No.110

2016年12月22日

VIEW 主任研究員 進藤 宏行 (しんどう ひろゆき)
省エネ、その先へ

「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下、省エネ法)は、石油危機を契機として、昭和54年に制定されました。工場、事業場、輸送、建築物及び機械器具についてのエネルギーの使用の合理化に関する措置などが定められており、工場等に係る措置においては、特定事業者・特定連鎖化事業者が約12,500事業者、年間エネルギー消費量の原油換算が1,500kL以上となる指定工場は約14,800工場(第一種・第二種)となっています(「工場」といっても事務所ビルなどの一般建築物も含まれます)。規制対象が大幅に拡大された平成20年の改正、電力平準化の概念が追加された平成25年の改正が記憶に新しい所ですが、業務部門における判断基準が新たなフェーズを迎えています。

本稿では、省エネ法のうち、工場等に係る措置における業務部門の判断基準に関する動向について紹介します。

乾いた雑巾

省エネ法の工場等に係る措置の判断基準には、「エネルギー消費原単位を年平均1%以上低減」という努力目標があり、3・11の震災後には、こうした目標を上回る積極的な取組により、多くの事業者が大幅な省エネを達成させました。
しかしながら、こうした取組を進めたことで建物の省エネは「乾いた雑巾」と称され、努力目標を維持することが困難なものとなり、省エネ取組を進めてきた優良事業者が、皮肉にも目標未達として適正に評価されないことが起こることとなりました。
また、「エネルギー消費原単位を年平均1%以上低減」は、運用の改善だけではなく、設備の高効率化などを含めての指標であり、新築の建物では後者による省エネが困難であり、多くの事業者が判断基準を達成させるために頭を悩ませています。

ベンチマークの導入(目標ライン設定)

努力目標だけでは適正に評価されない事業者が、適正に評価されるべく、新しい評価指標として、「業務部門におけるベンチマーク制度」の導入検討が進められています。ベンチマーク制度とは、事業者の省エネ状況を業種共通の指標を用いて評価し、各事業者が目標(目指すべき水準)の達成を目指して省エネ取組を進めるもので、産業部門では6業種10分野で既に導入済みとなっていた制度です。
「業務部門におけるベンチマーク制度」は平成26年から本格的に検討が開始されましたが、平成28年、コンビニエンスストア業においてベンチマーク制度が先行して施行されました。このように、業界団体と合意が得られた業種より順次審議されており、今年度(平成28年度)の審議で承認されると平成29年4月より制度開始、平成30年7月末の定期報告でベンチマークの報告を行うこととなります。

貸事務所業のベンチマークはどうなる?

ベンチマーク指標は、業種ごとに異なるものとなります(例えば、コンビニエンスストア業では売上高当たりの電気使用量)。業務部門におけるエネルギー消費の20%以上を占める貸事務所業では、テナントの活動量に影響されず、省エネ行動につながるものとして、今後の省エネポテンシャルの大小がベンチマーク指標として検討されています(本稿執筆時点)。省エネポテンシャルが小さいほど省エネが進んだ建物として評価される、つまり、これまで相当程度の省エネ取組を進めてきた「乾いた雑巾」や省エネに配慮して建設された新築建物が評価される指標ということです。
この省エネポテンシャルは、(一財)省エネルギーセンターにより開発されたECCT(業務用ビルのエネルギー消費目標値算定ツール)をもとに、ベンチマーク制度専用にツールを作成することとして検討が進められていますが、ツールへの入力負荷が課題として挙げられています。事業者が所有するすべての建物で省エネポテンシャルを算出するのか?といった点も含め、貸事務所業のベンチマーク指標は、その影響範囲の広さからも今後の動向に注視しなければなりません。

出典:ベンチマーク制度の概要について 平成28年11月 資源エネルギー庁省エネルギー課 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ(平成28年度第1回)

出典:ベンチマーク制度の概要について 平成28年11月 資源エネルギー庁省エネルギー課 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ(平成28年度第1回)

2030年に向けて

ベンチマーク制度の目指すべき指標は各業界での上位事業者1~2割が満たす水準とされており、事業者によっては高いハードルとなる場合があるかもしれません。また、指標は相対的なものなので、数年ごとに見直しが行われる可能性もありますが、平成28年度より開始した事業者クラス分け評価制度のSランク水準に「ベンチマーク目標達成」が加えられていることからも、事業者が目指すべき指標として大きな意義があるのではないかと思います。
平成27年7月にまとめられた「長期エネルギー需給見通し」では、再生可能エネルギーの大幅な導入とともに、徹底した省エネにより、2030年の最終エネルギー消費量を2013年度比で26%削減する方針が打ち出されました。省エネ法判断基準の達成に限らず、徹底した省エネを実践するにあたって、まずは今後の省エネポテンシャルを把握することは有効な手段といえます。本当に「乾いた雑巾」なのか、はたまたもう一滴が残っているのか、これからも私たちは知恵を絞り続けなければなりません。

出典:ベンチマーク制度の概要について 平成28年11月 資源エネルギー庁省エネルギー課 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ(平成28年度第1回)

出典:ベンチマーク制度の概要について 平成28年11月 資源エネルギー庁省エネルギー課 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ(平成28年度第1回)

2016.11.10 NSRI10周年記念トークイベントはとても刺激的なものでした

2016.11.10 NSRI10周年記念トークイベントはとても刺激的なものでした

筆者の紹介

主任研究員 進藤 宏行(しんどう ひろゆき)

[ 専門分野 ]
  • 複数建物のライフサイクルエネルギーマネジメント
  • 環境・エネルギーに関する計画・施策策定支援
     
    毎年、あまりピンとこないのですが、流行語大賞と今年の漢字が発表されると師走であることを実感します。2017年の干支は酉年(正確には丁酉(ひのととり))ですが、酉という字は酒つぼからきているそうで(「酒」はさんずいに酉)、「しぼる」→「収穫する」→「実る」ということで、酉年は商売繁盛につながる年といわれているそうです。
    2017年が知恵をしぼって実りある年(都市)となりますように。みなさま、よいお年を。