため、計算が大変ですが、近年の3D都市モデルやPCの能力向上などの大きな技術的進展がみられ、2000年以降でいくつかの新しいツールが開発されています(図1)。

図1:ボトムアップアプローチの都市エネルギーモデリングツールの開発の歴史[1]

図1:ボトムアップアプローチの都市エネルギーモデリングツールの開発の歴史[1]

都市エネルギーモデリングの代表的事例|CityBES

代表的な事例として、米国エネルギー省のローレンス・バークレー国立研究所が2015年にリリースしたCityBESがあります[4]。CityBES は、Web ベースのプラットフォームで、地区または都市規模の建築ストックのエネルギーのモデリングと分析を行うことができます。CityBES は、建物のモデリングに3D都市モデルの国際標準規格であるCityGML を使用して、エネルギーのモデリングに、この分野で広く利用されているシミュレーションソフトであるEnergyPlus(米国エネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所が管理) を利用しています。

CityBESを使って、80以上の省エネ対策の初期投資額とエネルギーの計算が可能となっており、ディベロッパーや政策立案者による感度解析ができるようになっています。各建物は、竣工年と地域のエネルギー基準に基づき、断熱性能や設備システム・効率などが自動で推定されます。電気やガスに加えて水の消費量も分析可能で、光熱費から費用対効果や投資回収年数を算出することが可能です。

CityBESを利用したサンフランシスコの事例では940棟(総床面積:7,015,201 m2)の建物を分析しています。3D都市モデルを利用することで、対象建物周囲の7741棟の日陰の効果も加味されています。分析の結果により、照明のLED変更とエアエコノマイザー(既存の空調機に外気冷房の制御を付加)の投資対効果が高いことがわかりました。日陰を考慮しなかった場合は、考慮した場合と比較して電力消費量は5.7%(中央値)大きく評価されてしまうこともわかりました[4]。このように3D都市モデルを活用して、周辺建物を考慮することで、省エネルギー効果をより正しく評価することが可能になります。

図:CityBESの外観(出典:https://citybes.lbl.gov/)

図:CityBESの外観(出典:https://citybes.lbl.gov/

参考資料

1.         Martina Ferrando, Francesco Causone, Tianzhen Hong, Yixing Chen, Urban building energy modeling (UBEM) tools: A state-of-the-art review of bottom-up physics-based approaches, Sustainable Cities and Society, Volume 62, 2020, https://doi.org/10.1016/j.scs.2020.102408.

2.         James Keirstead, Mark Jennings, Aruna Sivakumar, A review of urban energy system models: Approaches, challenges and opportunities, Renewable and Sustainable Energy Reviews, Volume 16, https://doi.org/10.1016/j.rser.2012.02.047.

3.         Usman Ali, Mohammad Haris Shamsi, Cathal Hoare, Eleni Mangina, James O’Donnell, Review of urban building energy modeling (UBEM) approaches, methods and tools using qualitative and quantitative analysis, Energy and Buildings, Volume 246, 2021, 111073, https://doi.org/10.1016/j.enbuild.2021.111073.

4.         Yixing Chen, Tianzhen Hong, Mary Ann Piette, Automatic generation and simulation of urban building energy models based on city datasets for city-scale building retrofit analysis, Applied Energy, Volume 205, 2017, https://doi.org/10.1016/j.apenergy.2017.07.128.