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(図50)
次の建物は、ホットニュースといいますか、できたばかりの港区の保健所の建物です。この建物も同じような考え方でつくられています。港区のものですから、先ほどの大学のようなラフな感じではなく、もっと重装備にはなっています。これは3つの保健所が1つに統合されるという区全体の保健行政のシナリオの中で生まれたものです。ここでも新しい計画論的手法が出来ました。まず、約9000平米ぐらいの要求条件がありました。そのためにこの敷地では間に合わず、隣の敷地も買うか、隣のJTの敷地に移るかと、2年間かかって、敷地を変えた計画案をつくりました。結果的にもとの敷地しか使えないということになりましたが、ここは7500平米しかつくれない場所なわけです。
この経験は環境建築にとって、非常に重要なことを示唆してくれているわけです。つまり、9000平米必要だと言われて、9000平米をつくるという設計のやり方に対して、ここでは9000平米は7500平米、約8割ぐらいに縮小することは可能なんだということです。9000平米つくってくださいと言われても、いろいろ議論していけば7000平米でもいいと言えるということです。そうしますと、そこで8割に落とせますので、全体でこの建物は44%のCO2削減をしようとしましたが、それに8掛けすると、56%の削減ができるということです。そういう意味では、先ほど言いました計画論、デザインの手法を、使う人たちと議論することによって縮小することができるということでもあります。
(図51)
さらに、ここでは建物の中心に空気を自然の力で動かすソーラーチムニーという大きな煙突のような筒があります。このソーラーチムニーによって、中のエネルギーフローがコントロールされています。これがそのチムニーを見上げた写真です。
もともと港区は吹き抜けは御法度になっています。吹き抜けをつくると、一番下の1階が寒い。今の港区役所がそうで、カウンターにいる女性がいつも寒いと言って、電気ストーブを中に仕込んでいるらしいです。このチムニーは吹き抜けとは言いませんで、エネルギーをコントロールする筒なんだということになっています。光もコントロールしますので、ジグザグの白いスタッコアンティコの壁が一番上からの光を反射させて、各階に光を導き入れるということにもなりました。
(図52)
私たちの仲間に善養寺幸子さんという女性建築家がいます。彼女が自分の子どもを学校に上げて、そこの学校の環境のひどさに、「とにかく学校の環境をよくしたい」と言って、環境省の提案募集に応募して、それが最優秀になりました。私もそれを応援していて、全国の座長をしています。今年でそれは終わりになりましたが、2001年頃から、全部で20カ所、学校エコ改修事業という素晴らしい事業を行いました。
一番大事なのは、それぞれの建物をエコ化、CO2を少なくする改修をしたというハードな意味の改修と同時に、そのプロセスの中で、地域の専門家たちを50人ぐらい、ある時は100人ぐらい集めて、環境教育を6回ぐらい行います。それにすべて皆勤した人だけがプロポーザルに参加することができて、そのうちから1人が選ばれるというプロセス。実際にその人が選ばれた後、その設計の中で子どもたちと環境教育をやっていく。それが親に伝わり、地域に環境の考え方が広まっていく手法です。私が事務局を行った長野県の高森町では、たくさんの家に緑のカーテンができるようになりました。
(図53)
これはその事業で私が設計した太田市の中央小学校です。ここでは教室が季節によって南側に行ったり、北側に移動したりするように、「衣替えする教室」を考えました。副校長先生がこのネーミングをしてくれました。ここでは暖房、冷房機械は一切使っておりません。右上の窓の外にある太陽熱給湯装置から直接、床暖房のパイプにお湯を導入して床暖房をするということをしています。実際にシミュレーションしてみると、年間に3日か4日だけ寒い時がありますが、その他はほとんど大丈夫だということで踏み切ったわけです。
(図54)
住宅について少しお話ししたいと思います。先ほどの話もそうですが、蓄熱という手法は、通産省系の機械ではありませんので、ほとんど一般に普及していませんが、実は大変効果的なものです。それをいろいろ見ていただきたいと思います。
これは葉山の小さな家ですが、ダイレクトゲインで1階の土間コンクリートに太陽熱が蓄熱されていきます。その蓄熱によって夜も暖かく暖房設備無しですんでいます。 
(図55)
この家は横浜ですが、居間の中央に黒い蓄熱壁(トロンプウォール)があり、この壁の中に太陽の熱が蓄えられていきます。これによって室内よりも常に2度~4度、この壁の温度は暖かい状態で、この部屋が非常にまろやかに暖められているということです。
(図56)
これは私のマンションです。マンションの改修で、ちょうど東南向きの部屋でしたので、その窓を木製のペアガラスサッシにして、床を全部蓄熱の石の床に変えました。これで朝6時ぐらいから10時~11時まで太陽熱が床を温めてくれていて、ほとんど暖房をつけることはありません。冬の間朝起きても大体20度を保っているという状態ですので、非常に断熱の効果は高いと言えます。
(図57)
次の事例は、愛知県の長久手にあります、「愛知たいようの杜」という特別養護老人ホーム、高齢者の施設です。そこでユニットケアを設計しました。
外山義先生という人がいらっしゃいました。彼はもともと厚労省の研究所の研究員でしたが、1983年ぐらいから7年間スウェーデンの王立工科大学で博士論文を書いていました。そこでスウェーデンの高齢者福祉をしっかり学んできて、それを日本に何とか持ち込もうとしました。

 


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