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(図16)
日比谷公園の特色は、幕の内弁当だと考えてきました。公園全体の時間による利用者数の推移グラフです。平日は午前中にピークが来る。すごく高いピークです。ところが、日曜日になると全く違う。ぐっと夜の方にに移動します。利用者の層や性格も変わるんです。霞が関、有楽町側はオフィスで、オフィスメンの利用があり、土曜・日曜は家族利用がある。日比谷公園にはとバスもとまり、観光の場でもありました。とにかく平日と日曜は大違い。空間を分けてみると全く違う利用があることがわかります。最初に申し上げたように、この公園は幕の内弁当ですから、いろんな場所があるが誰でも受け入れどんな人でも喜ばせ、みんなに満足を与えてくれる公園空間が多様で、利用も多様なのが日比谷公園だということです。
ベルサイユみたいに宮殿を中心にビスタを通す明快な形のほうが写真映りはいい。建築家も写真映りを先に考えるでしょう。デザインとは写真映り。そこまで言うといけませんが、そういう面もなくはない。近年は公園デザインでもそうなっている。いきなりドーンと大噴水を上げてみたりする。造園の基本は土地柄、場所柄、利用者を考えることなのに、どうも自分の作品だとデザイナーは考える。日比谷公園からデザイナーが学ぶべきは、さまざまな空間とそれぞれに似合った多様な利用があることですね。
(図17)
例えば単独利用。吉田修一さんが芥川賞をもらった『パークライフ』という小説があります。それは日比谷公園が舞台です。日比谷公園で、恋人もいない寂しい男が登場する。それは単独利用というんです。世の中、ひとりぼっちはたくさんいる。草食系もいる。そういう人は雲形池に面したベンチがいい。藤棚で覆われてとても落ちつく場所です。1人、ポツンといるのにはいいんです。誰かとコミュニケーションしなくてもいい。池と鶴の噴水とコミュニケーションすればいいわけです。ひとりぼっちの人には最高の場所ですね。もちろん時間帯はお昼で、深夜はだめです。
カップルはどうか。私の調査のころはアベックと呼びましたが、今はカップルです。カップルの場合はどういう場所か、どういう時間帯か。最もわかり易いのは第一花壇です。あそこは完全に四方が囲まれたある種のクローズドスペースです。ここが最も落ちつく場所です。しかも、四隅にベンチがあります。通過利用は曲線のところを通っていくので、邪魔にならない。そういうよどみ空間のようなところは滞在時間もすごく長い。カップルは相手がいるからもっと楽しい。時間帯は夜の8時を中心に10時。結構いい時間帯をそこで過ごしています。それから心字池の石垣の上もカップルには最良ですね。
家族連れは、草地ですね。先程動物舎があったと言いましたが、大きな草地で、戦後は麦畑になったり、イモ畑になったような場所です。今も時々、菊花展などをやりますが、あそこはフリーなんです。輪をつくろうと、グループで来ようと、何でもやれる。だから、家族連れとかグループはこの大きな草地がいいんです。施設は要りません。ただ空間があればいい。以上、ほんの1例です。ともかく私たちは結構細かく調査しているということだけは、覚えて置いていただければいい。(笑)

(図18)
 では公園の利用者は公園空間をどういうふうに捉えているか。イメージマップ法。これは小音楽堂。テニスコート。花壇。これが敷地全体だと思って考えてくれ、といろんな利用者にイメージ地図を描いてもらうんです。かなり細かく図書館、公会堂と描く人もいれば、いろいろです。多くの人は噴水だとわかる。イメージがそれぞれの人にあるにはある。その中で非常に強くイメージされるものは何か読み取っていくわけです。そうやって見ていきますと、日比谷公園でイメージが高いのは噴水広場ですね。第二花壇が整備され、噴水はドイツから輸入しました。
水のある空間は利用者にとってとても魅力的な空間です。水は景観上も大事です。イメージの高いものを拾うと噴水広場、第一花壇、第二花壇、小音楽堂、心字池ということになります。
 次、居心地のいい場所はと質問すると、第二花壇と噴水の周り、小音楽堂、第一花壇。好きな空間と、嫌な空間も調べました。浮浪者のいる位置と「×危険を感じる空間」は重なるようです。やや暗くて陰に当たるような部分が多い。また、「眺めがいいと感じる」をみると、石垣の上や第一花壇と噴水のところ。
 危険を感じるというのと、のぞきの分布も大体近い。のぞきの分布もちゃんと我々が調べたものです。(笑)何せ私達の研究室では、日比谷公園24時間調査をやりましたからね。そのためには、日比谷交番に届け出ておまわりさんと仲よくなりましたよ
公園考現学は結構事前の準備が大変なんです。ただ私は、マンウォチングはランドスケープのフィールドスタディとしてぴったりで教育法だと思っています。農大の造園学科では1年生に日比谷の1000分の1の図面を渡して、どの門から入って、どこのベンチで何分いて、どの門から出たか、公園で何をやっているか、尾行調査し、詳しく写真や地図に書き込ませさせました。ここにおられる何人かは尾行されているはずです。(笑)通過ルート。滞留した時間。そこに座って抱き合ったとか、パンを食べたとか、本を読んだとか、行動の種類をみんな書きこむ。それを3組以上やる。

 

 

 

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