デジタル・テクノロジーと都市の変容

技術革新などにより、私たちを取り巻く環境は日々変化しています。
デジタルイノベーションにより未来都市は変わるのか、研究に基づく提言を発信していきます。

#03
“The City as an Entertainment Machine“

2022年10月20日

松縄 暢

研究員

「都市を成長させるドライバー(原動力)は何か。」
都市経済学、経済地理学の分野では、長年この問いに関して研究が積み重ねられてきました。第二次産業が主流の時代には、生産拠点である工場が都市の中心に据えられ、その周囲に労働者の住宅や商業施設が立地するという想定がされていました。しかし、近年では都市の成長のドライバーは、そういった「生産拠点」ではなく、リチャード・フロリダの指摘するようなクリエイティブ・クラス(創造的階級)などのある属性を持った「人」に着目されるようになり、さらにはそういった人々を惹きつける「受け皿としての都市」は一体どんな魅力を持っているか、という議論へと展開していきます。

コロナ禍を経た現在、人々の都市を見る目はさらに変化しています。デジタル化の進展により、仕事と生活のほぼ全てが自宅で完結できるようになり、脱工業化後の生産拠点としてのオフィスはその存在意義が問われるようになりました。同時に、大半の時間を過ごす自宅やその周辺環境といった「生活拠点」の重要性が再認識されてきています。

様々なテクノロジーによって、元来、都市部の大きな強みであった「高いコミュニケーション効率」が郊外部でも地方部でも変わらず享受できるようになりつつある今、果たして、私たちは都市に何を求めて集まってきているのでしょう。社会学者であるクラーク教授は、『The City as an Entertainment Machine』の中で、広い意味での「アメニティ」(もしくは「娯楽」)の重要性を説きました。ここでいうアメニティとは、美味しいと評判のレストランであり、新鮮な空気を吸える公園であり、新たな感覚と出会える美術館であり、心躍るイベントであり、ほっと一息つけるカフェでもあります。こうしたアメニティ群、そしてその消費を通じた多様な都市体験がどれだけ豊富に存在しているか。その存在こそが、人々を都市に惹きつけ、都市の成長をドライブする鍵だというのです。

自宅周辺の「生活拠点」で都市生活の時間の多くを費やすようになった現代の私たちにとっては、そこでの日常を豊かに彩る「アメニティ」の存在が、都市を見る・選ぶ上で極めて重要な要素になってきていると考えられます。


 
 



参考
1) Florida, R. (2002).「Bohemia and Economic Geography」『Journal of Economic Geography』, 2, 55–71
2) Clark, T.N. (2003).「The City as an Entertainment Machine」『Research in Urban Policy』, 9
3) 清水千弘・馬塲弘樹・川除隆広・松縄暢(2020) .「Walkability と不動産価値: Walkability Index の開発」『CSIS Discussion Paper』, No.163