No.112

2017年03月02日

VIEW 主任研究員 田辺 慎吾(たなべ しんご)
「見える化」って重要なんです

近年、IoT(Internet of Things)におけるセンサネットワークにより、多くの機器・情報がインターネットに接続されています。それにより多種多様なデータが瞬時に収集され、世界全体で流通するデジタルデータ量は2年ごとに倍増しています。データ処理においても計算機能力が飛躍的に向上し、大量のデータが分析され、様々な分野において量・発生頻度・多様性を有するビッグデータの利活用が期待されています。エネルギー分野も例外ではありません。

平成27年に資源エネルギー庁が示した、2030年に向けた省エネルギー対策の全体像の中でも、IoT等を活用したエネルギーマネジメントの実現が掲げられ、現場における情報収集のためにスマートメーターやBEMS(Building Energy Management System)の導入促進が示されています。業務部門における省エネルギー対策の中では、2012年の普及率6%から2030年までに47%まで引き上げる見通しです。

本稿では、某商業施設の実例のデータ分析から見える、IoT等を活用したエネルギーマネジメントの課題と期待について紹介します。

商業施設のエネルギー消費量の「見える化」

これまでビル全体の合計エネルギー消費量の分析は、多くの建物で行われてきました。
今回紹介する建物では、300を超えるテナント個々の見える化を目的として、消費先別エネルギーが細かく計測されています。
テナント毎のエネルギー消費を統計的に処理された事例は少なく、不公平感のないエネルギー消費に対する課金や、無駄のないエネルギーの供給インフラの設計には、テナントエネルギー消費に対する多角的な分析が重要と考えます。 

 

計測システム図

図:計測システム

テナントの用途区分を物販・飲食・サービス部門と分類し、面積辺りのエネルギー消費量及びゴミ排出量を分析します。

物販店では一部のテナントを除き、消費エネルギーに大きな差はなく、消費の極めて大きなテナントは、温水負荷の比率が高い特徴がみられます。ゴミ排出量は、紙類の資源ごみの割合が大きいが、ゴミ排出量自体が飲食店舗に比べると非常に少なくなっています。

飲食店については、ばらつきが多くなっています。ガス消費量の割合が35%と大きく、上位10店平均ではさらにその比率が高まり54%となっています。ゴミ排出量は、一般ごみ(特に厨芥ゴミ)の割合が82%と高く、これらは通常焼却処理されるため、エネルギー消費削減の観点からも、今後はこれらの対処法について検討が必要です。

サービス店については、体験型ショールーム、コンビニエンスストアで、エネルギー消費量が大きくなっています。

図:エネルギー消費量・ゴミ排出量

図:エネルギー消費量・ゴミ排出量

消費先別のエネルギー消費量と来館客数との関係を分析すると、ガス・厨房用コンセントは、来館客数との相関が高く、その他の用途は来館客数に関わらずほぼ一定の消費量となっています。厨房を除く外気導入量は、在館人員に応じて外気供給量を削減させることにより、外調機(一般)ファンの省エネが可能であることが予想されます。

図:来館客数と消費先別のエネルギー消費量の関係

図:来館客数と消費先別のエネルギー消費量の関係

「見える化」の先に…

同一建物にあるテナントでもこれほどの差が見られるということは、立地条件や外気条件の異なる日本全国のテナントではさらに大きなばらつきが想定されます。エネルギー供給インフラや設備容量設計は、容量不足の不具合(クレーム)が発生しないことが優先されてきたため、「ほぼ全てのテナントが満たされること」を基本思想として、設備容量算定基準が設定されています。結果として、そのほとんどが過剰な設備容量となっている場合があります。

来館者数、時刻、季節に応じて、エネルギー消費量が変わるべき項目も本来あるはずですが、現状は一定値で運用されています。本商業施設では、外気供給量等の変更も行える仕様とはなっていますが、実態にそぐわない基準に対応するため、変更できていないのが実情です。

様々な用途・使用実態に合わせ変動できること、また変動させることでエネルギーの削減が見込め、課金にも大きく影響することを示すことが重要です。さらには大きな設備機器で低負荷運転することはエネルギーロスも大きく、きめ細やかな変動にも対応できません。これからの省エネには蓄積されたデータから見える適正容量・適正設計が求められ、結果大きな削減が期待されます。

筆者の紹介

主任研究員 田辺 慎吾(たなべ しんご)

[ 専門分野 ]
  • 環境・エネルギーに関する計画・施策策定支援
  • 環境配慮型施設の計画・設計
  • 空気調和システムの計画・設計 

寒い日が続き早起きが苦手ですが、数年に一度雪が積もりその日は早起きして子供と二人雪遊び。
次はいつかなぁと言いながら楽しみに待っています