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1.持続可能社会が論じられる背景

2. 持続可能社会の2つの方向(先端技術型モデル/自然共生型モデル)

3.先端技術型の限界と自然共生型への転換

4.自然共生型モデルの必要条件

5. その実現シナリオ

6.実現のための課題

7.新たな社会への変革(技術/産業、社会/経済、価値観/倫理観)



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(図30)
国も全くそういうことを見捨ててきたわけではありません。総務省の緑の分権改革で言っていたのは、今までみたいに地方からヒト・モノ・カネを吸い上げて大都会が発展することで国が豊かになるというシナリオから、地域の中でそういうものが回るような仕組みをつくって、そこにヒト・モノ・カネがなるべく流れないようにしようではないか。そのことを「緑の分権改革」と呼んで、それをやるのなら地方にカネを流してあげようということを総務省は言ってきたわけです。これは、地方にいる者としてはすばらしいことだと思って、大歓迎した。
私がかかわっている滋賀県の東近江市がそのモデルになり、幾つかのところがそういうことで一生懸命頑張ろうとした。ところが、何故か、これを言い出した大臣がすぐおかわりになる。今でも旗をおろしてはいませんが、いっときほどの勢いは感じられなくなった。
このことを東京で日本を見ておられる人たちはどういうふうにお感じになるのかということです。これはいいことだと思われるのか。東京で是非ヒト・モノ・カネを吸い上げて、東京が豊かになることで日本が豊かになるのだという従来型のシナリオこそが正しいと思われるのか。それは、本当に真剣な議論をするぎりぎりのところに来ていると思います。
このまま10年放っておいたら、地方は本当に消滅していきます。それでも日本は大丈夫か。そうかもしれません。私は、それは1つのシナリオとしてあり得ると思いますが、そう決めたのか尋ねてみたいです。それだったら、地方でシコシコ何かはかない努力をしているよりも、全部優秀なヒト・モノ・カネを東京に思い切ってつぎ込んで、頑張って、世界に伍して、前原さんの言うように世界に冠たる貿易立国にもう一遍打って出るというシナリオに協力したいと思います。

 

6.実現のための課題

(図31)
けれども、今、地方ではとにかく地域内で循環経済をやろうということを一生懸命やっているわけです。
循環経済というのは何かということですが、少し計算したらすぐわかります。地方から表へ出ていっているカネは膨大なものであります。普通、地方の場合は一般会計予算に匹敵する電気代が各家庭から出ていっている。それだけ電気を使って豊かに暮らしているわけです。特に地方のほうが電気はたくさん使っている面があります。その分は、全部電気代として地域経済の外へ出ていく。これが自然エネルギーで取り戻せるのではないかというのが、今、地方の大きな夢です。ソーラー発電を、今、地方が熱心にやろうとしているのは、自分たちの地域で起こした電気エネルギーを自分たちの富として取り戻したいというシナリオがあります。
ところが、メガソーラーみたいなものは、どんどん外からやってくるのです。土地を大きく買い占めて、ないしは借り上げて、そこでメガソーラーでやろうという話になる。日本全体としては、どっちにしたって自然エネルギーが発展するわけですから悪い話ではなさそうなのですが、地域から見たら、地域に降り注いでくるエネルギーが、巨大産業に吸い上げられて、結局東京へ持っていかれるのかという話になって、すごい抵抗感があるわけです。
だから、みんなでささやかなカネを集めて、自分たちで発電して、それを自分たちの地域商品券で取り戻そうということを、先ほどの緑の分権改革の1つの手段で始めていますが、孫さんがメガソーラーをやってあげようと言って来られたら、それはもう規模が違いますから、なかなかその辺は思ったようにはいきません。
地方から外へカネが吸い上げられる例としては、例えば地方は高等教育が全然ありませんので、みんな高校を出たら、優秀な子は全部都会へ出ていく。そうすると、それに田舎の人が大根を1本売って何十円か稼いだカネをためて子どもに仕送りするわけです。昔は、年間百数十万円を送っていたのですが、今はだんだん厳しくなって70万~80万円に下がっています。それにしても1人年間100万円近いカネを仕送りするわけです。だから、東京には、大学生を何十万人か、何百万人かは知りませんが、1人当たり100万円がほとんど東京に落ちるわけです。地方のじっちゃん、ばっちゃんが一生懸命野菜をつくってわずかに稼いだカネを全部つぎ込んでいるわけです。その子が育ったら、帰ってくるかといったら、「いや、帰ったって仕事があらへんやないか」と言って、できのいいのも悪いのもそろって東京で何とか職を探そうとする。このごろは大分厳しくなってきているようですが、それでも帰ってこない。どんどん若年人口は減る。老齢化している地方を誰が支えるのだ。「支えるんだといったって、自分らが全部カネつけて東京へ送り出したやないか」と言うのですが、それはそうせざるを得なかった。
したがって、私は、高等教育を地方にということで淡路の南の端っこに私立大学に来てもらって、地域創成農学部を4月から立ち上げてもらうことになっています。たまたま話がうまくいって、今準備をしている。できたら、逆に都会から農業で地域を再生する意欲のある子をそこへ引っ張ってこよう。南淡路は農地がたくさんあります。そこを使ってくれるならどうぞと。新しい起業をしたらどうかということとか、卒業した子どもたちにどういうファンドを用意するかというところまで、そんなことも全部今から考えておかないといけないのです。
それで市民のカネを集める。特にじっちゃん、ばっちゃんは結構カネを持っている。日本中の富のかなりの部分を60歳、70歳、80歳が抱え込んでいるのです。老後のためと言って手放さない。何故んなにカネを持っていたかというと、先ほどの石油のおかけです。我々の世代は、だーっと伸びたときにみんなアブクゼニを稼いだわけです。何でこんなに給料が上がるのかというぐらいです。私は公務員だったから、そんなものは桁が知れていますが、民間の鉄鋼会社へ行った友人なんか、物すごかった。私の給料を聞いて、「そんな、おまえ、税金分の話ししておるのちゃうか」とか言うんです。それぐらい彼らはすごかった。それを全部今抱えて、何かといったら、「ゴルフ、行こうか」とか、「温泉、行こうか」とか、「ヨーロッパ旅行はどうや」とかいう誘いがいっぱいかかってくるのです。


 

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