No.86 シリーズ "2030年の都市の姿" 第10弾

2014年03月18日

VIEW 上席研究員 竹村 登
大都市近郊の「マイホーム」は2030年に生き残っているか

高齢化が急速に進む大都市近郊の住宅団地

 少子化による人口減少と超高齢社会は、2030年の都市を語る上で避けられない。2030年には、心身の衰えが目立つようになる後期高齢者(75歳以上)が全人口の2割近くに達し、その多くを占める団塊の世代(1947~1949年生まれ)はすでに80歳を迎えているころである。

 高度経済成長期には、団塊の世代が大都市の企業へ集団就職するなど、地方から都市部への人口の大規模な流入が生じ、その受け皿として大量の住宅の供給が大都市の郊外部で進められた。東京圏では東京都多摩地域など、都心から30~50km圏域で大量の住宅団地が建設された。これら東京近郊の自治体では、高齢者の急速な増加が進みつつある。とくに、郊外部の大規模な団地開発は、同一世代が一斉に入居する形態であるため、現在、局地的に一斉かつ急速に高齢化が進展している状況にある。
郊外部での住宅団地では2030年を待たず、大きな問題となりつつあることから、2030年の大都市近郊の住宅団地について考えたい

2030年の郊外戸建て住宅団地

 高齢化が顕著となりつつある住宅団地では、子供の独立や住宅の一次取得者(初めて住宅を購入する人)の都心回帰傾向等もあり、人口減少も始まりつつある。大規模な郊外型団地であれば、近隣センターといった小規模な商店街やスーパー等が立地し、住民の生活を支える拠点が整備されていた。しかし、人口減少や車利用を前提とした大規模店舗等の団地外での立地が進むなどにより、団地内の商業店舗は衰退し空き店舗が目立つようになってきた。車が自由に利用できない高齢者にとっては身近な商業施設の消滅は深刻な問題である。郊外の住宅団地は丘陵地に開発されたところも多く、高低差のある地形も高齢者の負担となり、入居当時は便利で憧れの「マイホーム」も、高齢者には住みにくい場所になっている。たとえば、八王子市(都心から30~40km圏)の戸建を中心とした住宅団地では、駅から遠い地区ほど高齢化が進んでいる。

 今後、駅から遠い住宅団地では、生活利便性の低下、空地・空き家の発生の恐れがあり、2030年の良好な住宅団地としての存続が危ぶまれる。UR(旧住宅公団)などの大規模住宅団地では、一部の建物の建替えや、空き店舗を活用したデイサービス拠点や託児所の設置などの住宅団地の再生も行われつつあるが、郊外で民間が分譲した戸建て住宅団地は、このようなリニューアルが進まない懸念がある。戸建て住宅団地は、UR等のオーナーが存在する賃貸住宅団地や分譲(区分所有)共同住宅とは異なり、個々の住宅や宅地を、その所有者の意思で建替えや処分できるものの、戸建住宅団地というエリアとしての管理や再生が進みづらい。空地や空き家の管理や公共的な空間の改善などの再生は、本来的に土地や建物を共有していない個々の所有者間には、エリアの再生を進めることについてのインセンティブが乏しく、その意思決定を行う仕組みも確立されていないことが指摘されている。

八王子市の町丁別高齢化率と大規模住宅団地の分布

昭和40~50年代に入居開始した住宅地の最寄駅からの距離と高齢化率(2010年)

郊外住宅地で世代交代が進むか

 高齢化が進み空地・空き家が発生している住宅団地でも、若い世代が入居する等による世代交代が進み、建替え等による再生が進めば2030年にも存続しているだろう。しかし、これらの住宅地は、地区計画等により最低敷地規模が定められているため一区画の土地の価格が高く、共同住宅の建築が規制されているなどで、若い世代が手軽に購入できず、住替えのハードルになっている。

 よって、若い世代は、これら住宅団地の縁辺部など、より価格の安いスプロール住宅地に住むことになる。これは、コンパクト・シティ化の流れに逆行することにもなる。また、2030年頃は、団塊の世代から、その子供世代への相続が発生するタイミングと思われる。独立して都心等に住まいを構えている子供世代が、定年退職を迎えるころでもあるが、果たして都心まで遠く生活利便性が劣る郊外の戸建住宅団地での世代交代が進むだろうか。

持続可能な住宅地とするために

 郊外の住宅団地が、良好な住環境を保ちつつ世代交代が進むことにより持続していくために、下図のようなプランを提案したい。公共交通を軸としたコンパクト・シティ化を目指し、最寄りの鉄道駅前では、生活利便施設や高齢者サービス等の集積による駅前の拠点性の強化と周辺住宅地との連絡を維持・強化する。駅から離れた住宅団地では、住宅や商店等の更新や公共的空間の維持管理が適切に行われ、若い世代を含め多世代に魅力のある住宅地とするとともに、新たなスプロールを抑制していく。

大都市圏郊外の住宅地再生

住替えを促進するための仕組み

 住替えや多様な世帯の居住を進めるためには、駅周辺の住宅地では、共同住宅等の供給を促進するとともに、駅遠住宅地では、定期借地等で若手ファミリーの手の届く価格帯で再供給したり、高齢者世帯が土地を売却し、利便性の高い駅周辺の高齢者向けマンションへ入居してもらう。このような仕組み、エリア・サービスを、地域の旅客需要の減少を食い止めたい鉄道会社等が中心に提供する等により、世代交代を進める。合わせて、都市計画・建築制限の柔軟な適用、住替えに対する税制優遇・補助制度等を充実させていく。また、戸建て住宅団地の魅力を再生産していくために、区分所有マンションの管理組合のような住宅所有者組合によるエリア・マネジメント等を進める。さらには、無秩序なスプロールを抑制し、長期的には全ての住宅地の維持は困難と思われることから、縮退(スマート・シュリンク)を進めていく必要があろう。