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 最初彼とは、日本に帰ってきたころにお会いしました。浪合村のむらづくりから一緒にかかわってもらって、高齢者の施設を考えてきました。その後、彼は仙台の南の白石で「けやきハウス」という小さなユニットのグループホームをつくり、鷹巣でグループホームをチェーンのようにつなげたユニットケアの施設をつくりました。それぞれ個人の尊厳を大事にするということで個室の施設と、MROという函館のトラピスト会がつくり上げた運営の方法を利用して、1つにしてユニットケアという考え方をつくり上げたわけです。
私もその後、高森で、まだユニットができる前でしたが、準ユニットケアとしてつくりました。それまでの特養の建物は、徘徊する人のためにグルグル中庭を回るような動線が当たり前だったのですが、現在は1人1人非常に丁寧な個人のケアをするようになり、1人1人の安定した状態が得られるようになっています。この施設は吉田一平さんという現在長久手市長となった人と、雑木林郷というコンセプトで、雑木林の街の復元再生を現在もやっています。宮脇昭さんたちと森を復元したり、いろいろな試みをしました。
本来は木造でつくりたかったのですが、特別養護老人ホームは木造の2階建ては設置基準で作れません。これに対しては、規制緩和の提案が1年に2回さくら提案ともみじ提案という機会があるのですが、私は、何回か規制緩和の提案を重ねた結果、現在検討中ですが、病院と同じように2階も可能になるという方向性が出されています。
簡単に言いますと、4つの問題があります。木造の上限が3000平米と決められていること。学校は2階建て、特養は1階、幼稚園も1階となっています。これは数字がひとり歩きしているだけで、何の緩和措置もありません。我々がつくるものは新しい木造ですから可能なんですが、そういうことも一切無視されています。これを何とかしたいと思っています。法律では可能になりましたが、国交省はこの法律が手ごわくて、嫌がっています。この間つくばで学校を燃やしました。あれはおかしい、すごく逆のPRをしているのではないか。やはり木造はやめたほうがいいと言わせたいための実験ではないかということを国交省の指導課の課長にお話ししています。もう1年で結論をだすから我慢してくれと言っていました。長谷見先生たちが今、避難の検証を考えるということをやっています。
このように木造都市をつくるという2050年の理想都市に対しては、大変壁が厚くて、それを少しずつ乗り越えるということを現在している状態です。
(図58)
このユニットケア施設は鉄骨ですが木質空間のエコ建築として設計しました。パッシブ型の環境基本性能を備え、地中熱ヒートポンプで再生可能エネルギーを利用し、地下ピットを利用して、排気空気と新鮮空気と熱交換をしています。7つぐらいの手法を取り入れた新しい環境建築をつくり、中はほとんど地場産材の三河の杉で木質空間としました。全て無塗装で、できるだけ材料の厚さを厚くした板を使おうとしたものです。
(図59

 

 

 

 

 

 

 


次に、七沢希望の丘初等学校のご説明をしたいと思います。これはリーフ賞というヨーロッパの先進建築家に贈られる賞を一昨年いただいたものです。さらに昨年、アルカシア賞を頂いています。なぜこういう小さな建築がそういう賞をもらえたかと言いますと、2050年の社会に対するサステイナブルな社会提案だからです。理念としてできるだけ小さな環境世界というお話をしました。ここは小さな里山の丘の上にありますので、これを1つの環境世界とみなせます。それから、東丹沢にある材料を使うということ。ここにも杉がありましたが、切った杉は中でほとんど使っています。周辺の丸太も使う。この地域の材料を使おうということです。
エネルギーも周辺の木チップをボイラーで燃やして暖房に利用します。空気も50メートル以上地中を通して地中の熱を利用して温められてきています。雨も土中に浸透させて外には出しません。都市のインフラを利用しないという考え方です。トイレの水も浄化の後もまた浸透させます。すべてこの敷地の中で自給自足をするという考え方です。
(図60) 
そういう基本的な環境の考え方と同時にユニークな教育方針との協同という点が評価されています。この学校の教育方針が、環境から学ぶ、自然から学ぶという考え方と同時に、子ども同士がお互いに役割を持ってコミュニティをつくるという共同性、連帯性というものがこの学校の特色、教育方針です。それをこの空間としてあらわそうということで、全体として1つの大きな家となり、その中にいろいろ小さなひだがたくさんある空間として設計しました。自然というのはそういうものですから、それに近い建築をどうつくれるかということを模索する。木があると、木を避けて次へ曲がって、また木にぶつかると左に右に曲がって、4回建物の平面は左右に曲がっています。そうすることによって、空間にうねりが生じたり、フラクタルな空間の表現ができてくることになると思います。
(図61)
全体に、グラウンドも、森をグラウンドとするということを主張しましたが、ゲームができるところだけはどうしても必要という文科省の指導で、小さなフットサルの500平米のグラウンドはつくりました。その他の2000平米は全部森で、森の中を子どもは駆け回るということになります。
(図62) 
新鮮空気を50m地中を通し、地中熱を利用して空気の温度を3度から7~8度温めて内部に導入しています。そして木チップボイラーで温めるという手法は先ほど話したとおりです。電気を使わないで、自然の採光で授業をしています。3時から4時まではこの状態で十分授業ができます。東側の教室は、下の杉の森からいいますと、約6メートルの高さにありますので、幹の中間のところが目の前にあるような、ある意味では光によっては非常におごそかな雰囲気もつくり出せる空間です。一部は中央の台地にくっついていますが、あとは空中に浮いているような建築が生まれたということです。

 

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