仮想現実とは?

バーチャルリアリティ(VR)とも呼ばれ、コンピューターの中に作られた仮想的な世界を、あたかも現実のように体験させる技術を指します。ユーザーがヘッドマウントディスプレイと呼ばれるゴーグル状のディスプレイを被ると、360°に立体の映像空間が表示され、あたかもその空間に入り込んだように感じることができます。
従来の技術では、映像や音声を駆使して視覚や聴覚に訴える方法でリアリティを高める工夫がなされてきましたが、振動や風、重力、香り、味などを仮想的に体感できる技術についても研究が進められており、技術の進展とともにその活用範囲は今後ますます広がっていくものと考えられます。

Biophilia(バイオフィリア)

Biophilia(バイオフィリア)とは「バイオ=生命、生き物、自然」と「フィリア=愛好、趣味」を合わせた造語で、1984年にアメリカの生物研究者であるEdward O. Wilsonにより提唱された「人には自然とのつながりを求める本能的欲求がある」という概念です。このバイオフィリアの概念を建築環境に活かしたデザインはバイオフィリックデザインと呼ばれ、バイオフィリックデザインを取り入れたオフィスでは執務者の生産性、創造性、幸福度が上昇することが多くの研究論文で報告されています。

仮想現実による自然環境への曝露がネガティブ感情を減少させる

Sharon Frost ら(2022)は、仮想現実による自然環境への曝露が心理的幸福に及ぼす影響に関する系統的レビューを行い、対象となった21の研究報告のうち多くの報告例でネガティブ感情の大幅な減少が報告されていることを示しました。自然による回復は集中力の回復、精神的疲労からの回復、魅力、興味、および内省によりもたらされ、気が散るような状況や、危険を感じるような環境では自然への曝露であっても回復には至りません。


出典:Sharon Frost et al., Virtual immersion in nature and psychological well-being: A systematic literature review, Journal of Environmental Psychology 80 (2022) より日建設計総合研究所が作成

360°VRによる屋外体験は生理的覚醒や回復力を高める

Matthew H.E.M Browningら(2020)は、仮想空間における屋外環境が精神的幸福に及ぼす影響を調査するため、リアルの屋外環境、リアルの室内環境、360°VRで再現された屋外環境それぞれに6分間曝露した前後の皮膚コンダクタンスレベル、回復力、気分を計測しました。その結果、リアルかVRかに関わらず屋外環境への曝露は生理的覚醒を高め、回復に寄与することを明らかにしました。ただし、ポジティブな気分レベルについてはリアルのみで上昇し、VRでは変化が見られませんでした。


出典:Matthew H.E.M. Browning et al., Can Simulated Nature Support Mental Health? Comparing Short, Single-Doses of 360-Degree Nature, frontiers in Psychology (2020) より日建設計総合研究所が翻訳

以上のように、バイオフィリアの効果は現実の建築空間のみならず仮想現実空間であっても存在することが複数のエビデンスにより示唆されています。わたしたちは、仮想現実の活用範囲が今後益々広がっていく中で、単なるエンターテインメントや生活空間としてだけでなく、環境品質の高い仮想現実空間のデザインが可能となるよう、エビデンスベースドな提言を続けていきます。


建築の環境価値BOOK

日建設計および日建設計総合研究所ではこれまで定量化が難しいとされてきた環境品質に関する価値を、国内外の研究論文からエビデンスとして分類・整理し、わかり易くまとめた「建築の環境価値BOOK」を公開しています。

https://www.nikken.co.jp/ja/news/news/2021_08_06.html