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(図24)
最後に、日建設計総合研究所と一緒にやった研究をご紹介して終わりたいと思います。これからの話です。日比谷公園というのはいわゆる歴史公園ではない。歴史公園とは何かというと、例えば昔の風土記の丘や歴史そのものを素材にした公園という意味です。つまり、考古学や古い歴史を素材にした公園。これはあくまでテーマは歴史で、それを公園という入れ物に入れているだけです。私は、それを歴史的公園だと言いたい。日比谷は110年たった立派な歴史があります。公園の歴史そのものを自ら体現した空間です。これはしっかりと守られるべきです。その守るということの重要な公園として幾つかの歴史的公園をこれからか考えていくべきだと思っています。
ただ、都心に16ヘクタール(5万坪)あることの価値はあります。だから、ただ歴史だから残しておけというわけにいかない。この経済的価値、その地価を考えたら都民の財産としてどうあればいいかという議論はしなければいけないでしょう。
それから、公園と周辺開発の関係です。例えばニューヨークのセントラルパークはできてから大体5~6年で元を取っています。マンハッタンの北のほうにあるおよそニューヨークとしては大したことのない場所です。セントラルパークを造成すると、周囲の土地の利用価値が上昇します。公園ができることによって周りがよくなる。それによって地価が上がる、地価が上がると税金が高くなる。税収4~5年分でもう元を取りました。つまり公園をつくることの開発価値を知っておいていただきたいわけです。公園は区画整理なんかではどうしようもないから市役所にとられてしまう。減歩といって、ただ取られるんだと開発者は思う。でもそうではない。それがあることによってどんなに価値が上がるか。価値が上がるようにつくっていかなければいけないし、育てなければいけないとは思いますが、そういうことでもあります。
そこで、日比谷の場合です。歴史的公園としての日比谷を現代的にどうするか。今のままそっと保存するというプロテクションではないでしょう。やっぱりコンサベーションでいく。「公園のオーセンティシティ」と書きました。日比谷の日比谷らしさとは何か。これがオーセンティシティです。その真実性というものをちゃんと守りながら、利用もしていくということです。
(図25)
日比谷公園のオーセンティシティ。日比谷の構造、例えば大園路による地割りや、それぞれの空間の持つ特質、あるいは樹木そのものが110年たって立派に成長している。これは1本でも切らないようにしなければいけません。そういうことをやりながら使えるところはどこかということを考えていこうというわけです。
もう1つ公園にとって大事なことは周囲との関係です。私は、霞が関側の官庁街も、グランドフロアは本来はパブリックなものにすべきだと思います。今はゲートをつくって、どうでもいい守衛さんがたくさんいて、面倒くさいことをやらせていて、あれは本当にナンセンスですね。あれこそパブリックにして、外国人が来ても、そこが国交省なら国づくり、まちづくり、農水省なら日本の農業、そういうのものが展示されていて、情報機器も置いてある。ここに来れば日本の全てがわかるとなれば、もっと高度な観光スポットになるでしょう。都心というのはそういうものであるべきです。もちろんそこにおしゃれな喫茶店やレストランもあったらいいでしょう。
そういうふうに考えていくと、日比谷公園というのはある種の時間的座標軸だと思っているわけです。ここに100年前と変わらないものがあるということです。それが大事です。ビルや建物はどんどん変化していきます。変化する中に変化しないものがある。それは都市では河川や国分寺崖線とかの崖線。玉川上水。東京都の景観計画ではそれを私は景観基本軸という名前をつけて、そこはしっかり守ろうと言いました。私が委員長だったんです。そういうものが大事。皇居もそうです。そして日比谷もそうなんです。多分上野なんかもそうでしょう。
そして、周りとの関係を結んでいく。本当はこのあたりからデッキを通して、皇居外苑ともつなぐべきですね。都市計画上は全体が都市計画中央公園になっているわけですから、都市計画中央公園として日比谷から北の丸までをつないで、一連のものとしてこのオープンスペースを使えば、東京の都心はもっと楽しく、よくなるだろうと思っています。専らこちらの建物側だけの再開発が進められているんですが、ぜひ緑とのネットワークを忘れないでいただきたいと思っています。
(図26)
使える場所を探そうというわけです。
(図27)
日比谷公会堂の前の今の第二花壇の部分です。地下に道路公団がつくった駐車場がある。都心に駐車場がなくてダメだというのは一時期のもので、今はみんなどのビルも駐車場を内包していますから、不要なんです。そういう空間も活用しながら、オープンカットにした広場をつくって、いろいろなイベントもやれるようにしようという提案です。それであれば、ほかに影響を与えません。それから、日比谷通り側の柵をとって、楽しそうな喫茶店やレストランを入れていく、公園と有楽町側をつなぐという提案であります。
少し雑然としていたかもしれませんが、日比谷に一度ぜひお運びいただきたいことと、そういう目で見ていただきたい。緑の空間という言い方で単に木が生えているという価値しか皆さんは認めてくださらないんですが、私はそうではないと思っています。東京の新しいビルには新しいビルの価値があるでしょうが、逆に、歴史的、自然的な空間が持っている人を包み込むような温かさがここにあるだろうと思います。そういう味わいと、周辺の新しい空間開発によって生み出す価値があるので、お互いに役割分担をすることが必要ではないかと思います。
 私は、日比谷公園の本をまとめるに当たって、公園というものが余りにも表面的にしか理解されていない、その後ろに社会のさまざまなもの、例えば大都市最後の自由空間であるということを書いたりしました。それはホームレスの話です。カップルの話もそうです。そういうものはみんなおもしろ半分にしか捉えない。だけど、今日ここにおられる100人なら100人の中の3人はホームレス予備軍かもしれませんよ。そういうことを考えれば、その居場所は、地下鉄もダメですし、デパートもダメです。オープンな時間は全部認めます。だけど、必ず閉鎖して、ある時間から追い出すんです。追い出さないのは公園だけです。市民がうるさいことを言うから、ベンチに一々出っ張りみたいのを入れて寝られないようにしている。ベンチというのは1人分寝るにはちょうどいいんです。間に出っ張りをつくる。浮浪者の場合はそこにちゃんと段ボールを詰めて平らにします。そうすると公園管理者は金具を入れて邪魔しようとするというイタチごっこをやっている。

 

 

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