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1.持続可能社会が論じられる背景

2. 持続可能社会の2つの方向(先端技術型モデル/自然共生型モデル)

3.先端技術型の限界と自然共生型への転換

4.自然共生型モデルの必要条件

5. その実現シナリオ

6.実現のための課題

7.新たな社会への変革(技術/産業、社会/経済、価値観/倫理観)



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(図19)
けれども体規模なインフラに頼っていれば、3年とか5年はほとんど垂れ流しにならざるを得ない。現に今、表現は非常に難しくて垂れ流しとは言えませんが、かなり簡易な処理で、ためて、そこで処理するだけで海に放流されているようでありますから、これは水処理の歴史、排水処理の歴史から言ったら、相当先祖返りになっているわけです。でも、これは数年はやむを得ない。
これは海がそばにある東北地方だから可能ですが、私は滋賀県で琵琶湖を相手にしていますから、滋賀県やその周辺でこんなことが起こって、とりあえず琵琶湖に流そうかなんていうことになったら、もう数日で琵琶湖は完全にお手上げになります。関東の方は余りご存じないかもしれませんが、琵琶湖は近畿1400万人を超える人の飲料水を支えています。滋賀県はもちろんのこと、京都、大阪、兵庫県まで、もっと言えば兵庫県の淡路島まで琵琶湖の水が行っているという巨大な給水システムになっているのです。この水源にもし何かあったら、閉鎖水域ですから、全部琵琶湖に流れ込みます。私は立場上責任がありますので、こういう震災が起こって琵琶湖が助かるかと言われたら、かなり深刻だと思います。起こらないことを祈るのみです。
(図20)
だから、いざという時に、ロバストというのですか、しなやかな仕組みも並行してつくっておかないと非常に危ないと思う。
これは家庭の浄化槽や、コミュニティースケールの浄化槽のことです。これからの技術のあり方は、自立・分散型も並行して本気に考えておくべきだと思う。
(図21)
滋賀県の巨大な流域下水道が琵琶湖を取り巻いて、琵琶湖を助けているわけです。実は、その設計を私が建設省当時に頼まれてやったという噂が流れた。計算のお手伝いをしたことは事実ですが、そんな大層なことはしていません。それで、私が滋賀県の知事と話していたら二言目には、「あんたがこんなものをつくったのだから、大変なことになっている。すごい赤字を抱えているから」で始まって、「もし地震でも起きて、あれが崩壊したらどうするんだ」ということです。「崩壊しないまでももうそろそろ寿命が来ます。これだけの巨大なものを、国が全面的にやってくれれば別だけれども、県としてつくり直すなんてことはほとんど不可能だ。どうしてくれるんだ」ということですね。
それはもう滋賀県が言わなくたって、日本中のこういう流域下水道に並行して上水道、それから道路など、いろいろなインフラにそろそろ寿命が来ます。大々的に手直しするとしたらどれだけの巨額な再生費が要るのかということを考えただけでもなかなか恐ろしい。国としてはどうお考えになっているのか。「地方はもうお手上げですよ」と知事が言っているので、多分、そういうことなのでしょう。
ということで、ここまでの話としては一段落です。先程申し上げたように、多少効率が悪くても地域で自立・分散するような安定な仕組み、そういうものに変えていこうという動きがあちこちで起こっていることは確かです。

4.自然共生型モデルの必要条件

(図22)
それともう1つ。自立・分散を助けるものとして必要なのはエネルギーですね。原子力から自然エネルギーにかわろうというのは、日本としてもやむを得ないということでどんどんいっているわけです。
自然エネルギーの特性を改めて考えてみると、一言で言えばエネルギー密度が非常に低いので、大規模集中型のエネルギーシステムをつくることは、基本的には難しい。小規模分散型になる。
(図23)
したがって、結局、大規模集中型の地域構造はほとんど難しくなります。薄いエネルギーを上手に使った構造をつくらないといけない。もう一方では、誰もがエネルギーの生産者になり得るということです。
(図24)
これからは、結局、ローテク化にならざるを得ないのではないか。自然エネルギーでハイテクや、自然エネルギーでトヨタのハイブリッドを100万台つくりますということは、ちょっと考えにくい。地域分散になると、技術水準は社会の規模にディペンドしていますから、そういうことにならざるを得ないだろう。技術も必然的にローテク化していくということで、これはまさにシューマッハの言ったSmall is beautifulの世界に近づくわけです。この辺をどう考えるか。
(図25)
ですから、産業の軽装備化が起こるのではないか。したがって、巨大なメガバンクが支えなくても、地域の金融機関、「地元の信用金庫」が調達できるような資金でエネルギーシステムもでき上がるし、それに支えられた産業の構造ができるのではないかというのが一部の人の予測であります。この辺をどう考えるかですね。
(図26)
したがって、労働形態も大きな株式会社はかなり減少して、それにかわるものとして、みずからが小さい事業を起こしていくというものにいく可能性があるということです。自然エネルギーは、そういう1つの特性を持っている。
どんな技術を開発するかということばかりが日本では議論になります。買取価格がどうのだとか、そんなことしたら不経済だのというような話ばかりがどんどんいっています。しかし、いずれ自然エネルギーにいかざるを得ないとして、それがつくり出す社会はかなり今までと違う。産業形態、技術レベル、それから働き方までひょっとしたら変わるかもしれない。



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