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3.11が起こった後、4月の初めまで、友人たちの消息が分からず、その後何とか無事でいるということがわかってからは、その人たち、あるいは原発災害で放射線量が高いところから遠くへ逃げなければいけない人たち、それも、数年といわず、数十年逃げなければならないだろう人たちの気持ちを思い、何とかその人たちが元いた土地の価値をもう一度見直すことができる、つまり、希望を失わないでいられる方法はないかといろいろ考えました。今日はそういうことも少しお話をさせていただきたいと思います。
(図1)
幾つか考えるべき課題がありますが、まず最初に、復習の意味も込めて、皆さんご存じの2050年問題を見ていただきたいと思います。
私たちは21世紀が始まる頃、1999年のUIAの北京大会で、グローカルアーキテクチャーという考えを提案しました。その頃から2050年の問題を提案するようになりました。特に2050年問題は、低炭素社会というテーマと同時に、日本の場合には、人口が縮減していくという問題、2050年には75%になるということをどう考えるのかということが大きなテーマであります。
これらについて、私は2007年から中央環境審議会の環境立国戦略部会の委員として議論をしてきました。それまで国は様々な政策を国の目線で国民に訴えるということをやってきたわけです。そういうやり方では国民のほうの実感として、あるいは自分から何か行動に移そうということはなかなか出来ないということもわかってきました。
そこで、その戦略会議の中では、これからは国ではなく、都市が、町が、自分たちの町の2050年を考える、あるいは低炭素社会をどうしたらいいのかということを考えなければならない。今、日本の国民はCO2を8.5トン/人年排出しているわけですが、それを1人当たり2トン/人年以下にしなくてはならないという命題があるわけです。そういうことをしっかりと考えるのは、都市でしかないのではないかということを提案しました。その時は環境理想都市という提案でしたが、これがその後環境モデル都市となり、現在は環境未来都市として幾つかの都市の環境政策に反映されてきております。
(図2)
簡単なおさらいですが、2100年頃に地球の生物が滅びていくというシナリオが幾つか描かれています。最初のシナリオは、2003年頃にイギリスの南極観測隊の科学者たちが発表したのですが、2100年頃にCO2が800ppmぐらいになると、二酸化炭素は基本的に最後は海に溶けていった結果、海のpHがアルカリ性から酸性に変わってしまう。そういう予測がされました。それによって、さまざまな生物が滅びていくということが1つのシナリオとして言われました。
第二のシナリオは、レスター・ブラウン氏が、2009年の正月にNHKのBS放送で発表しましたが、大変ショッキングな内容でした。2020年までに80%の削減をしないと、ヒマラヤの氷河が溶解し、これによって、中国の揚子江や黄河、インドシナではチャオプラヤ川、インドではインダス川、ガンジス川、それらの大河が大洪水を起こし、その後水不足から飢饉の状態になって、その周辺の人が飢餓の時代を迎える。これらに対しては、日本がパールハーバーを攻撃した後に、アメリカのルーズベルトが戒厳令を発して、すべての産業活動をストップし、軍事産業に変えるべきだと言って変えた。その戒厳令を今すぐに環境に対してやらなくてはならないというショッキングなレポートでした。これも地球が滅びていく一つのシナリオであります。
(図3)
IPCCが2007年に第4次の評価報告書を出しました。皆さんご存じのように、これまで7世紀からこの1300年間、ほとんど温度は変わっていなかったわけですが、それが産業革命以降急激に上がり、現在既に0.7度上がって、それが1.1度まで何もしないでも上がるというメカニズムが始まってしまっている。そのまま何もしなければ6.4度、800ppmまであがる。そういうことが2100年に起こる。これが1つのシナリオになっています。
(図4)
次の世界温度地図はそのときに出されたものです。上の図は2000年から2010年までの10年間の平均気温ですが、下の地図は2050年から10年間の平均気温です。北極やヒマラヤの極地、そういうところが非常に高くなっていることがわかります。さらに、IPCCの報告よりも、先ほどのレスター・ブラウンのように、氷河の減り方はさらに加速していて、ヒマラヤが圧倒的に加速しているという報告をその後受けています。これらに関して、日本の国立環境研究所その他は何のレポートも出しておりませんが、実際に調査している研究者たちに聞きますと、彼らもある程度把握していて、これに対しては、まだ自分たちの見解として何をどうすべきかということまでは言えない、ただし、そういうふうに速くなっていることは確かであるということを言っています。
(図5)
昨年起きましたタイの大洪水に対しても、1つはヒマラヤの氷河の話も一時期ありましたが、表向きはタイ東側のインド洋のダイポールモード現象という現象によって起こった水害であると言われています。
(図6)
次の図は先ほどお話ししましたpHが酸性化していくと、貝が溶けていくという状態を示しています。これは2005年のニューヨークタイムズが掲載したものを、毎日新聞で報告したものです。
(図7)
もう一方の問題は、人口の縮減の問題です。これが高齢化社会を生み、65歳以上の高齢者が全体の40%になります。国を支えていく、ケアしていく労働人口が52%に減っていくということですので、この52%が40%以上の高齢者を支えられるはずがありません。そういうことがこれからの大きなテーマとなっています。
(図8)
人口は現在横ばいになってきていますが、世帯はまだ増えていて、それによって家庭・業務部門のCO2の排出量はまだ増え続けているという状態であります。
(図9)
そこで、私たちが幾つかの議論をした結果、11項目の論点を出しました。それぞれの論点に対し各々研究をしていただきながら、全体を私が総括するという形でこれらをまとめていきました。これも少しずつお話をしたいと思います。

 

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